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もち粉
2025-12-06 23:03:57
9742文字
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残響
カブミス
カブ43歳 復縁話
※カブの息子を捏造しています
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「お知り合い、ですか?」
ぼくが聞くと、父さんは一瞬うまく言葉が出ないようだった。でも、すぐに息を整えるようにして、小さく頷いた。
「うん。
……
遠い昔の、友人だよ。ミスルン、夕飯を一緒にしないか? 今夜は、息子の誕生日なんだ。料理人が張り切って、食べきれないほど作ってくれているから」
「ミシィの誕生日」
ぼくが言い直すと、父さんとそのエルフの人
——
ミスルンさんは同時に少し笑った。
「そうか。
……
ミシィ」
ミスルンさんがその名前をゆっくりと口にした。
なぜか少し、背筋がむずがゆくなった。
この人の口から呼ばれると、まるで自分が何か大きな物語の中の登場人物になったみたいで、不思議な感じがした。
そのまま、父さんがミスルンさんを家に招いた。
「ご子息の誕生日ならば、家族で過ごすべきだ。今日はやめておこう」と固辞しようとしたミスルンさんだったけど、ぼくが「うちは、ぼくと父と二人だけなんです。お客さまはうれしいから、ぜひ」と言ったら、観念してくれた。
夕餉の支度はもう済んでいた。料理人はすでに下がっていて、あとは食卓に並べるだけだった。
三人で囲んだ食卓は、なぜだか不思議と居心地がよかった。
父さんがこうして早く帰ってきてくれることも少ないし、大人がふたりもいる晩餐なんて、たぶん数年ぶりだ。
「ミスルンさんって、旅をしてるんですか?」
「うん。世界の迷宮を巡っている。各地に、まだ残されている古代の遺構や洞窟があって
……
迷宮に危険な兆候が起こってないか、魔物の生態系に変化がないかなどを個人的に調査している」
ミスルンさんの話は面白かった。ぼくはすぐに夢中になった。
遠い南の大陸では虫のような姿をした魔物が岩の中に穴を掘って巣を作っているとか、真冬の山では氷の中に埋もれた古のエルフの危険な石碑を見つけてこっそり処分したとか、ひとつひとつが、絵本よりもすごい冒険譚だった。
話を聞きながら、父さんが時々ミスルンさんの顔をちらちらと見る。
いつも口数が多くて、どこでだって場の主役になってしまう父さんなのに、食事時にこんなに静かな父さんを、初めて見たかもしれない。
どこか、心が外にあるような、昔のことを思い出しているような、そんな顔。
ミスルンさんも、ときどき黙る。けれど、ぼくの質問には必ず答えてくれる。
ミスルンさんが二百歳を超えていると聞いて、ぼくは思わずフォークを取り落としそうになった。
古本屋のノームのお兄さんだって、まだ百歳には届いていないって言っていたし、ドワーフの鍛冶師の親方だって、百五十を越えたくらいで「もう老い先短い」と言っていた。
去年のお祭りが、メリニ建国二十周年だったんだ。国よりも、十倍も長く生きてるなんて。
――
考えるだけで、目が回りそうだった。
驚いて目を白黒させてるぼくを見て、ミスルンさんはくすくすと笑った。
とてもそんなおじいちゃんには見えない。
道場の若先生くらいにしか見えないし、学校で一番美人の、エーリア先生より、ずっときれいだ。
「すごいなぁ、エルフの人って本当に全然年取らないんですね。
……
パッタドルのおねえちゃんも、ぼくが小さい時から、変わってないものねぇ」
「
……
パッタドル」
ミスルンさんはその名前に、懐かしそうな顔をした。
そして父さんのほうへ目を向ける。
「息災か?」
「相変わらずだよ。まだ会ってない?」
「うん。
……
船を降りたその足で、ここに来てしまったから」
風が窓をがたんと揺らし、一瞬そちらに気を取られ、視線を戻すと
――
父さんは、痛みをこらえるような顔をしていた。
やがて、食事が終わり、片付けも手伝いを終えたころ、父さんがぼくに言った。
「ミシィ、もう遅い。今日はもう寝なさい」
えーっ、と口を尖らせたけれど、反論はできなかった。
せっかく面白い話がいっぱい聞けたのに、もっと聞きたかったのに。誕生日なんだから、特別に夜更かししてもいいでしょう?って言いたかった。
でも、父さんの顔を見て、今夜はあきらめた。大人はね、子供の前では話せないことがいっぱいあるんだって。酒場のマルコが言ってたよ。今がその時みたいだね。
だからぼくは、少し名残惜しかったけれど、父さんとミスルンさんに、おやすみの挨拶をした。
「
……
おやすみなさい。ミスルンさん、今日は泊まっていってくれるよね? 明日もいてくれるでしょう?」
「いや、私は
……
」
ミスルンが視線を泳がせた。その視線の先、カブルーが静かに口を開く。
「ぜひ泊まっていってくれ。ミシィもこう言ってるし、もう部屋も用意させてあるから」
カブルーの声は穏やかだったが、どこか切実さを含んでいた。
ミスルンはその目を見つめ、黙ったまま数秒立ち尽くし
——
そして、あきらめたようにうなずいた。
「
……
わかった。世話になろう」
「よかった! おやすみなさい、ミスルンさん。明日もお話聞かせてね」
「
……
おやすみ、ミシィ」
ミシィの黒い巻き毛をかきあげて、額にそっとキスを落とす。
そんなことをしていいのか、という小さなためらいが指先にあった。
けれど、きらきらと目を輝かせて、ほんの少し膝を屈めておやすみのキスを待つミシィを見たら、自然に体が動いていた。
カブルーの息子。彼がミスルンという名を与えた子。
この家に、自分がいていいのかは、まだわからない。
けれど、今だけは
——
それを考えるのは、やめておこう。
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