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普賢のまわりの人たち
黄金花園伝
道行天尊&韋護の金庭山師弟本「黄金花園伝」に掲載した書き下ろしです。
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仙人界に来たのは、特に理由があったからではない。ある日、なにやら不思議な生き物(としかいいようがない)が訪ねてきて「弟子にならないか」と誘ったからついてきただけだ。
それまでも生きていくのに不自由していたわけではなかったし、なんの不満もなかった。そのままでもよかったけれど、聞いたことのない仙人界の暮らしにも、見たこともない仙人にも、興味をそそられたのだ。
「修行はたいへん厳しいでちゅが、ボクのところで学べばきっと立派な仙人になれまちゅ。どうちまちゅか?」
そう問うた仙人は、道行天尊と名乗った。
これまでにも幾人も弟子を育てた実績があり、そのすべてが一人前として巣立っていった、こんなにも多くを育て上げた仙人は、仙人界広しといえどごくわずかである、お前の才能をそのままにしておくのはたいへん惜しい、開花させる力をもつ仙人は自分以外にいない。
表情はいたって真剣で、いかに優秀な仙人であるか見栄を張っているようだったが、韋護にとっては意味のわからない呪文にしか聞こえなかった。ただ、受けるか受けないかで、自分の人生が大きく変わる、そんな選択を迫られているのはまちがいなかった。口調がいかにものどかだったから、信じていいかどうか、疑ってしまったけれど。
「あー
……
すぐに決めなきゃかい?」
韋護は頭をかきながら訊ねた。
「人を不安にさせて判断を急かすのは、たいてい詐欺だって、死んだばあちゃんが言ってたんで」
その仙人はスンと鼻を鳴らした。
「もちろん、待っててあげてもいいでちゅ」
どうやって断るか、それとも逃げるか?そんなことをつらつらと自問して数カ月、ふと「ま、いいか」とふっ切れた。行っても行かなくても人生たいして変わらない、それなら行ってみるかと思ったのだ。なにより、あの仙人に着いていけばなんか面白いことになりそう、という気がした。
直感には従うほうだ。
籠を抱えて洞府に戻ったのは、日が暮れる時間だった。種は半分も蒔けなかった。師がふよふよと漂いながら夕餉の準備をしていて、帰宅した弟子を見て「こんなに時間がかかる弟子ははじめてでちゅね」と言う。
具だくさんの汁物を椀に注いでいたので手伝って、ついでに横顔を盗み見た。怒ってはいないようだった。
修行というからには、なにかしら目標を決め、成果を出さねばならないと思うのだけど、毎日やっているのは水をくんだり庭や畑を耕したりと、日々の暮らしの延長みたいなことばかりだ。なにをすればいいのか教えてもくれない。種を蒔くことが、なににつながるのか、どうやるのが正解なのか見当もつかなかった。スピードとか?
「今日のは効率よくやるテストかなにかかい?」
「そういうわけではないでちゅ」
「もっと早くした方がよかったとか?」
「どっちでもいいでちゅよ」
「どっちでも?」
「どっちでも」
師は食卓に着いて頷く。
「キミがそうちたくてちたのならそれで良し、たまたまそうなったのなら、それがキミのペースということでちゅ」
「ペース」
「まだここに来てちょっとちか経っていないのだから、ボクはキミがどういう人間か、わかりまちぇん。いまはいろんなことをやらせてみてる最中なんでちゅ」
「ふーん」
さしずめ、今日の種蒔きで「こいつはこの仕事に一日を費やすタイプ」と判断したんだろうか。弟子の考えていることに気づいたのか、道行はかるく首を横に振った。
「仙道の力はそんなに単純ではありまちぇん。これをやったからたちまち強くなるとか、かちこくなる、みたいにカンタンではないんでちゅ。だから焦ってもチカタありまちぇん。いまはキミの適性を見定めてるんでちゅよ」
それだけ言って、ごちそうさまと手を合わせた。
「さて、食べたら片づけをしておくよーに!」
ウス、と小さく返事をして、韋護は小さくため息をつく。
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