第2話【恋敵の乱入】4/8(火)

黒薔薇のトリカゴ第1章。





3-3のホームルーム開始前。教室はガヤガヤと騒がしい。クラス替えの翌日だが、三年生にもなるとほとんどの生徒は顔見知りだ。初めて同じクラスになる相手でも億さず話しかける。そんな輪が教室のあちこちで複数出来上がっているため、おのずと賑やかになる。

「新学期早々、災難続きだなお前」
「ほんとだよ。ふみちゃんと同じクラスになれないし、暑苦しい奴に目つけられるし」

賑やかなクラスの端。教室前方の扉のすぐそばの席で静かな話し声が二つ。机に軽く伏せている朔叶さくとに、すぐるは半身だけ後ろに向ける形で言葉を交わす。
ちなみにれんはいまこの教室にいない。さっきいた(中庭で叫んでた)だろって? おそらく屋上で寝ているんじゃないか、とすぐ近くの生徒たちが話している。情報提供ありがとう。


傑は不思議そうに顎に手を当てて呟いた。

「にしても相馬そうま弓庭ゆばさんに想いを寄せてるだなんて意外だな。あいつ学校サボりがちだし、ああ見えて一匹狼だから周りの生徒と全く接点を持たないのに」

そう、そこなのだ。疑問点は。
傑の言う通り、煉は学校で姿を見かけることはほとんど無い。あるとしたら体育の授業と放課後の部活と体育祭くらい。
それと窓ガラスがビリビリ震えるときは、煉が雄叫びを上げているときだ、というのは同学年が持つ常識の一つ(天稟高校限定)。
朔叶は文花のストーカーという常識と同列レベルで有名。どちらもテストには出ませんが覚えておくと損は無いです。

朔叶が目を光らせているときも煉の影は1ミリも無かったはずだ。朔叶の監視網はとても精密で広範囲に渡る。些細な変化さえ見逃さない。消しゴムの消しカスくらいの小ささの違和感でも丁寧に拾い上げる朔叶が、煉に関して基本ステータス以外何も知らないというのは妙な話。何かがおかしい。どこで見逃した? いやそんなはずは……



……もうあとで直接聞いてくる」

朔叶は考えるより行動することに決めた。考えても答えが出ない場合は自ら行動を移した方が早い。そう決めて顔を上げた朔叶に傑は、

「おー頑張れ。ほら、これ持ってろ」

と、制服のポケットから飴を取り出して差し出す。
蜂蜜味の飴。好きなのか、彼はよくこの飴を持ち歩いている。
朔叶はいらないよと言いかけ手で振り払おうとしたが、一瞬考え込む。

……そして

……仕方ないから受け取ってあげる」

傑の手から飴玉の包み紙を取る。
言葉はツンとしているが受け取る手つきは慎重で優しい。手のひらの真ん中に収まった淡いオレンジ色の包み紙をそっと包み込み、カーディガンのポケットに滑り込ませる。

「はいはい」

ツンデレめいた返しに傑は肩をすくめつつも、眉を少し下げて苦笑し身体を黒板へと向け直した。