黄金花園伝

道行天尊&韋護の金庭山師弟本「黄金花園伝」に掲載した書き下ろしです。

金の庭、などという瀟洒な名前を、師はいつもどこかほこらしげに口にした。
「崑崙にあまたの山あれど、一番美しいのはボクの山なんでちゅよ」
それは出来の悪い弟子に言い聞かせるというよりは、ほんとうに心から信じて疑わず、なんなら弟子にすら自慢しているふうでもあった。
他の山をけなすことこそしなかったものの、それは礼儀というより「比べるまでもない」と思っているのだ。とはいえ(聞いてみたことはないが)師に限らず、洞府を開いている仙人ならだれしも、自分の山が一番だと思っているにちがいない。
「さて」
自分の体よりも大きな籠を両手で抱え、師は笑顔で見下ろして言った。
「今年の分でちゅ。一つ残らずしっかり蒔いてくるように」
籠にどっさり入っているのは植物の種だった。それを庭に蒔き、水をやり、世話をするのが修行の一つであるらしい。
へいへいとやる気のない返事で籠を受け取ったが、師は別段、気を悪くしたようでもなく「任せたでちゅよ」と言い残して洞府へ消えた。
きっとこれは夕刻まで外に出ないつもりだ。
韋護はため息をついて庭へ至る道を下っていく。

師はああ言ったけれど、正直なところ、韋護は金庭山を美しい山だと思ったことは一度もなかった。ここに来てまだ一年足らず、すべてを知り尽くしたとはとてもいえないが、それにしたって、とうていその名にふさわしい場所とは信じがたかった。
洞府からなだらかな坂を降りたところにある庭は、パッとしない低木が緑の葉を茂らせているだけの、ただの荒れ地に見えた。谷になっているから日当たりもよくない上、今は葉もほとんど落ちて寒々しく風が吹き抜けている。季節にもよるのかもしれないけれど、それにしても、だ。
「金の庭、ねえ……
大げさすぎるっちゅーかなんちゅーか。仙人はびっくりするくらい長生きだというし、道行師匠だってああ見えてめちゃくちゃジジイらしいから、その長い長い時間軸の中で、美しい時期もあったのかもしれないけれど。
(ま、俺が見ることは当分ないだろ)

庭はずいぶんと放置されていたようだったけれど、土はとてもいい土だった。すこし耕せば空気と水分を含んで、ふかふかで手触りがいい。そこそこの広さがあるが、庭をぐるりと取り囲むように低めの木が植わっていて、すでに切られた木もそのまま残っているので、根に注意しなければならない。
無造作にバラバラ蒔けばあっという間に終わるし、それでも芽は出るだろうが、ここは師のいう「美しい山」にふさわしい、丁寧な仕事をしてやろう。
(そうすりゃ、これだけで一日つぶれるし)
「さて」
等間隔の目星を付けながら、韋護は一粒ずつ、土に種を埋めはじめる。