tonami
2025-11-17 20:08:29
11997文字
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ラブレター・フロム

'25⚔️誕。航海ラブレターの続き



 クェ、とどこかで聞いたような鳴き声とともに、目の前に封筒が落ちてくる。反射的に掴み取ったそれは白色をしていた。シンプルな白い無地の封筒。表には宛名が癖の強い字で書かれている。差出人はない。なくてもわかる。手紙を出すと言ってはいたが、この広大な海の上でよく届いたものだ。
 封を切ると白い紙と写真が一枚ずつ入っていた。まず写真を見ると、上下で色が半々に分かれていた。上半分は淡く薄く見えるが、高い場所にある澄んだ青色。下半分はいっさい汚れのない一面の純白。積雪具合を見るにどこかの冬島のようだ。写真と同じ大きさの紙には一言だけ。
『運命の日』
「どういう意味だ……?」
 書かれている言葉の意味がわからなくて首を傾げる。あちらになにか、そう強く言うほどの変化があったのだろうか。ゾロは運命論者ではないし、運命なんてくそ喰らえとも思っている。どこかの誰かに決められた道なんてすべて蹴散らして、新たに自分で切り開いていくタイプだ。それは向こうも同じ。その男が、わざわざ運命なんて言葉を選ぶのには意味がある。けれどそれ以上の情報はどこにもなくて、写真を見ても冬島だとわかるだけのものしか映っていない。ハートの近況を把握しているはずもなく、ゾロは一人途方に暮れた。
 二通目は思いの外すぐに届いた。
 前回と変わらず白い封筒に簡素な宛名。差出人はなく、中には白い紙と写真が一枚ずつ。写真は満点の星空。恐らく自船の上から撮ったようで、遮るものはなにもない。視界いっぱいに広がるミルキーウェイ。
『星を見た』
 写真そのままの言葉だった。なにも捻りのない、事実しか乗っていない言葉。難解だった前回と違いあまりに単純だ。まさか別の意味でも含んでいるのだろうか。目を凝らしても写真に変化はない。美しい星空があるだけだ。写真はともかく、添えられた言葉には意味を持たせているはずなのに、ローの考えていることがちっともわからない。
 三通目は少し間が空いた。なにやらどこぞの島でドンパチを繰り広げて、紙面を騒がせていたのは知っている。帆船のサニーとは違い、ポーラータングは潜水艦だ。深くまで潜ってしまえば海軍船は追えない。今回もそうして振り切ったのか、紙面に載ったのは一度きりだった。
 相変わらずの白い封筒を少し億劫に思いながら開ける。写真はどこかの島の花畑だった。小高い場所にあるそこに、遠くのほうに遠い年月を超えてきたであろう大木がある。おや、と内心で既視感を覚える。けれど、あの場所ではない。似てはいるが別の場所だ。あの男が復讐に決着をつけた、永い永い時間をかけて準備をしてようやっと本懐を果たした土地。その国にある丘にとてもよく似ている。
『隣で呑んだ酒は美味かった』
 隣、とは。誰の隣だろう。わざわざゾロに送ってくるのだから、まさか知らない人間ではないだろうけれど。深く思考に入りかけたところに、ふと頭に癖の強い字が過った。
『酒があると、魔獣は機嫌が良い』
 使い込まれた革の手帳と年季の入った万年筆、柔いクリーム色に踊る特徴的な文字。ローが個人的につけている航海日誌に、かつて目にした一文は記されていた。確かローが本懐を遂げたあとの宴でのことだ。その際にゾロは隅のほうで呑んでいた男を引っ張り出して、しばらく隣にいた。あれもドレスローザでのことで、今回の手紙はそこに似た場所。そしてこのメッセージ。──つまり。
 男部屋にある自身のロッカーを少々乱雑に開く。なくさないよう、目につく場所に置いてある一通目と二通目を封筒から取り出した。
 一通目は雪景色。手帳の足跡を辿るのであれば、これはパンクハザードを示している。もうあの島には立ち入れないのでどこかの冬島で代用したのだろう。
 二通目は星空。これは少々悩んだが、恐らくドレスローザに向かう道中だ。ローがサニーに乗っていた時。確かにあの夜に、ゾロはローに声をかけている。それまで淡々と必要なことだけが紙に浮かんでいたあの航海日誌の色が、急速に変わった夜。
 そうとくれば一通目の『運命の日』はわかる。あそこで出会わなければ同盟を組むことはなかったし、麦わらとハートが懇意になることも、ましてゾロとローが深い関係になることもなかった。二通目の言葉の真意はわからないままだったが、ローがどういう意図で手紙を送ってきているのかは把握した。ローにとってのゾロとの関係の始まりを辿っている。航海日誌をなぞらえながら。要は、あちらからすればこの手紙はラブレターだということだ。自分しか読まないのにゾロへのラブレターを認めていた手帳から、改めて手紙という形でゾロに伝えてきている。ゾロがうっかり読んでしまわなければ、暴いてしまわなければ伝える気などなかった想いを。
 往々にして感じてはいたが、ローは執着心も強ければ愛情はそれ以上に強い。自分の中にしまいこんで潜めなくてもよくなってからはなおさらだ。隠すこともなく愛情を伝えてくる男が、いまさらこんな迂遠な方法を取るとは思わなかった。けれど考えてみればローのやりそうなことではあった。リアリストのようでいて意外とロマンチストだ、あの男は。
 心なしか火照る頬を押さえながら、ゾロは三通の手紙を慎重にロッカーにしまった。




 航海日誌をなぞっているのであれば、手紙はあと何通か続くはずだ。そうなってくると溜まった手紙をそのままにしておくわけにもいかない。ゾロ以外が見たところで意味はわからないといっても、ゾロにとってはラブレターで、ローもそのつもりで出している。恋人としていつものように雑にロッカーに突っ込んでおくのは忍びない。できれば浸水や色褪せから守れる容れ物が欲しくてウソップに訊ねると、狙撃手は快く文箱を作ってくれた。
「あいつからのなんだろ? だったらちゃんと保管しておきたいよな」
 そう言って渡された、手紙が入るほどの小さな箱。ワノ国で見た文箱を参考にしたのだと言う。飾り気はないが、黄色い外観が一時乗り合わせた潜水艦を思い出す。しっかり防水加工も施されたそれに三通目を入れる頃に、四通目が届いた。
『怪我はしてないか』
 白い紙に書かれた文章と、どこかの島にある緑豊かな森の写真。写真はゾウを示していて、メッセージは道中での話だ。一味のファンだという海賊の船に乗ってゾウへ向かう最中に、ローの包帯を何度か巻き直した覚えがある。ゾロの傷に触れたのもその時だ。明確に文章の温度が変わったのも同じ頃だった。ゾロ屋、とできる限り丁寧に書かれた、たった三文字が甘やかな熱と柔らかな質感をもって航海日誌の至るところに書かれては、乾くのも待てずに指でなぞられた箇所が焦がれるように掠れていた。
……本当に心配性だな、てめェは」
 黄色い魚の腹の中にいた期間、海王類とかち合ったり補給のため上陸した際にごろつきに絡まれたあとは、必ずと言っていいほど診察だとゾロの体を能力で診ていた。最初は抵抗していたが、おれの目の前でお前を喪いたくない、とひどく真面目な顔で告げられてからはおとなしくスキャンを受けるようになった。ワノ国では悪いことをしたなとは思っている。同じ状況になったとして、次もやらない約束はできないが。
 ともすれば悪筆にも取れる、心配と誠実で描かれた文字。かすかに不安も混ざっている気がして、じっと眺めていると不意に影が体にかかった。
「また手紙か?」
「おう」
「ナミさんやロビンちゃんを差し置いてマリモに渡すなんて、ずいぶん奇特な奴もいたもんだな」
「おれもそう思う」
 手渡されたグラスを受け取りながら肯けば、サンジは奇妙な顔で小さく舌打ちをした。なんだこいつ、と片眉を上げれば決まり悪げに紙巻きに火を点ける。
……誰からなんだよ」
「てめェにゃ関係ねェだろ」
 即座に詮索を斬り捨てるとサンジは一瞬言葉に詰まった。けれど、離れていた期間はあれど一味における古参だ。ゾロとの付き合いも長い両翼の片割れは、この程度では引かない。むしろ相手が相手だけに、あっさり逃げることは矜持が許さない。
「関係ねェことはねェだろ。お前がどこかの誰かに、うちの情報を洩らしてるって可能性だってあんだろうが」
「はっ、おれが?」
 あまりの突拍子のなさに鼻で嗤う。すなわちゾロが一味を裏切ると言っているのだ。そんなことは天地がひっくり返ってもありえない。それこそサンジはよくわかっているだろうに。
……まァ、てめェに限ってはねェだろうが。つーか、この船に乗ってる奴はそんなことしねェのはわかってる。だからだよ」
「あ?」
「おれらに疑わせんな」
 そう、二年前からほぼ変わらない目線でサンジはまっすぐこちらを射抜いてくる。ゾロは咄嗟に反論しようとして、結局口を閉じた。実際疑わせる行動をしていたのは事実だ。一味を裏切るなんて日が来ることはないとはいえ、不必要な火種は置いておくべきではない。
 何も返さない代わりに、ゾロは黙って手紙を差し出した。怪訝な顔で受け取ったサンジが、写真と白い紙を見ていっそう眉をひそめる。
「ずいぶん熱烈なラブレターだな」
「わかんのか」
「いくら言おうが無茶ばっかりするクソマリモ相手に怪我の心配なんぞ、普通はするだけ無駄だろ。なのにわざわざこんな手紙寄越してるってことは、よほどお前が気にかかってんだろうよ」
「へェ、そういうもんか」
「これだから朴念仁マリモは……
 溜め息をつくサンジから返却された手紙を丁重に懐にしまって、グラスを呷る。ナミが丹精込めて育てた蜜柑から作ったジュースはあっさりした上品な甘さで飲みやすい。ゾロの甘いもの嫌いはわりと限定されていて、たとえば餡子や果実の甘さはむしろ好きな部類だ。ローなどは手っ取り早く糖分補給のためにチョコレートを常備しているせいで、部屋にこもっている時は時折やたらに甘い匂いが漂っていることがあった。そういう時にキスすると当然口の中も甘くて、最初は驚いて恋人だというのに思わず突き飛ばしてしまった。あの時のローの絶望した顔は、未だに記憶の浅いところにある。
「んで、誰なんだよ。お前相手に熱烈なラブレター送ってくるような輩は」
 空になったグラスを回収しつつ、サンジは紙巻きを蒸かす。二年前はまだ両目が揃っていたから何も思わなかったが、隻眼になったゾロと、髪の分け目を変えたサンジは対照的だった。向かい合えば互いに閉じていない、隠れていない側の目が合う。
「気になんのか?」
「いや別に? 心底どうでもいい。お前が誰といちゃいちゃちゅっちゅしようが知らねェし、好きにしろ。……自分で言ってて気分悪くなってきたな……
「勝手に想像すんな。金取るぞ」
「ナミさんみてェなこと言ってんじゃねェ。一味には迷惑かけんなよ」
「かけねェよ。万年常春頭のてめェじゃあるまいし」
「あァ!? 喧嘩売ってんのかクソ剣士!」
「事実だろクソコック」
「上等だ。今日こそてめェを三枚に下ろしてやる」
「やってみろよ。てめェにできるならな」
 会話だけ聞いていれば一触即発、すぐにでも斬るか蹴るか得物のぶつかり合いが起きそうだ。けれどゾロもサンジも、いつものように足を構えることも刀を抜くこともない。口だけの喧嘩はただのじゃれあいに等しい。
 サンジは口から紫煙を吐き出しながら、ゾロの隣で手すりに体を預ける。それ、と腹巻越しに手紙を指さした。
「トラ男だろ、差出人」
 ぱっとゾロは顔を上げた。ゾロは一度もローの名前を出していない。付き合っていることすら、一味で直接伝えたのはルフィだけだ。あちらの船に乗り合わせた三人は必然的に知ることになったけれど。互いにどうなるかわからない身だ。あえて報告して変に気を遣わせるも嫌だったので、ポーラータングに乗っていない一味は二人の関係を知らない。
「ワノ国でやたらお前のこと気にしてたろ、あいつ。最初はあいつの妙な世話焼きが発揮されてんのかと思ったが、それにしちゃお前もトラ男を内に入れすぎてる。いくら気に入りだろうが気が合おうが、お前は一味とそれ以外をきっちり線引きする奴だ。揃いも揃って他船の船長と戦闘員の距離感じゃねェ。いくら同盟組んでるつっても近すぎる」
 付き合ってんのか、という問いは、もはや確認だった。そうだ、と肯く。サンジはゆっくり、片手で目元を覆った。
「まじでお前が誰とどうなろうがどうでもいいけどよ。……なんでまた、あいつなんだ。敵だぞ」
「わかってる、そん時ァあいつを殺す覚悟くらいある」
「お前はそうだろうよ。つくづく朴念仁だなてめェは」
 サンジは深く、肺が空っぽになるほど溜め息をつく。ワノ国出航時にも本人が言っていた通り、敵対した時は互いに鋒を向ける覚悟なんてとっくに持っている。恋人である前にゾロは麦わらの一味の二番手であり、ローはハートの海賊団の船長だ。目的のために障害は取り除かなければならない。たとえそれが、この先ただ一人と情を交わした相手であっても。だからこそローは、ゾロへ向かおうとする心を航海日誌の中に閉じ込めていたのだろう。それを当のゾロが不可抗力とはいえ、暴いてしまったのだけれど。
「で? 返事は書かねェのかよ」
「書かねェ」
「なんでだよ。ラブレターだろうが、それ」
「いま来てんのはあいつが出しそびれたやつだからな。書くならこれが終わってからだ」
……前から思ってたが、お前の彼氏、重くねェか?」
「おれもたまに引く。まァでも、その重たいのがいいんじゃねェの」
「うわやめろ惚気とか聞きたくねェ」
 心底嫌そうに顔をしかめて、サンジはキッチンのほうへと足早に去っていく。ゾロとしては事実を言っただけで、惚気ているつもりはなかったのだが。
 腹巻から手紙を取り出して、白い紙に浮かぶ短いメッセージを指先で辿る。手紙はまだ過去を辿っている。ローがどこまで続けるのかはわからない。けれどもし、過去を過ぎても送ってくるのであれば、返事を書くことはやぶさかではない。手紙など書いた経験はほとんどないが、ローと同じ形にするのならゾロでも書ける。
 そういえば、と頭にクリーム色に馴染む悪筆が浮かぶ。ラブレター代わりだった航海日誌は、いまは何を記されているのだろう。




 五通目が届いたのは、それからほどなくしてからだった。
 鍛錬を終えて展望室から下りると、甲板で船の点検をしていたフランキーから真っ白な封筒を差し出された。
「ほれゾロ。いつもの」
「おう」
 破ってしまわないように封筒を開け、中身を取り出す。雑然とした室内の写真だった。床に積み上がった本、壁に立てかけられた大太刀、机やテーブルの上にも何かしらの本やファイル、紙束が置かれている。棚だけは綺麗に整頓され、何かのコインと酒瓶が飾られていた。部屋に唯一ある丸窓の外は暗い。潜航している時に撮ったらしい。
『お前がいないと部屋が広い』
……どこがだよ」
 思わず溢してしまった言葉に、フランキーが顔を上げる。それになんでもないと首を振って、写真をよく見る。
 あの黄色い船に乗っていた時、ゾロは一味に当てがわれた部屋ではなくローの部屋にいた。最初は酒があるからと呑みに誘われ、付き合ってからは恋人だからと遠慮なく連れ込まれていた。だから室内の様子はよく知っている。部屋中に積まれた本は医学書や歴史書、果てはどこかの島の童話なんてものもあった。
 そんな部屋に毎日いたものだから、暇つぶしと気まぐれでその辺に積んであった本を開いてみたことがある。臓器の絵や聞いたことのない単語や小難しい文章が並んだ医学書だったのですぐに閉じたが、本は眺めるものでしかなかったゾロが興味を示したことにローはどこか嬉しそうな顔をしていた。お前にはこっちのほうがいいと薦められた本は文章よりも圧倒的に絵のほうが多く、ゾロでも難なく読めた。慣れたら読んでほしい本があると言っていたが、その前にワノ国に着いてしまい結局読めずじまいだ。
「にしても、あいつもまめだよなァ。これで五通か?」
 工具をしまいながら、フランキーは座ったままゾロを見上げる。
「最初にお前さんらが付き合ってるって時ァどうなることかと思ったが、ちゃんと大事にされてるみてェで安心したぜ」
……そうだな」
 写真に映る、ローの自室へ目を落とす。手紙には部屋が広いと書いてあるが、ゾロがいた時のほうが広かった。できるだけ床に本を積まないようにしていたし、テーブルだってちゃんと二人のグラスや食事を置けるスペースが確保されていた。棚の綺麗さは変わらないが、酒瓶の量が増えたのはゾロが出入りするようになってからだとは本人の言だ。耳の奥で、大事にさせてくれ、と真夜中みたいな声が懇願する。ワノ国でゾロが目覚めたあとのことだった。
「そろそろ返事、書いてやらねェのかい」
「書かねェ」
 封筒の、独特な筆跡で記された宛名を指先でなぞる。下のほうがインクが擦れたように掠れているのは、同じようにローもゾロの名前を辿ったのだろう。フランキーの言う通り、ゾロは大事にされている。
 腹巻の中に封筒をしまいながら、遥か遠い水平線を眺める。黄色い魚は、どの辺りを泳いでいるだろうか。
「たぶん、次で終わりだ」
 六通目が届いたのは、それから一ヶ月後のことだった。



 いつものように届いた封筒を開く。まずは写真を取り出そうとして、中身が一枚だけであることに気づいた。なんの変哲もない白い紙が、一枚。
『三通目。待ってる』
 たったそれだけだった。これまでのように思い出を振り返る形ではない。ということは、やはり出しそびれていたラブレターはこれで終わりだ。
「三通目、ね」
 手紙は届いた順に文箱にしまってある。ちょうど真ん中にあるそれから中の写真を抜き出した。ドレスローザの丘によく似た、どこかの島にある花畑。これだけでは到底どこの島かなんてわかるわけがない。けれど、追加の写真もなく文章だけでローが指定するのであれば、この船にわかる人間がいるということだ。ゾロにとってもその手の情報を得るのならば、真っ先に一人の顔が浮かぶ。
「ロビン、ちょっといいか」
 目的の人物はダイニングにいた。キッチンの主であるサンジの他にナミとウソップもいる。
「この島、どこかわかるか」
「島?」
 写真を受け取ったロビンがしばし黙り込む。頭の中の知識と照らし合わせているのだろう。ローも調べ物をしている際に固まって微動だにしない時がある。
……ドレスローザに似ているわね」
「お、本当だ。キュロスの家があった場所っぽいな」
 ロビンの向かいにいたウソップが写真を覗き込んだ。同じようにナミとサンジも写真を見たが、途中で離脱した二人はあまりピンときていない。
「わかりそうか?」
「大丈夫よ。この写真の花はね、ある島にしか咲かないの。特別な土というわけではないのだけれど、なぜか他の場所では開花どころか根も張らない」
「なら、この写真はその島ってことか。ここから遠いのか」
「二・三日あれば着くと思うわ。……行くの?」
「待ってるらしいからな。つーことだ、ナミ」
……その島に行きたいって言うのね?」
 そうだ、とゾロは肯く。会話を聞いて察していたらしい。ナミは溜め息を一つついた。ロビンに島の名前を聞いて脳内に海図を呼び起こし、あらかた場所に検討をつける。
「遠くもないし、そろそろ補給にどこかに寄ろうとは思ってたから私は構わないわよ。ルフィが許可さえ出せば行ってもいい」
 その代わり、とゾロに人差し指を突きつける。大きな目はじとりとゾロを睨みつけた。
「その写真、ここ最近来てた手紙なんでしょ。差出人によっては私は許可できないわ」
「トラ男だ」
「────え?」
「だから、手紙はトラ男からだ」
 ぽかんとナミの大きな目がさらに丸くなる。ポーラータングに乗り合わせていたウソップとロビン、洞察力で自力で相手を特定したサンジ。
 この場において、手紙の差出人を知らないのはナミ一人だけだった。