柩木
2025-10-27 22:12:53
12222文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|約束の朝を、二人で

くるっぷに投稿していた「約束の朝」の短編5本をまとめました。パンケーキをテーマとした丹穹の現パロです。
この小説はこちらのワードパレッドをお借りしています。




ふっと意識が浮上し、覚醒しきらない状態のまましばし目の前に移るものを眺める。例えるなら抜け殻だろうか。シーツとその上掛けに残る跡はそこに人がいた事を物語っているが、今は誰もいない。起きてから数秒かけ、隣で寝ていた筈の穹がいなくなっているのだと気付いた。
一人暮らしにしては少々広い2LDKの部屋を借りて住んでいるのだが、これが男二人となると手狭に感じる。だが、その手狭さに丹恒は愛着とも言える心地良さを覚え始めていた。
生活に必要なものは全て一人暮らしを想定して揃えているので、今身体を預けているベッドもシングル。そこに男二人が身体をくっつけて眠るのでとても狭いのだが、それだけ穹の存在を強く感じられるのだ。入眠に難のある体質ではあるが、心なしか寝付きが良くなったように思う。とはいえ良い面ばかりとは言えない。眠る前に抱きしめた筈の穹が、目覚めた時にはいなくなっているという点には若干の寂しさを覚えるのもまた事実だった。一長一短ではある。
今日はキッチンから物音がするので寝過ごした訳ではなさそうだ。穹はよく眠っているからという理由で丹恒を意図的に起こさないことがある。結果としてバイトに向かう穹が出かけた頃になってすれ違うように起きるのだ。
丹恒が睡眠に難を抱えていると知っているからこそ、眠っている時はなるべく起こしたくない。そう言った穹の配慮と知っていても、何も言わずにいなくなられるとその空白の大きさを嫌でも思い知らされる気がする。
二度寝と起床とを天秤にかけ、後者を選んだ丹恒はのそのそと起き上がった。今は二度寝をしている時間がもったいない。
ほんのりと甘い匂いと何かを焼く音、それと調子外れの鼻歌が丹恒をキッチンへと導く。

「あれ、まだ寝ててもよかったのに」

物音に気付いたのか、それともたまたまか。タイミング良く穹が振り向き丹恒の存在に気付いた。一瞬驚いたようだったが、驚嘆の表情もすぐに笑顔へと変わる。
穹はころころ表情を変えるが、丹恒の記憶では笑顔である頻度が高い。良く笑う男だ。それがとても好ましい。

……おはよう」
「おはよ。昨日も寝るの遅かったんだろ? 朝起きたら思いの外しっかり抱きしめられててビックリしたけど」
「一区切りつくところまでやっていて……。最後に時計を確認した時は二時になったところだった」
「そりゃ縄抜けも大変だった訳だ。お疲れ様。今日はご飯系のパンケーキです」

穹は今日の朝食が何かを発表した。ご飯系のパンケーキというと、スクランブルエッグやベーコン、サラダが添えられた物の事を言うのだろう。穹が好みそうなのは甘いメニューの筈だがどういう風の吹き回しか。
そんな訝しげな視線を感じたからか、意外にも穹は丹恒の疑問にあっさりと回答をくれた。

「丹恒の好みを開拓中だから、甘い系としょっぱい系どっちが好みか感想聞かせて」
「分かった。……顔を洗ってくる。そしたら準備だけでも手伝おう」
「流石丹恒先生、仕事が出来る男! ヨーグルト用にフルーツも用意したから、混ぜる用にちっちゃく切って欲しい」

未だぼんやりとしている思考を冷水で覚まして、再びキッチンに戻ってきた丹恒は、穹が用意したフルーツを改めて眺める。ブルーベリー、イチゴ、キウイの三種類。意外と多い。これは目に付いた果物を買ってきたな。
ブルーベリーはさっと洗うだけでいいだろう。イチゴはヘタを切り落として、キウイは皮を剥いて、それぞれ小さめにカットすればいい。自分の作業に算段をつけた丹恒は包丁を手に取った。
二人でキッチンに並んでそれぞれが作業を進めていく。パンケーキが焼きあがるまでの間に他愛のない話をするが、穹は合間にカットする途中のフルーツをひょいと摘まんで自分の口に運んでいた。

「つまみ食いで全て食べる気か?」
「つまみ食いは用意した人の特権! 丹恒もつまみ食いしていいよ。俺のオススメは苺」

用意する者と食べる者。その両者が同一人物の場合、つまみ食いに特権という付加価値がつくのかは疑問が残るところだ。だが、ここではそれを議論するつもりはない。
小さくなる途中の果物を眺め、なんとなく穹がおすすめだと言う苺を摘まんだ。赤く瑞々しいそれをひと口に食べる。噛んだ瞬間果汁が舌の上に溢れ、なんというか、とても甘い。しかし甘みの中にほどよい酸味もあって美味しい。

「美味いな」
「ね。当たり引いた」

得意げにしている穹はいつの間にかフライ返しを手にしており、今まさにパンケーキをひっくり返すところだった。生地のとフライパンの間にフライ返しを差し込むと、慣れた手つきでさっと裏返した。クリーム色だった表面から、キツネ色の焼き目が付いた香ばしい裏面へと装いを変える。

「見て! 今日の焼き色めっちゃ綺麗!」

穹が得意げに指し示した皿には焼きたてのパンケーキが並んでいた。以前作ってもらったパンケーキは焼き色がまちまちだったが、今目の前に行儀よく並んでいるそれらはムラもなく綺麗に焼けていた。