あのあと、西風騎士団により魔物は無事に討伐された。
…僕は、ずっとファルカに手をつながれていたため、逃げられなかった。でも、チャンスはあるはずだ。
西風騎士団に連れてこられ、個室で一人待つよう言われる。
…今しかない。
棚の上にランプだけの状態になる。ここなら、視界に入らないだろう。
「待たせたな!
…キリル?」
ファルカが個室でキョロキョロ見回す。大丈夫だ。見つからないはずだ。このまま、隠れていたら、きっと───
「ここにいたのか」
棚の上にあるランプを持ち上げられる。
「
…綺麗な蒼炎だな」
『おまえの蒼炎、本当に綺麗だ』
声が、重なる。
固まりそうになるが、それどころではない。
…何故、ランプに隠れているのがバレている?
「さっき、手をつないだ時に風元素で印をつけておいたんだ。
…本当に妖精、なのか?」
「
………はい、僕はフェイです」
もう隠れてても無駄だろう。諦めて姿を現す。
「道理であれだけ探しても見つからない訳だ。それともうひとつ。そのランプ、俺の実家にあるやつ、だよな?」
「
………はい」
「もしかして、ずっと実家で一緒にいたのか?」
「
………そうです」
探していた相手は家の中にいた。
その事実にファルカが悔しそうにしていた。
…あまり見たことがない顔だ。
顔をじっと見ていると、少し照れ臭そうにしている。
たが、真剣な表情になり、見つめ合う。
「改めて礼を言わせてくれ。キリルがいなければ本当に危なかった。共にモンドを護ってくれて本当に感謝している」
敬礼をされる。
…そうだ。僕はモンドを、ファルカを護りたい。
ファルカから礼を言われ、心が舞い上がる。
マカライトのような緑色の瞳が、嬉しそうに細められる。
…緑色の瞳?
僕は、ファルカを重ね、区別が、つかなくなっている?
「西風騎士団大団長ファルカとして、キリル・チュードミロヴィッチ・フリンズに蒼炎騎士の称号を与える」
そんな声も聞き取れないほど動揺していたため、気がつけば西風騎士団として所属することになっていた。
──────
確かに、バレているなら西風騎士団に所属するのは悪いことではない。
これなら堂々とモンドを護ることができる。
…ファルカがいなければ、もっと素直に喜んでいたかもしれないが。
余所者の僕が西風騎士団で浮かないか心配していたが、アビスの封印に助力したのは予想以上感謝をされていたらしく、他の騎士からも歓迎された。
どちらかと言うと、生暖かい目で見られることが多い。
「キリル! 今日も綺麗だな」
「
…おはようございます、大団長」
「ファルカと呼んでくれてもいいんだぞ」
「上司に対して礼節に重んじて接しているだけです」
仕事以外で口説いてくるファルカのせいである。
どうやら、“ファルカの初恋”は西風騎士団で有名な話だったらしい。多くの女性が玉砕したそうだ。
誰とも付き合わず、初恋の相手を探し続ける姿に、まるで吟遊詩人が唄う愛の話のようだと。初恋の相手が男性であろうと関係がなかったようだ。
西風騎士団はまあいい。仕事も、ワイルドハントを殲滅させたライトキーパーでも似たようなことをしていた。生暖かい目は流せばいい話だ。
問題は、僕自身だ。このまま近くにいて、いいのだろうか。
少しずつ、無意識に、ファルカの面影を重ねている。
離れたい、でも離してくれないのだ。どうすれば
…
そう思案していると、カレンダーが目に入る。
…そういえば、もうそんな時期か。
ファルカの命日が近づいていた。
ファルカの命日に合わせ、休暇申請を提出する。
…提出先は、大団長だ。
なにか言われるが不安だったが、休暇申請を受理してくれた。
だが、ファルカの表情は暗い。
「もしかして、曾祖父さんの墓参りか?」
継げれた言葉に、思考が止まる。
固まっていると、やっぱりな、と小さく笑った。
「俺も休む。だから、一緒に墓参りをしよう」
否定することなど、できなかった。
────────
セシリアの花を匂いを漂わせながら、歩く。
普段は深夜に一人で行っていた。昼間に行くのは初めてだ。
「
………」
「
………」
互いに口数が減り、何も喋らなくなる。
ファルカの墓の前に着き、セシリアの花を供える。
静かに祈りを捧げる。
何時もはモンドのことや、ファルカの子孫について語っていた。でも、今回は言葉が浮かんでこない。
必死に言葉を探していると、
「
………曾祖父さんを愛しているのか?」
告げられた言葉に、目を見開く。
ファルカに向き合うと、悲しげな表情をしていた。
「あの絵本は曾祖父さんがスネージナヤから取り寄せたものだし、なんでキリルが実家にいたのか不思議だったんだ。曾祖父さんの血を継いでいるから、だろ?
互いに愛し合って───「それは違います!」
言葉を遮る。違うのだ。愛し合っていなかった。
「
………確かに、かつてファルカさんとお付き合いしていたことはありました。でも、互いに譲れないものがあったので別れました。その後、ファルカさんは結婚されました。あの別れから、亡くなるまで会っていません。
今でも、愛しているのは、僕だけなんです」
ファルカには愛する妻と子供ができた。
僕のことなど、忘れているはずなのだ。僕だけが、未練がましいだけなのだ。
僕の言葉を聞いたファルカが、墓石に触れる。
「曾祖父さん、あんたの蒼炎、俺が貰うぞ」
手を繋がれ、歩かされる。
ファルカの表情は、見えなかった。
───────
ファルカの部屋に連れ込まれる。
両肩を力強く握られる。
ファルカは、悲痛な表情で、苦しそうで。
「キリル、好きなんだ。あの時からずっと好きなんだ」
「
………僕は、あなたを好きになる資格がありません」
「曾祖父さんに似てるから、か?」
「
………」
言葉を出せずにいると、顎を持ち上げられ、口付けをされる。
抵抗をするが、頭まで押さえつけられてしまい、逃げられない。
それでも暴れていると、舌が入り込んでくる。
舌を絡み取られ、口の中の空気を奪い合う。
与えられる熱に、涙が溢れてくる。
口が離れると、ベットに押し倒される。
「頼む、俺を見てくれ」
ファルカの涙を見ていたら、抵抗などできない。
これからされるであろう出来事に、何も見ないように、目を閉じた。
────────
わかっていたのだ。俺を通して誰かを見ていると。
俺は、最低だ。
好きな人を無理矢理抱いた。
キリルは、目を閉じて、泣いていた。抵抗は諦めていた。
それでも俺は抱いた。俺を見てほしかった。
…こんなことをして、見てくれるわけ、ないのに。
翌朝、キリルは手紙を残して姿を消した。
手紙には“ごめんなさい”とだけ書かれていた。
それは告白の返事なのか、俺に対する謝罪なのか、わからない。
でも、諦めることなどできない。そう簡単に、諦められない。
騎士団にて、俺とキリルの長期休暇を申請する。
周りから新婚旅行か?とからかわれたが、軽く流す。
居場所は以前つけた風元素があるから、ある程度わかる。
後は、キリルを説得する材料が必要で。
…あまり気が乗らないが、そうも言ってられない。
実家に戻り、曾祖父さんの遺品を探す。
何か、手掛かりはないのか。そんな願いを込めて。
曾祖父さんが愛用していた引き出しを探すと、隠し引き出しがあることに気付く。底板を外すと、機械の筒が出てきた。
機械の筒には“蒼炎に捧げる”と掘られてあった。
面影⑤ | Privatter+
https://privatter.me/page/694f1c5972d78
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