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柩木
2025-10-27 22:12:53
12222文字
Public
崩壊:スターレイル
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丹穹|約束の朝を、二人で
くるっぷに投稿していた「約束の朝」の短編5本をまとめました。パンケーキをテーマとした丹穹の現パロです。
この小説は
こちら
のワードパレッドをお借りしています。
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なぜ、丹恒の家が一人暮らしにしては広いのか。それは彼が民俗学研究を生業としているからである。歴史的価値の高い文献やその他資料を保管、管理するためにどうしてもひと部屋分のスペースが必要だった。故に、ダイニングも合わせて三部屋あるうちの一番奥の部屋を、資料保管室兼書斎として使用している。
小さな図書館だな、とはこの部屋を初めて見た穹の感想だ。その際、もし何かあって本棚から本が落ちてきたり、あるいは本棚そのものが倒れてしまったら丹恒は埋もれてしまうだろうとも言われ、確かにそうかもしれないとだけ返した。スペースがあればそこへ資料を押し込んでいたことからも、安全面など指摘されるまで気にとめていなかった。
今でこそ歩きやすく動線が確保されているが、以前は床にまで本を積み上げていた。その様を見た穹が、丹恒が本に押しつぶされたなんて連絡を貰うのは嫌だし、第一発見者が自分になる可能性が高いからもうちょっと使いやすくしようと言ったのをきっかけに大改革が行われ、ただ資料を置いておくだけの部屋だったのが書斎としても使えるようになったのだ。
作業は大変だったが、結果として丹恒はこの空間をとても気に入っている。壁を埋め尽くす本棚とその他ラック。そして作業スペースとして机と椅子が一つずつ。論文の執筆や発表会の資料作成などは、電子端末を持ち込んでこの場で作られる事が多い。プラシーボ効果かもしれないが、今作成中の資料も比較的順調に進んでいる気がした。このペースを保てれば研究発表会までには余裕を持って終わらせられるだろう。
キーボードを叩いていた丹恒の動きを止めたのは遠慮がちなノックの音だった。
「丹恒ー?」
資料部屋とリビングを隔てる引き戸が閉まっている時は穹も無理には声をかけてこない。それでも用事がある時は遠慮がちなノックのあとで名を呼び、返事を待ってそろりと顔を出す。今は丹恒にとって大事な時期と分かっているからか配慮してくれているようだった。
「どうした?」
「お湯沸かしたんだけど珈琲でも飲む?」
「ああ。もらおう」
間を置かずに引き戸が開かれる。そこにはマグカップと平皿を持った穹が立っていた。両手が塞がっているので、器用にも足で戸を開けたらしい。
随分と用意が良い。一応尋ねはしたが、コーヒーはすでに用意していたようだ。だが、平皿の存在については何も聞かされてはいない。それは何かを尋ねる前に、引き戸を開いた瞬間に漂ってきた深みのあるコーヒーの香ばしい香りに混ざって、かすかに甘さを含んだ空気が流れ込んできた事で概ね察せた。
「俺特製コーヒーとパンケーキのセットだ。パンケーキは切ってあるからフォークで刺すだけ。作業中でも食べやすいと思う」
隣にやってきた穹からより強くパンケーキの匂いが漂ってきた。これをこの家で作るのは穹だけなので、小麦粉とバターの香ばしくまろやかな香りは、丹恒の中で彼の香りでもあると認識している。
バターとメイプルシロップを一回し適量かけただけのシンプルなパンケーキは、穹の言う通り一口大になるよう八等分されていた。これなら横に添えられたフォークで刺すだけで口に運べる。確かに食べやすい。
「助かる。ありが
――
」
テーブルに置かれたコーヒーセットから視線を穹に移すと、彼の顔は存外近くにあった。礼を言うより先により一層近づいて
――
。
ちゅ、と可愛らしいリップ音を立て、穹が離れていく。一瞬触れ合うだけの優しいキスだった。
「
――
程々にな。終わったらちゃんと構ってくれよ」
ひらひらと手を振って穹は部屋を出ていった。閉じられた引き戸を見つめながら、感触が残る唇に思わず指先を沿わす。遅れること数秒、ようやくキスされたのだと実感が湧いてきた。
そうだ。作業に没頭するあまり頭から抜け落ちてしまっていたが、穹は丹恒が寝食を忘れて倒れてしまわないよう監視役を買って出てくれたのだ。
普段のように一緒にはいられないと分かって、それでも丹恒の応援をしたいからと泊まり込んでくれている
――
そんな穹が遠慮がちに、しかし素直に語ってくれたお願いを恋人として見て見ぬふりは出来ない。
こんなとき、とる行動としては一つだろう。進捗と日数を確認し、頭の中でスケジュールを立て、今この瞬間にどれだけの余裕を生み出せるかを考えるのだ。おそらく今から一時間休憩を取ったところで影響はほとんど出ない。作業に没頭してしまえば休息時間すら忘れてしまう自分の悪癖を考慮すれば、ここで一度作業から離れるのもいいだろう。
そう決めて数時間ぶりに立ち上がった。今しがた穹が持ってきてくれた差し入れ一式を持って部屋を出る。穹の姿を探すと、彼はスマホを片手にダイニングテーブルのいつもの席に座っていたが、呆けた顔で丹恒を見つめていた。
「え、なんで」
まさか丹恒が作業部屋から出てくるとは思わなかったようで穹は驚いていた。その表情は複雑そうで、かつどういう訳か赤らんでいるように見える。
人に不意打ちを食らわせておいて、いざ対面してみたら恥ずかしくなったのだろうか。だとしたらそれは今更過ぎると思うのだが。
「一度休憩を取ることにした」
「さっきの今で?」
「さっきの今だからこそだ」
「
……
もしかして気を使ってくれてる? 邪魔しちゃった?」
「作業時間は足りているし、進捗も問題ない。寧ろ集中しすぎていたから丁度いいくらいだ」
ダイニングテーブルにはもう一組、受け取ったパンケーキセットと同じものが用意されている。穹が腰掛けるその正面に自分の一式を置いて座った。
「一緒に食べよう」
「
……
うん」
それまで難しい顔をしていた穹だが、ふっと表情を緩めて照れくさそうにはにかんだ。
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