第2話【恋敵の乱入】4/8(火)

黒薔薇のトリカゴ第1章。





数十分後。れんは部活仲間に呼ばれて不在。
文花ふみかがぽつりと呟く。

相馬そうまくん、元気だね」
「え……!?」

何気なくただの感想を述べただけ。
しかし朔叶さくとは大袈裟なほど目を丸くした。

(どうして、ふみちゃんはあいつの名前を知ってるの?)

文花と煉は接点が元々無ければ、クラスも一緒だったことは無い(朔叶の脳内データベースより参照)。それに文花はあまり他人に興味を持たないから、知っている名前はかなり限られている。それなのにどうして苗字を知っている? しかも「さん」付けじゃなくて「くん」付け……。親しさを感じるニュアンスに朔叶の胸の内にマグマのような激しい熱が湧き起こる。
どうして、どうして。
子供じみた嫉妬心に心を焼かれる。


「ふm」

問い詰めようと口を開こうとした瞬間、ふと自分の過去の言動がフラッシュバックする。脳内の時計針が反時計回りに回転する。
今朝八時過ぎ、中庭の桜の木の下で。文花に抱きついているときに大声で割り込んできた煉に確かこう言った。

『何しに来たの。相馬そうま煉』


と。文花のすぐ耳元で。しかもハッキリとした発音で。彼女の耳を塞ぐことはしてなかったから、おそらく……いやバッチリ聞いてしまっている。
つまり名前を口にしたのは他でもない自分だと、気づいてしまった。


(あ……僕のせいだ)

朔叶、口をぎゅっと閉じる。
自分のせいだと分かったら、文花を責めることはできない。
普段は己の情緒だけを燃料に動く暴走機関車のような男だが、自分が悪いと気づいたら強制的にブレーキがかかる仕様になっている。なかなか賢い設計。だが自責の念に駆られない限り基本的に止まらないから神設計とも言えない。

朔叶は青汁を一気飲みしたような渋い顔つきになり、ゆっくり、ゆっくり視線を地面に落とした。噴火寸前だったマグマは急速に凍ったのちパチンと砕けた。
沈痛な面持ちで項垂れる朔叶に首を傾げつつ、文花は頭をそっと撫でる。急に俯き始めたから頭が痛いのかと思ったらしい。
文花は深く考えない。だから朔叶が嫉妬を爆発させかけてたことも 、静かに自爆したことも知らない。仮に事情を知ったとしてもぱちぱち目を瞬かせて、のそっと首を傾げるだけだろう。


あたたかくて優しい指が髪をふわふわ撫でていく。
その心地良さに朔叶は一瞬で頬を緩ませた。
ちょろい。