tonami
2025-12-12 02:35:21
8156文字
Public 50音
 

50音/か行

50音短文詰め②



く/現パロ



 くりくりとした大きな目に見上げられた瞬間、すべての時が止まった気がした。
 光を吸い込んで銀色に輝く薄いグレー。ちかちか内側で瞬くのは小さな星達で、瞳の中には青や赤、白く光る銀河が存在している。世界で一番うつくしい瞳。この世の至宝。なによりもの、光。
 甘いいかずちが全身に走った。目の前の星からどうしても目が離せない。呼吸は浅く短く、心臓が鷲掴みにされたように痛む。痛みを抑えるように服を握り込んでも、心臓はきゅうきゅうと切なく鼓動を続けている。
「ロー? どこか痛むのか?」
 心配そうに覗き込んできた養父の声も遠い。聴覚はきゃらきゃら笑う可憐な声を拾うのに必死だ。
 そろそろと手を伸ばしてまろい頬をつつく。マシュマロみたいな柔らかさと滑らかさにあっという間に虜になった。撫でる力は傷つけないように、やさしく、やさしく。
 まだこの世の中の汚い部分などなにも知らない、己を傷つけるものなど何もいないのだと信じきった、まっさらでまっしろな存在。汚れていないからこそ、より強く明るい輝きを放つ星。その一等星が、ふにゃりと綻ぶ。瞬間、ローを襲った衝撃はまさしくビッグバン。齢五つにしてこの世に誕生して一年も経っていないような赤ん坊に、トラファルガー・ロー少年は一目惚れしたのだった。
「卒業おめでとう、ゾロ」
 左手の薬指に指輪を通す。内側に互いのイニシャルと誕生石が埋め込まれたシンプルなデザインは心配するまでもなく、難なく馴染んだ。
 あの運命の日から十八年。ローの指を辛うじて一本握れるほどだったちいさな手は、剣だこだらけの無骨な男のものへと成長するだけの時間が経っていた。
 初恋というのは往々にして叶わない、らしい。不確定なのはロー自身がその定説から外れるからだ。
 一目惚れをかましたあの日から、なんとか初恋の子とずっと一緒にいられる未来のためにとにかく頑張った。幾度となく結婚の約束をし、己と大事な子に好意や下心を隠さず近づこうとする同性異性をちぎっては投げ、よそ見なんてもっての他。
 ずっとずっと、あの日の一等星がローの一番星になって、傍で輝いてくれるように。ひたすらにひたむきに、ただひとりに愛を注ぎ続けた。その結果、出会ってから二十年近い現在ではローに愛されることが当然だと思っているし、自身もローの傍にいることを当たり前に受け入れている。恐ろしいほどの執念深さと愛の重さの勝利である。
「本当はすぐにでもパートナーシップの届けを出したいところなんだが、お義父さんから二十歳までは許さないと言われてるからな。もう少しだけ待っててくれ」
「おれはいいが、お前は堪えられんのか?」
「いまさらどうってことねェよ」
 それに、とローを見上げるいとおしい瞳を覗き込む。
「ゾロのこれからの人生丸ごと貰うんだ。お前を大事にしてる人達からの信用を得るためなら簡単なことだよ」
 ローと同じように早くに家族を亡くしてしまったゾロは、義父と義姉に溺愛されていた。特に義父は十歳で婚約指輪を渡したローに、子供の口約束や一時の感情とは流さず、ゾロとローの将来について懇々と諭したほどだ。しかし、その時点で気持ちはすでに固まっていた。八年経っても揺らぐことはなく、むしろどんどん大きく強固になっていまに至る。
「まァ親父と姉貴のこと大事にしてくれんのは嬉しいけどよ」
 嵌められた指輪をしげしげと眺めていたかと思えば、唐突に薬指に唇を寄せる。ローによってしっかりケアされた柔いそれが銀色に触れた途端、自分にされたわけでもないのに鼓動が跳ね上がった。
「なにがあろうとおれはいままでもこれからもずっとローのものだし、ローもずっとおれのだろ」
 ローを映して笑みにたわむ瞳がきらきら光を放つ。年々輝きを増す一等星は、とっくの昔にローにとっての一番星になっていた。宙のどの星々よりも美しく眩い、なによりも大切でいとおしい存在。
 あの日出会った瞬間から、ローはゾロという星に灼かれている。




生涯輝く一番星よ