tonami
2025-11-20 19:49:23
5960文字
Public 50音
 

50音/あ行

50音短文詰め



お/原作軸



「おいで、ゾロ屋」
 柔らかな低音が乞う色をまとって響いた。いつもは極力感情を抑えようと冷静な両目が、穏やかに緩む。そこへ何の疑問もなくとことこ歩いていった剣士の腰へごく自然な動作で腕を回すと、揃って部屋を出ていった。
……なんだあれ」
 いままさにお茶を淹れようと急須を手に取ったサンジが、未知のものでも見るかのような顔で廊下を凝視する。同じく部屋にいたナミも同様で、微笑ましく見守っていたのはロビンくらいだ。ああそっか、とたまたま船長について遊びに来ていたペンギンとシャチが顔を見合わせた。
「黒足達は知らないんだっけ」
「あれはね、ロロノアに拒否られた結果ああなってんだよ」
「は? どういうことだ」
「ちょっと、うちのクルーに妙なことしてないでしょうね」
「してないしてない」
 サンジとナミからじとりとした目で見られ、二人は慌てて否定した。が、焦るほど視線の強さは増すばかり。若干の冷や汗が背中を伝う。
「えっとね、ロロノア達がうちの船に乗ってすぐのことなんだけど」
 つまりはこうだ。ゾロを始めとした先行組がハートの海賊団の拠点であるポーラータングに乗船して、三日も経たない頃だった。いつもと変わらず、ゾロに何かしら用事があったらしいローが「来い」と告げた。しかし、ゾロはそれを突っぱねた。曰く、「おれはお前のクルーじゃねェ」と。要は自分の船長でもない人間に命令されているようで癪だった、それだけだ。そっぽを向いた剣士に一瞬言葉を失ったハートの船長は、困ったように笑って「悪かった。おいで」と訂正した。
「それからだよな。キャプテンがロロノアにおいでって言うようになったの」
「そーそー。おれらにもゴッド達にも言わないのにな。ロロノアだけ明らかに特別扱いしてんの」
「ポーラータングに乗っていた時も気がついたら一緒にいたし、トラ男くんの部屋にいることも多かったものね」
「へ〜ゾロがねえ……
「男同士のいちゃつきなんぞ聞きたくねェ……
 物珍しそうな表情をするもどこか面白くなさそうなナミと、あからさまに顔を歪めるサンジ。これ言わないほうがいいよな? いいんじゃね。ペンギンとシャチは一瞬の目配せで意思の疎通を図ると、ちらりと真実を知っているもう一人を見やった。視線に気づいた彼女は笑みを深めるだけ。こちらと同意見と取ってよさそうだ。
 この国を出てしまえば、次に会えるのはいつかわからない。ならせめて出航するまでは、誰にも邪魔させず二人で残り少ない時間を堪能してほしかった。ただでさえ、あれで付き合ってすらいないのだから。
 真実はしかるべき時に開示してこそ、より強い効力を発揮する。潜入を得意とするハートにとって、これくらいの情報秘匿は朝飯前だ。
 すべては、大事なキャプテンに到来した遅まきの春のために。




外堀は埋めておくに限る