すだ
2025-12-07 19:45:44
23336文字
Public 主スバカグ
 

すず、奔走する

舞手スバルと嫁カグヤ。交際前、絆レベル7くらい。すずちゃんがスバルとカグヤの仲を進展させるために
モコロンと協力しながら頑張るお話。小さい子が主要な語り手なので、読みにくいかもしれません。すみません。
ムラサメさん、ツバメさん、ツイランさん、ワタラセさんが出てきます。
姉妹のご両親はすずちゃんが物心つく前に鬼籍に入った想定です。
いろはさんの恋人後絆クエストを見ていないため齟齬がある可能性があります。ご了承ください。
#スバカグ



 ある日の昼下がり。今日は珍しく客足が少なく余裕がある。店の周りを掃除でもしようかといろはが箒を持って外へ出ると、すみっこの方で何かをしている妹を見つけた。
 いろははお休み以外、朝から晩まで店主として茶屋を切り盛りしている。そのため妹のすずと過ごす時間は多くない。淋しい思いをさせていることなどしょっちゅうだろう。それなのに妹は文句も言わず、店の手伝いまでしてくれる。彼女が幼い頃より磨き上げてきたひとり遊びの能力はなかなかのものだ。お転婆な性格が災いし、ときどき大事件を起こすのが玉に瑕だが。
 最近すっかり賑やかになった春の里にはすずと同年代の子たちも増えてきた。遊び相手が増えた妹は毎日とても楽しそうで、本当によかったとしみじみ思う。里長としてここまで盛り立ててくれたスバルには感謝しかない。
 遊び相手が増えたとはいえ、じゃじゃ馬っぷりは相変わらずだ。すずがまた何か突拍子もないことを考えているのではと不安になったいろはは、こっそり影から様子をうかがう。
 今日はスバルの相棒、モコロンと一緒のようだ。時々かくれんぼをして遊んでいるのを見かける。
 神の眷属である白竜がかくれんぼをして楽しいのかは疑問だが、生き生きとした顔をしながら飛び回っているので結構気に入っているのかもしれない。
 すずと遊んでくれたお礼にと、毎回出している団子が目当ての可能性もある。
「と、いうわけなの!」
「ええとー? つまりすずは、スバルとカグヤを恋人同士にしたいってことか?」
「そう! だってふたりはとってもなかよしだもん。でも、あのふたりだけだとぜんぜん『しんてん』しないんだよ」
 そのためにモコロンの力が必要なんだ! と力説するすずに、モコロンは得意そうに胸を張った。
「まあ、スバルのことを一番よく分かってるのは相棒であるオイラだし? 可愛くて優秀なオイラが手伝ってやってもいいぞ」
「わーモコロンかっこいいー!」
 ふたりだけで遊んでいるならいいが、スバルとカグヤが関わっているなら話は別だ。友人に迷惑がかからないよう状況を把握しておかなければ。すずに声をかける。
「すず、何してるの?」
「あ、お姉ちゃん!」
 振り向いたすずが事情を説明してくれる。
 曰く、スバルとカグヤはお互い恋心を抱いているようだから手助けをしたいのだと。
 なるほど、手助け。ふたりが想い合っていることは薄々感じていたし、うまくいけばいいなと考えてはいた。かと言って、あまりお節介を焼くのもなと自重していたのだが、手助け程度なら悪くないかもしれない。
 何よりすずがやる気を出している。妹のやりたいことを叶えようとする辺り、何だかんだでいろははすずのことを溺愛しているのだ。
「でも、珍しいね。すずがこんなに誰かを仲良くさせようと一生懸命なのって初めて見たかも」
 いろはは本人も自覚しているとおり、かなりの世話焼きだ。「困ったときはいろはを頼れ」と春の里では言われている。カグヤのことも放っておけなくて面倒を見るうち、姉のような立ち位置になってしまった。だが、すずは里の皆のあいどるとしてやっているため、あまり特定の誰かに肩入れすることは少なかった。それがカグヤが来てからというもの、積極的に世話を焼こうとするようになった。ひとりで暮らしているから困ることがあるかもしれない、何かあったら助けようね、とふたりで話し合って決めたものの、ここまでするとは予想外だ。
……だって、いっしょにいたい人がいっしょにいられないのは、いやなんだもん」
 口を尖らせながらぽつりと呟くすず。すずの心の中には、どうしてもふたりの時間を過ごさせたい理由があるようだった。本人が言い出さない限り、いろはは無理に聞き出すことはしないようにしている。そっか、と相槌を打つと言葉を続けた。
「お姉ちゃんにもできることあるかな?」
 いろはの言葉に、すずは表情を明るくして首を縦にぶんぶん振った。
「もちろん! じゃあお姉ちゃんも一緒に作戦会議だ!」
 その言葉を皮切りに作戦会議が始まった。三人頭を寄せ合ってひそひそ話し合う。
「すずは何から始めるつもりなの?」
「えっとね、じょうほうしゅうせい……?」
「上空で何かするのか?」
 モコロンがやる気を出し始める。多分違う。
「えーと、情報収集のことかな?」
 いろはが指摘すると、すずの顔が明るく輝く。
「うんそれ! ひなちゃんが、みっしょんを達成するには情報を集めるのがたいせつなんだよ、って言ってたの」
「なるほど」
 すずといろはの友人であるひなは、Sheedという組織の一員らしい。まあ、人の恋路の手助けなんて仕事はないだろうが、目的を達成する手段として情報を集めるのは悪くなさそうだ。
「今日はどこで情報収集するつもり?」
「春の里! そのあとは他の里を回って、色々な人に話を聞くつもりだよ」
「なるほど、そこまで考えてるんだね」
「うん! すずはあいどるとして、スバルくんとカグヤちゃんの幸せのためにがんばるんだー」
「ええ? あいどるってそういうお仕事だっけ……
「わかってないね、お姉ちゃん」
 人差し指を左右に振りながらすずがいろはに説明する。
「あいどるはふぁんを笑顔にするのがおしごと。だからふたりを笑顔にするため、すずはがんばってるの」
 あいどるって、本来は歌と踊りでファンを笑顔にするのが仕事では? といろはは思ったが、すずが楽しそうなので深く追及するのをやめた。
 すずには、すずのあいどる道があるのだろう。
「分かった。じゃあお姉ちゃんはすずを応援するね。はい、今日のお弁当」
「わーい! ありがとうお姉ちゃん!」
「ちゃんと晩ごはんまでには帰ってくるんだよー」
「はーい! いってきまーす」
「行ってくるなー! スバルには適当に言っといてくれ」
「わかったー」
 いろはに見送られながらすずとモコロンはみっしょんを開始した。


 一日目。自宅前ですぶりをするムラサメさんを見つけて声をかけた。
「どういうときに胸が高鳴るか?」
「うん」
 すずの問いかけにムラサメさんはあごに手を当てて考えはじめた。
 どうしてムラサメさんに話をきいているかというと、カグヤちゃんと似ているからだ。
 朝のすぶりから始まり、魔物退治やたんれんまで。毎日やっていることが似ている。なので、ムラサメさんがドキドキすることはカグヤちゃんも同じかもしれない。
「そうさな……。強敵と戦ったときであろうか」
「きょうてき……?」
「左様。強い敵であればあるほど、気分が高揚する。これが更なる高みへ上りつめるための一歩なのだと思うと血がたぎるな」
 きょうてきがつよい敵だということは分かったが、あとはさっぱりだった。
「む、失礼した。少しすず殿には分かりにくかったかもしれぬ。つまり、強い敵と戦うとドキドキするということだ」
 さすがムラサメさん。分かりやすく言い直してくれた。こういうところがすずは好き。
「なあすず、多分ムラサメの言う通りにしてもふたりは恋人にはなれないんじゃねえかな」
 隣でモコロンがぼそっとつぶやく。たしかに強くはなれそうだけど、結婚するために仲良くなれるかはよくわからない。
「すず殿の知りたかったこととは違うだろうか。面目ない、拙者が未熟なばかりに助けになれず……
「そんなことない! ムラサメさんには助けてもらってばっかりだよ。すず、いつもありがとうって思ってるんだから」
 あわてて伝えた気持ちは、ムラサメさんにとどいたみたい。目が優しくなった。
……ムラサメさん、どうやったら人は仲良くなれるかなあ?」
 はじめから素直にこう聞けばよかった。すずのしつもんに、ムラサメさんは「ふむ」とあごをなでる。
……共に何かをするといいかもしれんな」
「ともに……いっしょに何かをするの?」
「ああ。拙者がすず殿と仲良くなれたのも、こうしてすず殿が会うたびに話しかけてくれたからだ」
「そっか……。教えてくれてありがとう! ムラサメさん」
「役に立てたのなら何よりだ。他の里へ出かける際は、くれぐれもご用心めされよ」
 ムラサメさんにありがとうを言って、すずは他の人にも話を聞いてみることにした。


 二日目。
「どうすれば恋人同士になれるか? そうだねえ……
 次にすずは、ツバメさんに話を聞くことにした。ツバメさんはとっても物を売るのがうまい。気がつくと、ツバメさんにおすすめされた商品をぜんぶ買ってしまったお客さんもいるんだって。
 恋人どうしがお店で買い物をしているのをよく見かける。アズマにない珍しいものが売っているから、とくべつなものが欲しい人たちはよくここへ来るみたい。恋人になるためのコツとか知らないかな?
「やっぱり贈り物が一番かねえ。誕生日とか、季節のイベントとか、記念日にプレゼントを買っていくお客さんは多いよ」
「ふむふむ」
 プレゼントはいい作戦な気がする。
「どういうのが恋人には人気なの?」
 すずが聞くと、ツバメさんの瞳がギラリと光った気がした。
「あたしのお勧めはこれだね! 揃いの腕輪! 恋人同士で買っていく人も多いんだよ。ほら見てごらん。ここの細工が秀逸でねえ。すずちゃんもおひとつどうだい?」
 急にピカピカの腕輪を目の前に差し出された。こんな高そうなもの、すずのおこづかいで買えるかなあ? だいたい、すずじゃなくてスバルくんとカグヤちゃんが仲良くするにはどうすればいいか聞こうと思ってたのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。
「小さい子相手に商売すんな!」
 あわてたモコロンがすずとツバメさんの間に入ってくる。モコロンってすずが困ったとき、いつも助けてくれる。一緒に遊んでくれるし、モコロン大好き。
「いやだねえ、もちろんすずちゃんに払ってもらおうとは思ってないよ。ツケといてサカキさんにでも」
「すず! さっさと次いくぞ次!」
「残念。ま、気が向いたらまた来ておくれよ」
 ツバメさんは一度断ったくらいじゃあきらめない。何度かお店に来てもらううち、買ってくれるお客さんもいるらしい。あいどるみたいに、商人にも根性が必要なのかもしれない。
 意外なところで仲間を見つけちゃった。少し嬉しい。


 三日目。
 秋の里のツイランさんに会いに来た。コタロウくんがツイランさんは物知りですごいんだぞー! と言っていたからだ。
「という訳で、私たちはからくり迷宮内の幽霊屋敷へやって来た」
「何が『という訳』なのか全く分からないぞ! っていうかこんな場所があるなんて聞いてないー!」
 モコロンがさけぶと、ツイランさんがどうしてこうなったのか話してくれた。良かった、すずもよくわかってないから助かる。
「どうすれば人間は仲良くなれるか、と聞かれたからここにいる」
「もう少し詳しく」
「貴方がそう言うなら。人間は恐怖体験をすると関係が深まるらしい。例えば幽霊屋敷を探検するとき、交際中の人間は恐怖のあまり相手に抱きついたりすることで仲良くなるそうだ。また、交際前の人間は恐怖体験を共有することで絆が強くなるとか」
 早口で説明してくれるツイランさん。難しい言葉がいっぱいで、すずには良くわからない。知らないうちに眉が寄っちゃってたみたいで、ツイランさんがわかりやすく教えてくれた。
「つまり、一緒に怖い思いをすると仲良くなれるかもしれない、ということだ」
「ありがとう、ツイランさん」
「理解したか?」
「うん」
「そうか」
 うなずくツイランさんのとなりで、モコロンは分かったような分からないような顔をした。
「な、なるほど? 仲良くするために怖い思いするなんて、人間ってよく分かんねえな……
「モコロン、何だかあたたかい風がふいてくる、こわいよー」
 急に気持ち悪い風が吹いてきた。泣きべそをかきながらモコロンの手をにぎりしめると、ツイランさんがしゃがみこんで、すずのもう片方の手をにぎってくれた。
「大丈夫だ、何かあっても貴方は私が守る」
「ツイランさん、かっこいい……!」
「おお、確かに絆が深まりそうな感じだな。でもなー、アイツら幽霊は怖くなさそうなんだよな」
「そうなのか?」
「何か、幽霊より人間の方が怖いって言うんだよ。特にオババとか言うやつが」
「そうか……。それならこの作戦はうまくいかないかもしれないな」
 ツイランさんはしばらく考えた後、すずたちに言った。
「折角だし、体験してみるか? 幽霊屋敷」
「「いや(だ)ー!」」


 四日目。
 すずはワタラセさんのお店にやって来た。
 スバルくんとカグヤちゃんの考え方がすずとはちょっとちがうみたいだから、人間以外のことにくわしい人に話を聞いてみようと思ったのだ。お化けがこわくないなんて、本当に同じ人間なのかな? ワタラセさんはおさかなさんにとても詳しい。すずがおさかなさんについてもっとくわしくなったら、ふたりを仲良くさせる方法も思いつくかもしれない。

「そうですねー……。お魚ちゃんの求愛行動が参考になるかもしれませんね」
「きゅうあい?」
「ハイ。恋人にしたいお魚ちゃんへ自分をアピールするんです」
 なるほど、それは使えるかもしれない。
「おさかなさんは、どういう風にあぴーるするの?」
 すずが聞くと、ワタラセさんは目をキラキラさせながら教えてくれた。
「イカの中には、体の色を変えてアピールする子がいます!」
「人間は体の色は変えられないからな……
「服をきがえればいいかな?」
「メスと住むために立派なおうちを作るオスがいます!」
「竜神社がすでにあるから却下。オイラはあそこ以外住む気はない」
「? スバルくんに関係あることですか?」
「い、いやいやいや何でもない!」
「そうそう! 何でもないよ!」
「そうですか? では気を取り直して。オスがメスに噛み付くと体がくっついてひとつになっちゃうチョウチンアンコウはどうですか? イカしますよね!」
「い、いやだよー! モコロンにすずがかまれちゃったら、モコロンがすずになっちゃうってことでしょ!?」
「ええー!? そんなのオイラだって嫌だぞ!」
 ふたりそろって泣きそうになっていると、ワタラセさんはしょんぼりした。ごめんなさい、でもくっついちゃうのはちょっと。
「す、すみません。お魚ちゃんの熱烈な愛は、おふたりにはまだ早かったですかね……。あ、あとは求愛のダンスをするお魚ちゃんもいますね、ハイ」
「「それだ!」」
「ウォッ!?」


「お姉ちゃんただいまー!」
「おかえりー、すず。どうだった?」
「あのね、ふたりが仲良くなるためには、いっしょにいて、プレゼントをしてこわい思いをして、踊るといいんだよ!」
「えっと……。どういうこと?」
 よく分かっていないお姉ちゃんに、すずは頭の上でぷかぷかしてるモコロンを見上げた。
「モコロン、お姉ちゃんにおしえてあげて」
「よっしゃ任せろ! 要するにだな——
 話を聞いたあと、お姉ちゃんはうなずいた。
「なるほど。ふたりとも頑張って沢山情報を集めてきてくれたんだね。ありがとう」
 笑顔でお団子を出してくれるお姉ちゃん。やった! と思ってモコロンを見ると、同じように目をキラキラさせてお団子に手をのばしてた。
「情報は手に入ったから、次はどうやってふたりを仲良くさせるかだよね……
 腕を組み考えているお姉ちゃん。実はすず、みんなのお話を聞いているうちに思いついたことがあるんだ。
「あのね、ひとつ思いついたことがあってね——


「すずちゃんの誕生日に舞を?」
「うん、カグヤちゃんの舞、キラキラなの! すず大好き」
 身を乗り出してすずがお願いすると、カグヤちゃんは困った顔をした。
「いけませんよ、すずちゃん。私の舞は特別なものなんです。そんなに簡単にお見せするものでは」
 そんなあ。でもすずはあきらめないよ。しかたないから奥の手を出しちゃう。
 すずができる、とっても悲しそうな顔をすると、カグヤちゃんの眉毛がハの字になった。
「すずのお誕生日……とくべつじゃないの?」
 すずがうるうるした目をカグヤちゃんに向けると、視線がキョロキョロし始めた。どうしようか迷ってるみたい。もうひと押しだ。
「だめかなあ……? すず、カグヤ『お姉ちゃん』の舞が見たいなあ……
 カグヤちゃんがせきばらいをした。
「ま、まあすずちゃんの生まれたおめでたい日ですからね。今回は特別ですよ」
「わあい! カグヤちゃん大好き!」
 思わずカグヤちゃんに抱きつくと、抱きしめ返してくれた。最近カグヤちゃんはすずにとっても優しい。いろはお姉ちゃんとカグヤちゃん、お姉ちゃんがふたりになっちゃった。うららかちゃんもお姉ちゃんみたいだから三人かな。嬉しいな。
「それでね、もうひとつお願いがあるの」
「もう、すずちゃんは欲張りさんですね。何ですか?」
「スバルくんといっしょに舞ってほしい!」