第2話【恋敵の乱入】4/8(火)

黒薔薇のトリカゴ第1章。






一時間目の授業が終わったあと。
すぐるにもらった蜂蜜味の飴を口の中で転がしながられんを探す。
確か噂によると屋上にいることが多いらしい。
いつも文花ふみかといちゃ……くつろぐために屋上へ向かおうとするのだが、肉食獣のような唸り声が聞こえるため引き返すことが多々あった。もしかしてその唸り声の原因が煉なのだろうか。



グゥルルル……



聞こえた。屋上へ続く階段を一歩一歩踏みしめるたびに鮮明に近づいてくる。高校で聞こえていい代物ではない。握りしめた拳に手汗がほとばしる。本能的な危機に反応したのだろう。
だが朔叶さくとは止まらない。文花に関する情報を掴むためなら本能的な危機でさえも乗り越えられる。今までも何だって乗り越えられた。乗り越えられないものがあるとしたら、グラウンドにあるハードルと体育館の跳び箱くらいである。


屋上の鉄製の扉をギィィと押し開ける。柔らかい春の風がぶわっと流れ込み、髪と制服をふわふわ揺らす。
視線を右往左往させる必要も無く、目当ての人物――煉は扉から真正面のすぐそばに仰向けに寝転がっていた。思ったより近すぎて一瞬後ずさってしまったが、すぐに足の位置を戻す。

……んあ?」

扉が開く音に反応したのか、煉はむくりと起き上がる。むにゃむにゃと目をこするその仕草は猫のよう……いや、猫にしては大きすぎるからライオンが妥当かもしれない。

「んぉ……うつぎぃ……?」
「ねぇ君さ、どうしてふみちゃんが好きなの?」

寝起きの煉に構わず単刀直入に聞く。そうしないと休み時間が終わる。あと残り十分しかない。悠長に待ってられないのだ。

「お? 興味ある? ある? よくぞ聞いてくれた!!!!!」
「うるさ……っ」

寝起きとは思えない大声で下の階の窓ガラスがビリリと震えたが、廊下を歩いていた生徒は、あぁ相馬がまた屋上で吠えてるのね。と当たり前のようにスルーした。

「そう、あれはおれにとって人生の始まりとも言えた……

煉はゴホンと咳払いし、片手を腰に、もう片手を胸に当てて語り始めた。



*ここから少しの間、お付き合いください。



昨日の朝のことだ。
おれは眠い目をこすりながら学校に来た。
本当は家で寝てたかったんだが弟たちに総出で起こされてな……あいつら容赦ねぇんだよ。
そんで蹴り出されるように自転車でかっ飛ばしてきたわけよ。
で、ねみぃ〜と欠伸しながらやってきたら、一人の女の子が目についた。
その方こそが弓庭ゆばさんだ。
周りは人だらけだったから横顔を見るだけで限界だった。
でもその横顔が超綺麗でさ。しばらく見つめちまったよ。
そんでしばらく弓庭さんの顔を見ていたらな……あ、そうそう! そしたらすぐ近くにいた奴が白いハト飛ばし始めたんだった!
あれどこから出してるか空木うつぎは分かるか?
おれは分からん!!
そしたらそいつ今度は桜の……


*すみません、話の途中ですが、ここからあまりにも関係ない話ばかりなため割愛させていただきます。


要はこういうこと。
クラス替え発表の掲示板の前で佇む文花

その横顔を離れたところから見ていた煉

一発で恋に落ちる。

以上。


朔叶は煉のグダグダ話を律儀に最後まで聞いていた。割愛しなかった場合の所要時間は五分。脱線に脱線を重ねても、朔叶は煉と文花の繋がりが見える糸口が不意に現れる可能性を聞き漏らさないように真剣だった。根の真面目さが垣間見える瞬間。
だが煉が喋り終えたと察するやいなや、露骨に眉をひそめ口を開く。

……は? ってことは、つい昨日一目惚れしたってことなの?」
「そういうことになるな!」

軽蔑混じりの呆れ声に、煉は自信満々に胸を張って返す。

……信じられない。そんな些細なことで」
「些細なことじゃねぇよ! おれにとっては隕石が落ちたくらいの衝撃だったんだぞ!」

朔叶は言葉通り信じられないものを見るような温度が下がった目を煉に向ける。


ここで朔叶の恋の動機についておさらい。
幼い頃泣いていた自分を文花が抱きしめて頭を撫でてくれた(プロローグの冒頭要約)。
以上。あなたも些細。

「君の動機は分かったよ。あまりにも単純すぎて笑えないけどね」
「あ"あ!?!?」

朔叶の後頭部に透明なブーメランがグサッと刺さりました。しかし透明なので彼は気づいていません。故にノーダメージ同然。強いですね。



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「あとさ、その大声やめてくれるかな」
「何でだ!!」

朔叶は一瞬肩を強ばらせながらも、毅然と言い放つ。

「ふみちゃんは大声が苦手なんだよ。びっくりするし怖がっちゃう」
……! じゃあ、なるべく無言の方がいいってことか?」

朔叶は静かに頷く。煉はバツが悪そうに頭を搔いてから、意を決したように大きく頷き返した。

「分かった。弓庭さんの前では静かにする」
「頼んだよ」

煉の素直な反応に、朔叶は無意識にそっと息をついた。が。



キンコーンカンコーン



チャイムが鳴った。あ、授業が始まる。朔叶は考えるより先に踵を返して走り始めた。
煉はチャイム音が強制睡眠導入剤になっているのか、その場で再びおやすみタイムに入る。早い、早すぎる。