七海ななみ
2025-12-27 08:38:01
2872文字
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面影⑤

ルカキリであってルカキリでないシリーズ。ライバルに塩を送る曾孫と、実家に帰ったフリンズ。想いが届けばいい。願うのはそれだけ。
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帰るつもりはなかったのに。
夜明かしの墓の地下室で、一人ランプに閉じ籠る。
一応確認したが、管理者はいないようだ。
本当に、最低な事をした。
別人だとわかっているのに、面影を重ねていて。
記憶が混ざってしまって、思い出すにもどっちのファルカなのかわからなくなってしまう。
もう、いっそのこと、封印したほうがいいかもしれない。
でも、そしたら、ファルカに謝れないまま、永遠の別れになってしまうかもしれない。
ずっと一人でぐるぐると考えて、まとまることは、ない。

地上から、足音が聞こえてくる。
迷い混んだ一般人だろうか、それとも───

キリル」

追いかけてくる、そんな予感はしていた。


────────


静かな島だった。生き物もほとんどいないのだろう。
階段を下りると、ランプが宙に浮いていた。

キリル」

呼び掛ける。キリルは何も答えない。
当然かもしれない。無理矢理抱いたのは俺だ。

「すまなかった」

謝罪をしても、キリルは何も喋らず、ランプから出てこない。
やっぱり、これしかないのか。
懐から機械の筒を取り出し、机の上に置く。

「キリルに謝りたかったのもあるが、これを届けに来たんだ。これは、曾祖父さんの遺品だ。多分、キリルに渡したかったものだ」

ランプの炎が揺らぐ。動揺しているのが伝わる。

「俺はすぐそこの浜辺で待ってる」

返事も聞かず、部屋から出る。
曾祖父さんに動揺するキリルを、これ以上見たくなかった。

浜辺に座り込み、頭を掻く。
本当は、渡したくなかった。
でも、曾祖父さんの想いを、伝えるべきなんだ。
たとえそれがライバルであっても。

「頼むぞ、曾祖父さん

もう、祈ることしかできない。


──────


ファルカが、僕に
ランプから出て、金属の筒を見る。
このデザインは、アイノさんが作られたものだ。
筒には“蒼炎に捧げる”とある。
番号を入力するところに、数字が掘ってある。
かつて、旅人さんから聞いた話によれば
掘ってある数字に合わせると、蓋が開く。
筒の中には、手紙が入っているようだ。
震える手で、広げる。


──────


この手紙を読むのが、蒼炎であることを願う。

別れを切り出された時、なんと答えるのが正解だったのか、今でもわからない。
でも、確かにあの時の俺たちにはお互いに譲れないものがあった。
キリルを選んだとしても、後悔をし続けたと思う。
だから、あの時は、離れるしかなかったんだ。
もし俺が結婚してなかったら、大団長を退任した後や、ワイルドハントが壊滅したあとに、キリルと一緒にいることができたのかもしれない。
その可能性に気づいた時には、俺にはもう子供がいた。引き返せない所にいた。
馬鹿だよな、俺。そしたら死ぬ前にキリルに会えたかもしれないのに。

お互いに忘れない人がいて、結婚した。互いに傷を慰め合っていた。
それでも、愛はあった。妻も、息子も愛している。
でも、キリルも愛しているのだ。
おまえの事だから、俺に未練はないと思っているのだろう。未練ありまくりだ。この手紙を書いてるときも、最期に一目会いたいと思うくらいには。でも、きっと、来ないだろうな。

もしかしたら、キリルも俺に未練があるんじゃないのか?

こんな、愛する人がいながら、妻と子供がいる男なんか、忘れてしまえ。俺は最低な男なんだ。
だから忘れて、別の人と幸せになってくれ。

俺が死んだ後も、キリルは生きていく。
俺はただ、キリルの幸せを願う。

この想いが、届く。それだけでいい。俺に残された未練はこれだけなのだ。

この手紙を蒼炎に捧げる。



──────


涙が、手紙を濡らす。
愛しているのだ。今でも。僕だけだと思っていた。
でも、違ったのだ。ファルカもずっと愛してくれていた。
手紙を抱き締め、泣き叫ぶ。
愛していたんです。ずっと、ずっと。
なんで結婚したんですか。僕の事を忘れてしまったんですか。
僕が別れを切り出したのに。僕だけが未練を抱いていて。
僕も最期に会いたかった。ずっと、ずっと、愛していると伝えたかった。
そんな感情を、涙で出しきるように。
ひとり、泣き叫んだ。


────────


気持ちが、晴れやかだ。
今まで溜め込んだ後悔を、全て出しきった。そんな気分で。

僕も愛していましたよ、ファルカ」

手紙を蒼炎で焼き払う。もう、大丈夫だ。
ファルカに、謝らないと。


浜辺には座り込んだファルカがいた。
違和感を感じる。

もういいのか?」

マカライトのような、鮮やかな緑色の瞳が、こちらを見ている。
確かに似ている。ファルカの面影がある。でも、拗ねた子供のような表情は、ファルカの面影ではなくて────

『ひいじいちゃんがすごいひとだから、ひとりできもだめしできるだろっていわれた

ファルキの、面影で。
あの、小さかったファルキなのだ。

「大きく、なりましたね」

思わず出た言葉に、ファルカが立ち上がる。
身体に傷もあるけど、よく見ると違う。
似ているけど、違うのだ。

すみませんでした」

頭を下げる。
本当に、最低な事をした。

「俺も、すまなかった」

互いに頭を下げる。
静寂が訪れるが、気がつけばお互いに笑い合っていた。

「届けてくれて、ありがとうございます。 ファルキは立派な騎士になりましたね」

そう微笑むと、ファルキは顔を赤くした。

その、キリルの事が、好きなんだ。できれば、返事を聞かせてほしい」

赤らめながら告白する姿が、愛しくて。
でも、今は駄目なのだ。

今は駄目です」
「えっ?!」
「だって、ファルキの事をよく知りませんから。だから、もっと教えてください」

少しだけ、待ってほしい。
今は小さい頃のファルキの面影を重ねているから。
もっと、ちゃんと、あなたの事が知りたいのだ。

キリル」
「それと、僕のことはキリュシャと呼んでください」

ファルカさんにも呼ばれたことのない、愛称ですよ。
そう伝えると、嬉しそうに笑った。
あの時と同じように手を繋ぐ。
でも、今度は僕が引っ張られている。
ファルキは、告白の返事が貰えなかったのに、すごく嬉しそうで。
その姿に、愛しさを感じる僕がいる。
告白の返事は、すぐにできるかもしれない。

「ファルキ。ナドクライでお酒を飲みませんか? オススメのお店があります」
「あー、えーと、その
「どうしましたか?」
実は俺、下戸なんだ」
ふふっ」
「キリュシャ、笑っただろ! モンド人なのに下戸なんだって!」
「いえ、僕は本当に勿体ないことをしていたな、と思っていただけです」

告白の返事はすぐにできるかもしれない。今夜にでも。


やり直しの初夜
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