Kishie
2025-12-14 00:17:27
7915文字
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つながりのかたち

2021年4月に開催されたオンラインイベントで頒布した「始まりは、夕暮れに」の一部です。

千葉さんの唐突な告白から始まり、付き合うことになったちばかな。
自分の気持ちがどこにあるのかわからないままでいるカナさんが、ちばさんとのデートに挑む感じの話です。


「神奈川」
すこし前の事だった。ふたりで会った日の帰り道。駅へ向かう道中に、千葉からはっきりした声色で呼び止められた。
「どうかした?」
 寂しくなっちゃった? などとふざけてみれば、大真面目な顔で違う、と否定される。その直後はっとした様子で、違わねえけど、とマフラーの中でもごもご言葉を濁らせる彼の様子がおかしくて、思わず吹き出してしまう。いつもならそこで、笑うなと噛み付いてくるはずなのだが、その時は違った。大人しくコートのポケットの中に手を突っ込んだまま、憮然とした表情で神奈川のすぐ隣に近寄ってくる。周りには誰も居らず、道路の両端に立ち並ぶ街灯の光が、ふたりの足元に影を作っていた。

「これ、やるよ」
 息をすうっと吸い込んでから、片手を神奈川の前に突き出す。神奈川が手のひらを差し出せば、小さな箱がちょこんと置かれた。
「なに?」
「開けてみれば分かる」
「いま開けていいの?」
「あ、いや、帰ってから開けてくれ」
 なにそれ、と言いながら、神奈川は唐突な贈り物に少しだけ戸惑った。
「何かのお祝い?」
「いや、そんなんじゃねえけど」
「俺、何も用意してないから、貰うの悪いよ」
「良いんだよ、俺が勝手にやった事だし。それに……」

 付き合ってんだから、とそっぽを向きながら赤い顔をして押し付けられてしまえば、断ることもできなかった。場のくすぐったい空気にあてられて、手の中の小箱を見つめる。辛うじて、ありがとう、とだけ伝えた。
千葉はその日、改札の前で別れる時まで、もう一度も目を合わせてくれなかった。

 約束どおり、帰宅してから箱を空ける。室内灯の光をうけて輝くそのふたつのリングは、とてもシンプルなデザインのものだった。一つずつ手に取って眺めながら、これを贈ってくれた千葉の気持ちについて思いを巡らせ、一夜を過ごした。

 その後、千葉がそのときの贈り物について言及してくる事はなかった。だが、ふたりで会う時に千葉の視線が自分の耳を掠めている事に、神奈川は気づいていた。そして、そのたびに、彼の菜の花色の明るい瞳の中に、落胆の色を隠せていなかった事にも――。ほんの一瞬の変化に、胸の奥が締め付けられるような心地がしたが、神奈川からその事に触れることも、なかった。


 気づけば、家を出る予定ぎりぎりまで時間が迫っていた。もう一度、手元に視線を落とす。神奈川と千葉の関係が始まって、二ヶ月が過ぎようとしていた。