Kishie
2025-12-14 00:17:27
7915文字
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つながりのかたち

2021年4月に開催されたオンラインイベントで頒布した「始まりは、夕暮れに」の一部です。

千葉さんの唐突な告白から始まり、付き合うことになったちばかな。
自分の気持ちがどこにあるのかわからないままでいるカナさんが、ちばさんとのデートに挑む感じの話です。


 送ると言い張っていた千葉からの申し出を固辞して、一人暗くなった道を歩く。今日は色々な事があった。気持ちの整理をしたかったので、静かな道を選んで帰途についた。
 耳朶に手をやり、そこにある贈り物に触れる。自らの体温でほんのりあたたかいそれは、そのまま千葉の事を思い出させてくれる。
 今日、このピアスをつけてきたのは、神奈川なりのけじめのつもりだった。そしてそれを彼に見せたのも、千葉との関係をもう一歩先に進めることを決意した、儀式の様なものだ。
 いつも目につく場所に置いてあった、これの存在を忘れたことは一度もない。だが、どうしてもつけることができなかった。決してデザインが気に入らないだとか、似合わないだとか、そういった理由ではない。

 千葉の告白を受け入れてから、ずっと距離は縮まった。最初から今まで、嫌悪感や遠ざけたいという気持ちは、かけらも存在していない。彼のことを愛おしく思う気持ちは、確かに胸の内に存在していた。
 だが神奈川は、千葉から向けられるそれと同じものを腕にかかえている、とはどうしても思えなかった。それなのに、手を離す事ができない。付き合う前に感じていた気持ちは、いまや違う形に変容してきている。
 好意を伝えられる前、千葉が与えてくれる名前の分からない親愛の情が嬉しくて、曖昧なまま受け入れてしまった自分が悪いのだ、と今ははっきりと感じている。そのせいで、千葉は神奈川の事を「そういう意味で」好きになった、と錯覚したのでないかと、今でも思っている。ようは、勘違いをさせた、ということだ。

 告白を受けたあの時、神奈川が断っていたとしたら――。その事を時折考えていた。ふたりの間はぎくしゃくしたかもしれないが、千葉が誰か別の相手を選んだ時には、笑って祝福ができるような、普通の友人関係に、時間をかけて戻れたかもしれない。応えられなくてごめん、でもよかったと、本心から伝えられたはずだ。そして、それがふたりにとって最も理想的な関係であったんじゃないかと、考えてしまう。

 だが、おそらくもう、そのように考えることはできない。千葉が他所をむいたりしたら、神奈川自身がきっと、それを許す事ができないと思うからだ。自分は同じ気持ちを持てていないのに、相手を手放せないだなんて、なんたる我儘。歪んだ独占欲だ。そう思うと、自分が嫌になる。この気持ちのまま、千葉と向き合っていれば、いずれ破綻してしまうように思う。だが、少しでも決断を先送りにしたい。そんな、神奈川の矛盾した想いを知っても、千葉は許してくれるだろうか。
 いま考えても仕方ない事ばかり、ぐるぐると脳内をループしている事に気付いて、神奈川は頭を振った。

 今日は、本当に楽しかった。それだけは変えようのない事実だった。今、胸の中におさまっている、静かであたたかな気持ちだけをすくいあげて、今日はベッドにつこう。肩にかけたストールを胸の前で手繰り寄せ、強く吹いた風をやり過ごした。そして、もう一度ピアスにそっと触れてから、千葉の名前を小さく呼んだ。