すだ
2025-12-07 19:45:44
23336文字
Public 主スバカグ
 

すず、奔走する

舞手スバルと嫁カグヤ。交際前、絆レベル7くらい。すずちゃんがスバルとカグヤの仲を進展させるために
モコロンと協力しながら頑張るお話。小さい子が主要な語り手なので、読みにくいかもしれません。すみません。
ムラサメさん、ツバメさん、ツイランさん、ワタラセさんが出てきます。
姉妹のご両親はすずちゃんが物心つく前に鬼籍に入った想定です。
いろはさんの恋人後絆クエストを見ていないため齟齬がある可能性があります。ご了承ください。
#スバカグ



 すずの考えた作戦はこうだった。
「あのね、プレゼントはスバルくんがほとんど毎日してるからいらないと思うんだ」
「あー、確かにカグヤさん、お花を持って嬉しそうに歩いていることが結構あるね」
「スバルのやつ、道端に花が咲いてるとためらわず刈り取っていくからな」
「豪快だね……
「あと、怖いことはしてほしくない。いつもいっぱい怖いことしてるもん」
……そうだね、わたしたちの安全のために体を張ってくれているんだもんね。充分だよね」
「そうすると残るのは、一緒にいることと踊ることか?」
「うん! だからふたりで舞えばいいんじゃないかな?」
「なるほど……
「でもカグヤは、よっぽどのことがない限り舞わないぞ。神に義理立てするというか、頑固なんだよ。身近に六神がいる状況だから、それが更に悪化してるんだよな」
「そうなんだよね……。何かお祝いごとでもあればいいんだけど……。あ」
「お姉ちゃん?」
「来月はすずの誕生日だよね。そこで舞ってもらえないかな?」
「いいかも! お願いしてくる!」
 がまんできなくて飛び出したすずのうしろから、お姉ちゃんの声が聞こえた。
「あ、ちょっとすず! 慌てて転ばないようにねー! モコロンは行かないの?」
「オイラがついて行ったら、スバルが絡んでるんじゃないかって疑われるかもしれないだろ? とりあえず団子」
……お団子が食べたいから行かないのかと思った」
「そ、そんなわけないだろ〜。オイラはいつでも相棒のことを思ってだな」
「はいはい、少々お待ちください」
 この時間だと、カグヤちゃんは春の社のおそうじをしていることが多いから、社へ走る。白い後ろ姿が見えた。いた、カグヤちゃんだ。
「カグヤちゃーん!」
「すずちゃん? どうしたんですか、そんなにあわてて」
「あのね、すずお願いがあるの!」


 そして迎えたすずの誕生日。空は快晴、風も吹かない、これ以上ない良い天気だ。お誕生会の場所は秋生まれの子たちのため、秋の里ですることになった。
「ひろーい」
「本当だ。ずいぶん広いねえ」
 スバルくんとカグヤちゃんのふたりで舞うには広い舞台を見て、すずは首を傾げた。となりでお姉ちゃんもびっくりしている。何か理由があるのかな?
「「すずちゃーん!」」
 すずの名前を呼ぶ声がしてそっちを見ると、ひなちゃんとコタロウくんがこちらへ走ってくるのが見えた。
「まだ少し早いけど、お誕生日おめでとう!」
「おめでとー!」
「ありがとー! コタロウくんもお誕生日おめでとー!」
「「おめでとう!」」
 すずとお姉ちゃん、ひなちゃんからのお祝いの言葉に、同じ秋月生まれのコタロウくんはニッコリ笑ってくれた。
「へへ、ありがとな!」
 お誕生会は秋月の1日にやることになった。すずのお誕生日は3日だから、少し早い。コタロウくんは8日生まれだ。
「わあ、もみじの髪飾り、きれいだね」
「えへへー、ありがとう。里のお姉さんたちの自信作だよ」
 ひなちゃんは早速すずのおめかしに気づいてくれた。秋の里でお祝いしてもらうから、秋に関係のあるものを身につけたかったんだ。裁縫上手の里のお姉さんたちに相談したら、まかせて! とはりきって作ってくれた。つまみ細工で作られた赤や黄色、オレンジ色のもみじの下に、ゆらゆら揺れる飾りがついている。
「ゆらゆらしてて赤くてかっこいいな!」
「ありがとー!」
「コタロウくんは赤色と緑色が大好きだもんね」
「クラマ様の色だからな! 赤と緑はかっこいい!」
 コタロウくんも目をキラキラさせてほめてくれた。今日はいい日だな、ほめられてばっかり。
 すず以外に誕生日をむかえるお友達たちも、それぞれおめかしたりいつも通りだったり。みんな、これから何が起こるのかワクワクしている。
「どんな誕生会になるんだろうね。ひなも準備は手伝ったけど、詳しくは秘密です、ってカグヤさんに言われちゃった。楽しみだなー」
 ひなちゃんも楽しそうに尻尾をふっている。
 こういうの、すごくいいな。すずがあいどるとして目指していることとおんなじ。
 みんなが笑顔になって、何が始まるんだろうってワクワクしてるの。
 四人でおしゃべりしながら待っていると、もみじの枝を持ったスバルくんとカグヤちゃんがやって来た。一礼したあと、スバルくんがみんなに声をかける。
「秋生まれの皆様、お誕生日おめでとうございます」
 続いて、カグヤちゃんが一歩前へ出る。
「ささやかではございますが、皆様の無病息災を祈念して、里長とひと差し舞わせていただきます」
 みんなが一斉に拍手をすると、ふたりはうなずきあって舞台へ上がった。
 舞台の脇を見ると、いつの間にか琴を前にしたうららかちゃんが座っていた。すずたちに気がつくと、嬉しそうに手を振る。手を振り返した。神様にささげる舞のために、春の神様であるうららかちゃんが演奏をするのっていいのかな? だんだんこんがらがってきた。でもうららかちゃん、とても嬉しそう。多分自分も演奏したいってものすごくお願いしたんだろうな。うららかちゃんを見るカグヤちゃん、苦笑いになってるもん。
 演奏が始まると、ふたりの空気が変わった。
 ゆっくりとした動きで正座をし、神様にささげたお供えものの前で深く頭を下げる。
 そのまま静かに立ち上がると、両手をゆったりと回していく。腕を空にむかってぴんとのばす姿に目がはなせない。足も前へ後ろへなめらかに動いてる。いつも思うけど、手をのばしたり歩いたり、みんながいつもやっているような動きをどうしてここまでキレイに見せられるんだろう。すずもがんばって練習したら、あんな風に踊れるようになるかなあ。
 他のみんなも、静かにふたりの舞を見つめている。どこかからため息が聞こえてきた。分かる、みとれちゃうよね。
 向かい合ったとき、自然とふたりが笑顔になった。ほらね、スバルくんとカグヤちゃんは、舞っているときが一番素直になれるみたい。
 くるくる回って、また目が合って、笑い合う。腕を回すたび、手に持ったもみじが赤く空にかがやく。この時間が終わらなければいいのに。
 舞が終わり、みんなに向かってお辞儀をしたふたりへ、大きな拍手が起こった。うららかちゃんなんて、目に涙を浮かべながらうなずいている。
 拍手がやんだあと、スバルくんが言った。
「ありがとうございます。これにて舞の奉納は終わりますが、今日は特別な日ということで、もしよろしければ一緒に舞いませんか?」
 すずは目をぱちくりさせた。いっしょに舞う?
「今回は小さい子でも踊れるような動作の簡単な舞を選びました。私たちが教えますので、踊りたい子はこちらへどうぞ」
 そう言って、スバルくんがすずたちに向かって手招きした。なるほど、広い舞台だったのはそのためだったんだね。みんなで踊るなんて、すっごく楽しそう!
「さあ、すずちゃん、一緒に舞いましょう」
 カグヤちゃんが、真っ直ぐすずへと手を伸ばした。隣でスバルくんも柔らかく瞳を細めている。すずも気がついたら笑っていた。とくべつな日に最高の贈りものをしてくれるふたりが、大好きだ。
「うん! みんなも一緒におどろー!」
「おう!」
「やってみたーい!」
「いっしょに舞うー!」
 駆け寄ってふたりの手をにぎる。他の子たちも歓声を上げながら舞台に駆け込んでくる。コタロウくんももちろん一緒だ。となりでぴょんぴょん飛んでいる。早く舞いたくてしょうがないみたいだ。お姉ちゃんたちも、回りで見ている大人もうれしそうに笑ってる。みんな笑顔になって、舞は再開された。


「終わったねえ」
「終わりましたね……
 ふたり同時にため息を吐く。
 今日はとにかく大騒ぎだった。みんなで楽しく舞ったまでは良かったが、神たちの琴線——特に春の神——に触れてしまったようで、次からはもっと大々的に執り行おうと熱心に請われることとなった。
 しどろもどろになるカグヤの後ろで、「ああ、カグヤさんこうなるって気づかなかったんだね」といろはとひなに同情され、ようやくことの重大さに気がついた始末だ。
「スバル、気がついていましたよね?」
 隣で素知らぬ顔をしている幼馴染を睨むと、「まあ……」と歯切れ悪く返された。
「教えてくれてもよかったじゃないですか!」
「いやぁ、カグヤがやる気になっているのに水を差すのはちょっと」
「そんな気遣いいりませんから!」
「まあまあカグヤ様、せっかくのおめでたい日に諍いはいけませんよ~?」
 うららかに諭され、黙り込む。確かにそうだ、今日の主役はすずちゃんを始めとする子供たち。自分の恨み言などささいなことだ。ささいなことだけど、納得いかない。
 恨みがましくスバルを見ると、困った顔で「ごめんね」と謝られた。そんな申し訳なさそうな顔をされては、許すしかないではないか。全く、本当にずるいひと。
「取り乱しました。失礼いたしました」
 ため息をひとつ吐きうららかへ微笑むと、春の女神が安心したように頷いた。今日もうららかは麗しい。
 敬愛する女神の頼みだ、おそらく押し切られるのも時間の問題だろう。
 スバルではないけれど、押し切られることにすっかり慣れてしまったカグヤである。
 その後は恒例のどんちゃん騒ぎで、未成年のすずの誕生日にも関わらず大人たちは酒をかっ喰らい、特に鬼の神が浴びるように酒を呑み、ヤチヨが半眼になりながらせっせと酒のあてを運ぶことになった。いろはは好き放題の大人に青筋を立てていたが、今更何を言っても無駄だよ、とひなに慰められていた。
 酔い潰れる大人たちを残し、すずの気が済むまで付き合っていたカグヤとスバルだったが、主役が船を漕ぎ始めたためお開きになったのだ。
 そして今、秋の竜神社の濡れ縁にふたり並んで座っている。
「大変でしたけど、すずちゃんが楽しそうで良かった」
「そうだねえ」
「スバルは先ほどから、ずいぶん呆けた様子ですが」
「ええー?」
 さっきから気の抜けた返事しか返さない幼馴染に視線をやると、疲れた様子ではあるものの、満足そうに笑う瞳と目が合った。
「カグヤと舞うのが楽しかったから、余韻をかみしめてるところ」
「はあ、そうですか……
 ついそっけない言葉が出た。態度を改めようと思ったのにこれだ。自分に失望しながら、せめて正直な気持ちを伝えようと口を開いた。
「私も、楽しかったです」
「本当?」
「多分」
「多分って……
「ふふ、冗談です。本当に楽しかったですよ」
 久しぶりに素直な気持ちで笑いかけることができた。面食らった様子のスバルが眉尻を下げる。
「カグヤってずるいよね」
「何を言っているんですか。私はズルなんてしませんよ。正々堂々と胸を張れるよう生きているつもりです」
……うん、そうやって重く受け止めるところもずるいよね」
 スバルの言う『ずるい』が『可愛い』の意味だなんて、カグヤには分かるはずもない。後で白状されて赤面したのは別の話である。
「これからもずっと、カグヤと一緒に舞えたらいいな」
……スバル」
「うん?」
「手を繋いでもいいですか?」
……いいの?」
「はい。……手を繋ぎたいです」
 滅多にないカグヤからのお願いに戸惑った様子のスバルだったが、素直に手を差し出してくれた。ひと回り大きい手を軽く握りしめる。
 あたたかい。
 すぐそばに座る幼馴染を見上げた。カグヤが視線を向けると、気がついてすぐに見返してくれる。どうしたの? と聞いてくれる。座っていても目線が高いのは、スバルの方が背が高いから。昔はほとんど変わらなかったのに、いつの間にかカグヤを追い越していた。ただでさえスバルの方が年上で、己を鍛えることを苦にしなかったから、同じように努力をしてもなかなか追いつけなかった。負けず嫌いな性格から、少しでも追いつきたくて背中を追い続けた。スバルと勝負し負けるたび涙ぐんで、手のかかる妹分だったと思う。カグヤが勝ったときは、悔しそうな顔をしながらも「完敗だよ。頑張ったんだな」と言ってくれたのに。いつも困らせてばかりいた。それなのに、スバルは少し先を行くと、必ず振り返り待っていてくれた。何度も、何度も。
 睦まじかった故郷での関係は、互いが白竜と黒竜の乗り手になったことで破綻した。カグヤがここにいることで誰かが傷ついているかもしれない。お前のせいで、と後ろ指を指されることになるかもしれない。覚悟はしていたし、非難を浴びることも甘んじて受け入れるつもりだった。そんな緊張状態の中にいたからか、春の里へ身を寄せた当初は酷く厭世的になっていて、人と交わることすら煩わしくしばらくの間引きこもっていた。その間も、スバルは何も言わず顔を見に来てくれた。いくらそっけなくしても、顔を合わせるたび幸せそうに笑ってくれた。
 離れていた背中がやがて近づき、今は隣を歩いている。横を見れば、彼がいてくれる。こちらの視線に気がつくとどうしようもなく嬉しいと、何かが瞳に浮かぶのを知っている。その『何か』の正体も、今ならおそらく分かる。
 離れていた時間はあったけれど、ほとんどの時間を共に生きてきた。これからは、どうなのだろう。
「ずっと、あなたと一緒にいられたらいいのに」
 思わず口に出してしまった望みに、あ、と声が漏れた。
 琥珀色が月夜の淡い光の中揺らいだ。吸い込まれるように煌めく瞳を覗き込む。呼吸が浅くなる。
「カグヤ」
 スバルが静かに名を呼ぶ。真剣な顔で、少し頬を赤らめながら。
 繋いでいた手が強く握りしめられた。
「オレ——


 すずたちのお誕生会から半月がたった。お誕生会がとっても楽しかったから、すずはしばらくフワフワした感じだった。うららかちゃんがもっと豪華に、って言っていたから来年はもっと楽しくなるかなあ。早く来年がこないかなあ。
 今日もお姉ちゃんのお使いで竜神社にやって来た。すごく嬉しそうなモコロンが階段の下で待っているのが見える。
「やったぞ、すず!」
「なにかあったの? モコロン」
「お前も来れば分かるってー」
 デレデレした顔をするモコロン。よくわからないけど、いいことがあったみたいだ。一緒に階段をのぼる。上までのぼると、どうしてモコロンがあんなにうれしそうだったのかわかった。
「モコロン!」
「すず!」
 みっしょんはだいせいこうだったみたいだ。
 そこには前みたいに眠っているカグヤちゃんと、あぐらをかいてカグヤちゃんを膝枕するスバルくんの姿があった。
 すずは大きく手だけを振りスバルくんにそっと近寄る。
 すずに気づいたスバルくんが唇に人差し指を当てた。
 とても幸せそうな笑顔で。