すだ
2025-12-07 19:45:44
23336文字
Public 主スバカグ
 

すず、奔走する

舞手スバルと嫁カグヤ。交際前、絆レベル7くらい。すずちゃんがスバルとカグヤの仲を進展させるために
モコロンと協力しながら頑張るお話。小さい子が主要な語り手なので、読みにくいかもしれません。すみません。
ムラサメさん、ツバメさん、ツイランさん、ワタラセさんが出てきます。
姉妹のご両親はすずちゃんが物心つく前に鬼籍に入った想定です。
いろはさんの恋人後絆クエストを見ていないため齟齬がある可能性があります。ご了承ください。
#スバカグ



 さて、どうしたものか。カグヤは悩んでいた。
 すずのたっての願いで、スバルとふたりで舞うと約束してしまった。いつものカグヤであれば冷静に事情を説明し、すずに納得してもらえたかもしれない。
 だが、今日のすずは何というか……気迫がすさまじかった。絶対に引かない意志を感じた。加えて愛らしいおねだり攻撃である。あれに落ちない人間がいたらお目にかかりたい。
 それに、スバルとの時間を持てるかもしれないと、欲が出てしまった。
 つい先日自覚してしまったスバルへの恋心。罪を犯してしまった自分が抱くには分不相応で、浅ましい気持ち。
 本来は共に過ごすことさえ許されないと思うのに、幼馴染はお構いなしに自分のもとへとやってくる。
 恋情を自覚していなかった頃、一緒にいたいと彼に伝えたのは他ならぬカグヤ自身だった。昔のように幼馴染として、または友人として共に生きられれば幸せだと思ったからだ。
 しかし恋人となれば話は変わってくる。行き着く先は結婚だろう。アズマの脅威と成り果てたカグヤが夢見るには、あまりにも縁遠いものだった。
 そのため最近はカグヤの方からスバルに近づくことは極力避けるようにしているが、会いたいときに会えないのは辛いものがあった。彼だって暇ではない。カグヤ自身も春の里で頼られることが増えてきた。頻繁に会えない分、じわじわと苦しくなっていく。
 なるべく自然に距離を置いたつもりだが、狩人であるスバルは勘が鋭い。もしかすると避けていることに気付いているかもしれない。時折こちらをもの言いたげに見ていることがあるのは気付いていたが、知らぬふりを貫き通した。
 共にいるべきではない。けれど離れているのは辛い。矛盾した感情がカグヤを苛む。そんな折、すずからスバルと共に舞って欲しいとお願いがあったのだ。スバルと一緒にいられる絶好の機会がやってきた。正直、心が踊った。
 だが、こんなことをお願いしてもいいものなのだろうか? ひとりで考えていても結論は出ず、とりあえず春の里へやって来た幼馴染へと声をかけた。名を呼んだ途端、相好を崩すスバルを苦々しく見る。四季の里をまとめる里長が、こんなにゆるくて大丈夫なのだろうか。
「オレとカグヤが? 一緒に?」
 かいつまんで事情を説明すると、スバルは瞳をぱちくりさせながら問い返してきた。
「はい。お忙しいのは重々承知しているのですが、すずちゃんから熱心にお願いされて……。いかがですか?」
「やりたい。一緒に舞いたい」
 即答だった。更に満面の笑みでこちらを見てくる。そんなにカグヤと舞うのが嬉しいのだろうか。呆れると同時に心の奥底がじんわり温かくなる。スバルを避け続けていたのに、この人は今でも共にいたいと思ってくれているのかもしれない。首をもたげた淡い期待は慌てて心の奥底へと押し込めた。
「ありがとうございます。断られなくて良かったです」
「カグヤと一緒に舞う機会を断るなんてするはずないだろ。勿体ない」
 オレはキミの舞が大好きだからね、と真剣な顔で返され鼓動が早くなる。勿体ないなんて食べものじゃないんだから、と何とか意識を逸らし話を続けた。
「すずちゃんは私にとって大切な人です。お祝いはもちろんしたいのですが……
「何か気がかりなことでもある?」
 スバルに問われ、見透かされたことに少し驚きながら頷いた。
「はい。他の皆さんのことを考えると、迷ってしまいます」
「すずちゃんばかり贔屓するわけにはいかない?」
「ええ」
 贈りものを渡してお祝いするのとは違う。本来スバルやカグヤが舞うのは神前に奉納するためのもの。五穀豊穣や子孫繁栄など、願いが込められている。すずにだけ舞を披露するとなると、不公平な気がするのだ。
「うーん、そうだな……。あ、じゃあ同じ秋月が誕生日の子を集めるのはどう? 子供たちの健康を願って舞えばいい」
「なるほど、それはいい考えですね」
 頷いたカグヤだったが、引っかかるものを感じ考え込む。
……その場合、公平を期するために私は必ず毎月舞わないといけませんね」
 バレたか、とばかりにスバルが視線を泳がせる。もしかして、カグヤの舞を見たいがために提案したことではないかと疑いたくなる。何せカグヤの舞う姿を見たいばかりに宴を開いたことのある人間だ。疑われても仕方ないだろう。
 とはいえ、四季の里の皆さんには大変お世話になっている。毎日修練を欠かすことはないため、舞の腕も落ちてはいないはずだ。それならやるしかない。
「分かりました。私が言い出したことです、やりましょう。その代わりスバル、あなたも一緒に舞ってもらいますからね」
 意趣返しにわざと仕事を増やすつもりでそう言うと、嬉しくて仕方ないとばかりの表情で笑われた。一瞬呼吸ができなくなったことは秘密だ。
 それからは出来るだけ空き時間を作っては打ち合わせを重ねた。どの演目を舞おうか、規模はどのくらいか、演奏はどうするか等々。人のための宴となれば、より力が入る。すずや他の子たちに喜んでもらいたい一心で案を出すカグヤをスバルが上機嫌で眺める。隣のモコロンも嬉しそうにふたりの様子を見守っていた。保護者に見守られているようでむず痒い。ただ、一緒にいられる時間は素直に幸福だった。


「カグヤさん、こんばんはー。今日も打ち合わせと練習?」
 練習帰りの夕暮れ、いろは茶屋に顔を出すといつもと変わらぬ気持ちのいい笑顔が迎えてくれた。疲れが吹き飛んでいく気がする。真っ直ぐ自宅へ帰ろうと思っていたものの、どうしてもいろはの笑顔が見たくなったので立ち寄ったのだ。
「こんばんは、いろはさん。はい、先程までスバルと舞の練習をしていました。昔はもっと体が動いていたと思うのですが、駄目ですね。もっと頑張らなくては」
「いやいや。カグヤさん前に話してくれたけど、故郷の村の修行は過酷過ぎるよ。あの頃と同じようにやったら体を壊しちゃうってば。そんなのわたしもすずも嫌だからね。まあ、カグヤさんは二度と無茶はしないと思ってるけど」
 いろはの眉尻が下がるのを見て、表情を引き締めた。彼女にあんな顔をさせるのは二度とごめんだ。
 一度頑張りすぎて疲労困憊になった際、いろは茶屋で倒れてしまったことがある。自己管理はしっかりできているつもりだった。だが、倒れる前日は朝から魔物の討伐依頼が多かった。困っている里の人たちを放っておく訳にはいかないと、限界以上に働いてしまったのだ。夜更けに自宅へ帰り着くと泥のように眠った。少し遅く起き午前中をぼんやりと過ごした後、軽食をとろうといろは茶屋を訪れた。そこで意識を失い、目が覚めた頃には夕刻だった。いつの間にか茶屋の座敷に寝かされており、目の前には涙をためたいろはと安堵の笑顔を浮かべたうららかの姿。いろはから、切々と自分を大切にして欲しいと懇願され、気がつけば首を縦に振っていた。


 余談だが、当然すぐスバルの耳に入り、迫力のある笑顔で当時の状況を説明させられた。
「倒れた原因、分かってるんだよね?」
「はい……
 笑顔が怖い。この表情のときのスバルはものすごく怒っている。
「どうしてこんなことになったと思う?」
「身の丈に合わない労働をしてしまったから、です。翌朝、ろくに休まずに活動してしまったのもいけなかったと……
「うん。じゃあ次からどうする?」
「次に同じ状況になったときは、どなたかに相談します。ムラサメさんやひなさん、マウロさん、戦える方は他にもいらっしゃいますから」
 よく考えれば、カグヤ以外にも戦闘能力の高い住民は多くいるのだ。それに思い当たらなかったあたり、すでに疲労がたまっていたのかもしれない。
 カグヤの返答に、スバルがうなずいた。
「前に比べれば、誰かを頼ろうと思えるようになった分前進かな」
「え? 何か言いましたか?」
「誰かを頼ろうと思ってくれて良かった、って。じゃあ、改善点が見つかったところで今は自宅で休もうか」
「うぅ……分かりました……
 それから一週間、何もさせてもらえなかった。仕方がないので自宅の掃除をしたり、いろは茶屋やヤチヨの店でゆっくり食事をしたり、各里で仲良くしてもらっている人たちに会いに行ったりした。結果的に充分休息をとることができたので、感謝はしている。


 いろはに心配をかけたくないのは勿論だが、二度とあんな恐ろしい思いはしたくない。スバルの凄みのある笑顔が浮かびカグヤは身震いした。
「カグヤさん?」
「あ、ごめんなさい。スバルに怒られたときのことを思い出していて……
「ああ、あれは当事者じゃないわたしも怖かったなあ……。怒ったところをほとんど見たことがなかったから驚いたよ。スバルくんって静かに怒るタイプなんだね」
 いろはが肩をすくめる。確かに、スバルは怒ることが滅多にないから驚くのも無理はない。
「きっと、いろはさんも無理をしたら怒られると思います。気をつけてくださいね」
 カグヤが忠告すると、思いもよらない言葉だったようでいろははこちらをまじまじと見つめてきた。
「うーん……スバルくんが苦労するわけだ……。全然気付いてもらえてないもんね……
「何のことですか?」
「ええとね、多分スバルくんはカグヤさんだから怒ったっていうか、わたしには多分怒らないと思うよ」
「え……私はそんなに頼りないですか」
 落胆が顔に出たのだろう、慌てていろはが言葉を続ける。
「そうじゃなくてね。うーん……。わたしはスバルくんじゃないから間違っているかもしれないけど、スバルくんにとってカグヤさんは、わたしにとってのすずみたいな存在なんじゃないかな」
「いろはさんと、すずちゃん」
「うん。家族というか……他の人より寄り添ってる感じがする。大切に思っているから心配しちゃうし、声をかけずにはいられなかったんだと思う」
 それはつまり、スバルにとっての特別がカグヤということだろうか。だとしたら嬉しい。けれど困る。
 黙りこんでしまったカグヤにいろはが声をかけた。
「さっきも言ったけど、わたしがそう思っただけだから。本当のことはスバルくんにしか分からないよ」
「はい……
 悩ませちゃってごめん、この話は終わりね! といろはが明るい声を出す。
「そうそう、すずのために色々考えてくれてありがとうね。カグヤさんの舞が見られるの、今から楽しみだよー。すずも楽しみにしているみたい。早くお誕生日がこないかな、って毎日言ってるよ。何かわたしにできることがあったら教えてね」
「ありがとうございます。すずちゃんにはいつもお世話になっていますから、私にできることなら何でもやる覚悟です」
「覚悟なんだ……。そんなに重く受け止めなくていいんじゃ」
「大切な人の大切な日です。重く受け止めますよ」
 当然ではないだろうか。口にした言葉に、いろはは驚いた様子でこちらを見た。じきに茜色の瞳が細められる。
「そっか……。うん、そうだね、ありがとう。何か食べていく?」
「いえ、もうじき夕餉の時間ですから家で済ませます」
「分かった。ねえ、カグヤさん。もし良かったら少し話相手になってくれる? お客さんがいなくて暇なんだ」
「私で良ければ喜んで」
 茶屋の長椅子にふたり腰かけ他愛のない話をするうち、すずが帰って来た。
「あ! カグヤちゃんだ! こんばんはー」
「すずちゃん、こんばんは、おかえりなさい」
「ただいま! お姉ちゃんもただいま!」
「おかえり、すず」
 すずの頭を撫でた後、いろはは立ち上がる。
「さて、すずも帰って来たことだし、わたしは中の作業に戻るね。カグヤさんとすずはどうする?」
「私はそろそろお暇します」
「ここで店番してるー」
「ありがとう、すず。でももうすぐ日が暮れちゃうから、すずは帰った方が安心かな」
「あ、では私がお宅まで送りましょうか?」
「いいの? カグヤさんがついていてくれるなら安心だよ。よろしくお願いします」
「じゃあ、カグヤちゃんいっしょに帰ろー」
「はい。ではいろはさん、また明日」
「うん、また明日ね!」


 いろはとすずの自宅兼サカキ邸に着く頃には月が昇り始めていた。
「キレイなお月さまー!」
 ここ数日で少しずつ満ちてきた月を見上げ、すずが歓声を上げる。楽しそうにくるくる回る姿から目を離せない。人の目を引く力を持つすずは、まさしくあいどるなのだろう。愛くるしい姿を笑顔で見守っていると、もじもじしながらこちらを見上げてきた。可愛い。
「カグヤちゃん、送ってくれてありがとう。もう少しお話したいなあ……。ダメ?」
 頷くとすずが嬉しそうにぴょんぴょん跳ねる。
「じゃあこっち! ここからお月さまがよく見えるんだよ!」
 サカキ邸の玄関脇に誂えられた椅子にちょこんと座ったすずが手招きする。隣へ腰かけると、手を握られた。
「カグヤちゃん、今日もスバルくんと練習してたの?」
「はい」
「すずだけじゃなくて、他の子たちのお祝いもしてくれるんだよね。すごく楽しそうでワクワクしちゃう! ありがとう! とつぜんお願いしちゃったことは、ごめんなさい」
 しょんぼり項垂れる頭に慌てて語りかける。
「最初は驚きましたけど、こんな機会をいただけて感謝していますよ。だから謝らないで、すずちゃん」
「ほんとう?」
「はい」
 良かったあ、と嬉しそうにすずが破顔する。元気になった様子に安堵した。どうもこの姉妹が落ち込んでいるのを見るのは居心地が悪い。
 ふとふたりきりになったことを意識したカグヤは、前から気になっていたことを尋ねた。
「聞こうと思っていたのですが……。すずちゃんはどうして私とスバルを一緒に舞わせたかったのですか?」


「すずちゃんはどうして私とスバルを一緒に舞わせたかったのですか?」
 カグヤちゃんに聞かれたしつもんの答えは、はじめからすずの心の中にあった。
「いつもいっしょにいたい、って思ってるふたりが少しでもいっしょにいられればいいな、って思ったから」
 カグヤちゃんが元気になったときのお祝いで、ふたりが舞ったときのことを思い出す。息がぴったりで、おたがいをやわらかい表情で見つめていて、何より楽しそうだった。
「カグヤちゃん、スバルくんといつまでもいっしょにいたいって思ってるんでしょ?」
 すずがたずねると、カグヤちゃんの肩がふるえるのが見えた。やっぱりそうなんだ。
「あのね。すず、お父さんとお母さんがどんな人だったかあんまり覚えてないの。お姉ちゃんとおじいちゃんがいるからさみしくないけど、ときどきどんな人たちだったのかなって思うんだ」
 もし生きていたなら、どんな風にすずへ話しかけてくれたんだろう。いろはお姉ちゃんやおじいちゃんのように、すずを抱きしめてくれただろうか。笑いかけてくれただろうか。
「お姉ちゃん、いつも言ってるよ。人はいついなくなるかわからないんだって。だから毎日すずに大好きだよ、ってつたえてるんだって。明日お姉ちゃんがいなくなっても、すずがその言葉で生きていけるように」
 すずには、まだお姉ちゃんの言っていることはむずかしい。だけど、すずのことを思ってくれていることだけは分かる。
「いくらいっしょにいたいって思っても、明日もいっしょにいられるかは分からないんだよ」
 お月さまを見上げた。銀色で、キラキラで、暗いところをやさしく照らしてくれる。今は雲が少しお月さまを隠しちゃってる。まるでここにいるカグヤちゃんみたいだ。
 スバルくんといっしょがいいのに、いっしょにいられないと思ってる。くもっている、キレイな光。
「だからね、カグヤちゃん。もしスバルくんのことが好きなら、好きだよって毎日つたえてあげてほしいな。すず、カグヤちゃんが言えばよかった、って悲しむのは見たくないから」
 いつかお別れがきても、後悔しないように。カグヤちゃんは何も言わないで、すずを抱きしめてくれた。カグヤちゃんの震える背中に手を回し、よしよしとなでてやる。
「すずとのやくそく、だよっ」