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普賢のまわりの人たち
黄金花園伝
道行天尊&韋護の金庭山師弟本「黄金花園伝」に掲載した書き下ろしです。
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「なぜ何カ月も放っておいた?」
いつぞや訪ねてきて師とともに出ていった仙人が、眉に皺を刻んだまま深いため息をついた。
そういや師匠、ずいぶん会ってねえなと思い至り、もしやこのままではいけないのでは、と思った韋護は、いつもの庭へ向かう道を逆方向に折れた。どこに行ったか聞かなかったけれど、だいたいこっちのほう、というぼんやりした勘を頼りにしたのだった。
そうしてしばらく山道を下ったり登ったりして着いたのは見知らぬ洞府だった。確信があったわけではないが門扉を叩き、出てきたのが長身の、例の仙人だった。
韋護をひと目見て絶句し、そして先の台詞を吐いた。
韋護としては放っておいたつもりはない。なんとかしろと言われたからなんとかしただけだ。
困惑したままの仙人の背後から、ひょっこり顔を出したのは
「道行師匠。やっぱここだったか」
「見つかっちゃったでちゅね!」
「おー、久しぶりだな師匠!」
「もっとゆっくりでもよかったでちゅけどね」
二人の呑気なやり取りに、仙人はますます眉間の皺を深くする。
仙人は玉鼎真人というらしい。剣術の達人で、その筋で敵う仙人はいないという。その剣術の達人の洞府に道行天尊が転がり込んで一年近く、なにをしていたかといえば「弟子の自立心を育てていまちた」と涼しい顔をした。
「いつまでも師匠のいうがままでは成長ちまちぇん、いっそ一人にちてちまったほうが早く済みまちゅ」
「ええ、じゃあ緊急事態があったってのは」
「嘘でちゅ」
道行はあっさり言い切った。
予告したら、一人でも大丈夫なようにあれこれ備えることになるだろう、それではいつやってくるかわからない「本物の」緊急事態に対応できない。ならばいきなり放り出してしまったほうがいい、という算段だ。
玉鼎真人のところに居候したのもまったくなりゆきで、単にそのとき訪ねてきたからだと道行はいう。つまり玉鼎真人は巻き込まれただけ。だからあんなに渋い顔をしていたのか。韋護が一人で庭仕事に専念している間、道行は高級茶を好きなだけ飲み、宝貝である万能包丁をピカピカに砥げとのたまっていたらしい。
「お前が師の身を案じて早々に探しに来てていれば、私がこんなに苦労することもなかった」
「苦労とはなんでちゅか、玉鼎。キミの弟子の髪もきれいに梳いてやったのに」
かみ合わない会話を前に、韋護が「あー、ちょっと」と口を挟んだ。
そりゃあ師の不在に気づかなかったのは不覚ではあったけれど、仙人界へ来ていきなりそんな荒っぽい扱いをされても気づくわけがない。これが弟子として、道士見習いとしてまったくけしからんというようでは、こちらも納得がいかない。
勘は鋭いほうだけれど、すべてを正確に察しろというのは無理だ。
「俺は結局、破門?」
気になっていたことを問うと、道行はきょとんと瞬きをくり返した後「なぜそうなるんでちゅか」と首を傾げた。
「なぜって。遅すぎたんだろう?」
「それくらいでないと、仙道など務まりまちぇん」
隣の玉鼎真人も腕組みをしたまま頷く。
「いままでボクは何人も弟子を育ててきまちた。そのたびに同じ修行をちてきまちたが、ここまで長く一人で生きていられた弟子はキミがはじめてでちゅ」
「多くは数日、あるいは数週間もすれば、崑崙山を探しまわったものだったな」
「そういえば、こんなに長くこの洞府で寝起きちのもはじめてでちたね」
「まったくだ」
さっきまで眉根を寄せていた玉鼎真人が、どこか困ったように韋護に笑いかけた。
「私にとってはとんだ災難だったが、きみは自分の生きる力を誇っていい」
韋護は目をみはる。道行もにっこり笑って言った。
「キミは、いままででもっとも優秀な弟子でちゅよ」
玉鼎真人に二人で頭を下げて、無事洞府に戻った。淡々と日々の修行をするだけ、なんら変化のない時間が戻ってきた。
庭を見た道行は「でかちた!」と歓声を上げ、その上をなんどもふわふわと飛び回った。
「ここがこんなになるのも何百年ぶりでちゅかねえ
……
。やっぱりこの山がもっとも美ちいでちゅね!」
ご満悦の師の横で、韋護は得意気に胸を張る。
「なあ、俺が頑張ったからこんだけ咲いたんだよなあ」
「それが弟子の仕事でちゅからね」
「頑張ったからそろそろ宝貝くれよ」
そうでちゅねえ、と道行は首を傾げた。
「キミは人より勘がいいから、そういう系の宝貝にちまちゅかね」
「勘?んなもんが役に立つんかい」
「もちろんでちゅ!」
師は自信満々で言い切る。
「行先も告げていなかったのに、自力でボクを探し当てたのはキミがはじめてでちたからね」
そういえばなんとなくこっちのほう
……
という直感は、疑わなかった。それも能力の一つだと考えたこともなかったけれど。
韋護の目線の高さで止まって、道行は顔をのぞきこむ。じいちゃんやばあちゃんが孫をほめるときみたいな目だなと韋護は思った。
「これからキミはなにかを守らなきゃならないかもちれまちぇん。きっとこれは武器になりまちゅよ」
さて! それだけ言って道行はくるりと背を向けた。
「明日からは本気の修行がはじめまちゅ!覚悟ちておくよーに!」
「本気? 今まで本気じゃなかったんかい」
「言ったでちょ。いままでは適性を見ていたんでちゅ」
「じゃあ宝貝くれよ」
食い下がる韋護に、道行はかるく肩をすくめた。
「ま、考えておきまちゅよ」
了
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