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煩悩
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カラキョウいろいろ
カラキョウSSのまとめ
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✎¦香りも一種の毒と言いますから
街は様々な音や香りで溢れている。風の音、ワイルドゾーンから聞こえてくる野生ポケモンの鳴き声、カフェから漂うコーヒーの芳香。特に、名物のミアレガレットは生地が焼き上がる音に加え、出来たての香ばしい匂いもセットなのだから悩ましい。
そんな街の中で、ひときわ鋭い香りが俺の鼻孔をくすぐった。鋭さの中にも甘さが残る毒のような香り。その香りが記憶の中のあの人を呼び起こす。これはそう、あの人の
……
カラスバさんの香り。
「これ、カラスバさんと同じ
……
」
思い浮かんだのは、ひっそりと笑うカラスバさんの姿。途端ぶわりと肌が粟立ち、居ても立っても居られなくなった。鞄にしまっていたスマホロトムを取り出して、急いでカラスバさんの電話番号を探す。いつもなら難なく見つけられるのに、今日はいつまで経っても見つからない。はやる気持ちを抑えつつ画面をスワイプしてようやくカラスバさんの連絡先に辿り着いた。受話器のキーをタップしてスマホロトムを耳に当てると、スリーコール程でカラスバさんの低い声が聞こえてきた。
「もしもし、カラスバさんですか?」
『キョウヤか?どないした?』
「いえ、声が聞きたくて
……
」
『かわいい事言うてくれるなぁ』
「カラスバさんって、香水つけてますか?」
『香水?まあ、時々はな、普段はつけてへんよ』
「そう
…
ですよね、ごめんなさい、変なことを聞いてしまって
……
街であなたと同じ香りがしたので、もしかしてと思って」
『
……
なあんか変なこと考えてへん?』
「そ、そんなことは」
『まあええ、暇やったら遊びにきいや
カラスバさんも今寂しいねん』
「べ、べつに俺は寂しくなんか
…
!」
『ほな、待ってんで』
そこで電話はぷつりと切れてしまった。
「事務所、行こー
…
」
変なことを聞いてしまったなと反省しながら、俺はサビ組の事務所へ向かう準備を始めた。カラスバさんがどんな香りを纏っていようと、カラスバさんはカラスバさんだ。とはいえ、あの香りでカラスバさんを思い出してしまったことは変えようのない事実ではあるけれど。
「あ、雨」
ふと空を見上げると、ぽつりぽつりと雨が降り出してきていた。雨の匂いが服に纏わりつかぬよう、俺は急いでサビ組の事務所へ向かった。
***
「ボス、今の電話はどなたからですか?」
「キョウヤ」
「キョウヤ様ですか、どんな話を?」
「
……
なあジプソ あの子、堕ちてきよったで」
「ボス
……
?」
「やっとや!やっとあの子がオレの手元に!」
静かな執務室にオレの笑い声が響いた。ジプソが怪訝な顔をしているが今はそれを咎めている場合ではない。
ここで一つ、昔話をしよう。
オレが頭を務めるサビ組はいわゆる反社会的組織というものだ。高利貸し、恐喝、例を挙げればキリがないが、そういった法に抵触しうる行為が活動のほとんどを占める。
そんな中でキョウヤに出会い、オレの毎日は一変した。日の目を浴びることなど許されないサビ組の事務所に、キョウヤの太陽のような笑顔が花を咲かせた。キラキラと輝く瞳を瞬かせ、自由を求めて相棒と共に駆け巡る小さくも大きな背中。そんな彼に、オレはいつしか酷く傾倒するようになっていった。──そして芽生えたのは“あの子が欲しい”という醜い欲望。
自分の欲望がキョウヤにとって足枷になることは理解していた。それでも我慢できず、オレという存在をキョウヤの本能に刷り込むため、彼と会う時は毎回同じ香水を身に纏った。甘い香り、爽やかな香り、そんなものでは記憶に残らない。街で同じ香りを嗅いだ時オレを思い出すように、オレを求めて何も考えられなくなるように
……
そう思いながら、うんと刺激的でうんと脳を揺さぶる香りを纏い続けた。
そして、ようやくやってきた今日という日。随分と時間はかかったが、ついにオレの毒がキョウヤの身を真っ黒に染めあげた。やっと、やっとだ。出会った時からあの子が欲しくて欲しくてたまらなかった。
「かわいそになあ、もうどこにも逃げらへんよ」
“キョウヤにオレの存在を刻みつけたい”
“自由を求めるあの子の手足を縛って、自分の手元に置いておきたい”
そう思い始めたのはいつだっただろうか。今となっては、それももう分からない。
ただ言えるのは、キョウヤの本能に根付いた毒が彼の神経を蝕み続ける、ただそれだけだ。
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