匣舟
2026-01-25 20:59:02
14281文字
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ぼくらふたりでひとつの一等星

箱根駅伝に感化されて書いた三乱の加筆修正版です。トンデモ設定が多数あります。広い心で読んでください!


え、箱根駅伝の走者がいないですか?」
うん、二年の嘉瀬くんが故障しちゃったみたいでさ、ウチ少数精鋭だろ?だから走る人がいなくてさ、危機ってわけ。」
 全日本大学駅伝が終わった十一月の初旬、箱根駅伝三連覇がかかっている大川大学陸上競技部では度重なる故障者を排出したことによって箱根駅伝への出場が危ぶまれていた。
 大川大学という大学はほとんどの大学が推薦やAO入試、そして一般入試などの選定方法で学生を募るのに対して、大川大学は大学から選ばれた者しか入れないというこのご時世に大変珍しい選定方法で学生を募っている大学である。
 選定方法は大川大学に選ばれて入った三治郎にもよく分かっていないが、三治郎は小中高と陸上で短距離から長距離まで色んな種目をこなし、全国に名を馳せていたことから選ばれたんじゃないだろうか。と勝手に自己解釈しているわけである。
 話が逸れてしまったが、大川大学に選ばれた者しか入れない大学ということで学生自体が普通の大学と比べて少なく五百人程度しか学生がいないため、大川大学の陸上競技部の人数もマネージャーと顧問の先生を合わせて二十人にも満たない人数になっているのだ。
 だから、誰か一人や二人でも故障や怪我をすれば必然的に駅伝大会への出場を危ぶまれるわけで、今回去年一位で総合優勝二連覇を果たしている箱根駅伝は全十区間ある為、補欠も合わせて最低でも十五人程度はエントリーメンバーとして登録しなければいけない。
「まあ、補欠はさ他の部活のやつに頼めばいいけど、問題は本戦に出場するメンバーだよなぁ。」
 少数精鋭なのがウチの売りだけど今回はそれが仇になってるし、他の部活のやつに本戦も任せるにしても普段の練習とまた長距離走るのは別だからどの部活の誰に任そうかって大木先生も難儀してるみたいで、選考会とかもするか考えてるらしい。んで、その選考会を経て誰も任せられないってなると辞退も考えてるらしいぜ。俺は食満先輩とか七松先輩の最後の勇姿を見たいからさ辞退はしたくないんだよなあ。と頭を掻きながら誰か足が早くて長距離が得意なやついないかなぁ〜。と三治郎の前で大きな独り言を零す三年生の竹谷八左ヱ門に、それって、足が早くて、長距離が得意なら誰でもいいんですよね?と三治郎が質問を投げかける。
ぅん?まあ、そうだな、足が早くて長距離が得意でド根性があればって大木先生が言ってたけど。」
……じゃあ、僕にアテがあるかもしれません。」
 引き受けてくれるかは分かりませんが。と下を向く三治郎の言葉に思わず耳を疑った八左ヱ門は本当に?!と食いつくように三治郎の肩を掴んで顔を近づけた。その勢いに少し驚いた三治郎がちょ、竹谷せんぱいっ、一旦落ち着いてくださいよ。と眉を下げて微笑む。
 三治郎の反応に気付いた八左ヱ門は、あ、わりぃ!とすぐに三治郎の肩から手を離して再び座って柔軟をする体制に入った。この先輩はいつも表情豊かで見ていて飽きないな、と思いながら三治郎は言葉を続ける。
アテっていうのは僕の幼馴染なんですけど……。」
「おさななじみ……?」
……えっと、猪名寺乱太郎って言ったらわかりますよね……?」
「あ、ああ。三郎といつもコンテスト総ナメしてる美術部期待の一年生だよな。よく三郎から話は聞くけど。」
 三治郎が陸上で功績を認められて選ばれたのなら、彼の幼馴染である猪名寺乱太郎という人間は芸術による功績を認められて大川学園から選ばれた人物である。彼がコンクールに絵を出すと、必ずといっていいほど入選、もしくは優秀賞や最優秀を出し、正しく芸術の神に愛された子だと学園内に留まらず、学園外でも注目を集める人物で、同じ学年で三郎と仲が良い八左ヱ門はよく彼の口から出てくる後輩の乱太郎の事をよく耳にしていた。
 本当に見ていて飽きない子で、絵のセンスもあって最高なんだよ。と良く三郎が同い年の自分たちに対して自慢しているから話したことは無いけれど、猪名寺乱太郎がどういう人物であるかは何となく知っていた。
 それでも一度、三郎の忘れ物を私に行った時に一度だけ遠目から見たことはあるが、あの子が走るのか早くて、しかも長距離ができる子にはあまり見えなくて、頭上に疑問符を浮かべながら俺と三治郎が思い浮かべているのは同じ子なんだろうか?考え込む八左ヱ門に三治郎は、乱太郎って本当に足が速くて体力もあるんですよ!と胸を張る。
 そんな三治郎に、じゃあどうして陸上やってないんだ?と疑問をぶつける八左ヱ門に、三治郎は眉を下げて笑った。
中学生の時から高校生に至るまでずっと、ずうっと乱太郎に陸上部に入ろうよ!って言ってるんですけど、走るのは趣味の範疇だけでいい。って言われちゃうんです。」
 そのくせ、趣味の範疇とか言いながら毎朝と夕方決まった時間にランニングしてて、僕が一緒に走ると負けたくないらしく、いつの間にか勝負してるんですけど、僕がいつも負けるんです。現役の僕を差し置いてですよ?なにが趣味の範疇だって思いません?とにこりと笑いながらこちらを見つめる三治郎に八左ヱ門は唖然としていた。
 この自分の目の前にいる夢前三治郎が負けるだと?去年も一昨年も全日本高校駅伝で区間賞しかも区間新を取った三治郎が負ける?陸上界では長距離界の期待の星と言われてる彼が?と混乱しながら三治郎が次に紡ぐ言葉を待つ。
僕に走ることを楽しいと教えてくれた人間が、僕よりも全然楽しそうに速く走るくせに、それを趣味の範疇で収めるなんて意味わかんないと思いませんか?」
……うん、まあ、確かに。」
「だから、僕がこれを機に引きずり出してやろうと思って。」
あの、お願いがあるんですけど、竹谷先輩は大木監督と先輩方を連れてここに来て貰えませんか。いつもここの運動公園のグラウンドで僕たちランニングをしているので。絶対に後悔はさせませんと伝えておいてください。
 三治郎が何かを書いたメモを八左ヱ門に渡すと、彼は待ってますからね〜!といつも通りの笑顔をさせながら去っていった。三治郎から手渡された紙を握りながら、八左ヱ門は驚きのあまりその場で立ち止まっている。
 幼馴染のことを話していた三治郎は、いつも周りに花が見えるほどにっこりと笑う彼の顔は鳴りを潜め、今自分の目の前にいるのは三治郎か?と思うほど笑顔の奥にただならぬ幼馴染に対する執着のような色んな感情が詰まったなにかが垣間見えて、八左ヱ門は震え上がった。
引き受けてくれるといいけどなあ。」
 三治郎から見えたなにかを瞬時に頭の中から消し去った八左ヱ門は去っていく彼の背中に背を向けて三治郎から託されたメッセージと紙切れを持って、監督とメンバーの元へと駆けていくのであった。