柩木
2025-10-27 22:12:53
12222文字
Public 崩壊:スターレイル
 

丹穹|約束の朝を、二人で

くるっぷに投稿していた「約束の朝」の短編5本をまとめました。パンケーキをテーマとした丹穹の現パロです。
この小説はこちらのワードパレッドをお借りしています。

「どうこのお洒落な朝。まるで映画!」

そう冗談めかしたように言う穹が指し示したのは、生活感が感じられる丹恒の家のダイニングテーブル。若干片付けられているが、それでも見慣れた自分の家には変わりない。
テーブルの上にはパンケーキが二枚乗った皿が二つ。その横にフォークがそれぞれ一本づつ置かれ、飲み物にはアイスコーヒーが用意されていた。ナイフが見当たらないのは御愛嬌。通常生活するにあたってカトラリーのナイフは必要不可欠という程でもないので、そもそも用意していないのだ。

「あまり変わらない気がするが」
「ええーっ? こういうの丹恒の好みじゃない?」
「好み……。考えたことがないな」

今、穹の中ではパンケーキが空前のブームらしい。おそらくだが、先週末に出掛けた先で入った店のパンケーキをいたく気に入ったことがきっかけだろうと、丹恒は当たりをつけている。
何も南国の食事が特別好みという訳ではない。あの時は丁度昼時で、そろそろ食事にしようという話をしていた。そこで目に入ったのが南国の雰囲気が漂うレストランだったという、至極単純な話だ。座席も空いていてすぐに座れるからと、その日の昼食に南国風レストランを選んだのである。
食事の後にデザートも注文した穹は程よく色づいたパンケーキを口に含んだ瞬間瞳を輝かせた。南国風のパンケーキは生クリームが主役なのではと思うほどに白く柔らかそうな山が形成され、メイプルシロップで出来た琥珀色の川が流れていたが、穹はそれを崩しながらもう一口、もう一口と、フォークとナイフを動かし続けた。
そんな穹の正面に座っていた丹恒は、食後の珈琲をお供に様子を眺める。それが誤解を生んだのか、幸せそうにパンケーキを頬張る穹と視線が交わった瞬間、また一口サイズに切り出す作業に戻った穹がフォークを差し出す。

――ほら丹恒も。あーん!

屈託のない笑顔で差し出されたフォークの先にはたっぷり生クリームが乗せられた一口サイズのパンケーキが刺さっている。直前に生クリームの上からのメイプルシロップをかけていたのを見ていた丹恒としては、甘そうだという印象が強かった。だが、まぁ、断る理由もない。
口を開けて、差し出されたパンケーキを素直に迎え入れた。案の定メイプルシロップが口いっぱいに広がるが、不思議としつこさは感じない。生クリームにあまり甘さがないからかだろうか。メイプルシロップをかける前提の甘さに控えられているようだ。
バターの香りとほんのりとした塩味も強い甘さの向こう側に感じられる気がした。だがそれも一瞬で、メイプルシロップの波にさらわれていってしまう。

――ほとんどメイプルシロップの味しかしない。かけすぎだ。
――マジ? でも美味しいだろ?

そう言って笑う穹が本当に幸せそうで、たまたまでもこの店を選んで良かったと思った。
そして今、自宅のダイニングテーブルにもパンケーキが並んでいる。あの時のメニューとは違って何も載せられていないシンプルな装いではあるが、個包装のバターとメイプルシロップの瓶は用意されていた。流石に生クリームはなかったが、用意されているものに関しては好みの量を使うスタイルらしい。

「余程あの店のパンケーキが好みだったんだな」
「俺的にはめっちゃ美味しかったんだよ。思い出してまた食べたくなったんだけど今すぐお店に行く訳にいかないから自分で焼いた」
「近い内にまた行けばいい」
「丹恒も一緒だからな。今度はメイプルシロップかける前に一口お裾分けする」

それぞれいつもの席に座って、改めてテーブルの上を眺める。穹が焼いたというパンケーキは店のものとは違う出来ではあったものの、丹恒としてはこちらの方が好ましく映った。他でもない穹が用意してくれたから、だろうか。
だが、ここで一つ気になる事が出てきた。穹の皿にのせられているパンケーキのうち、一枚の色が少し、いや、だいぶ黒いような気がする。丹恒の前にある皿と比較してみても、香ばしいを通り越して苦そうな色だ。
そんな黒いパンケーキを見ていた視線に気付いたらしい穹が、気まずそうな顔でナイフとフォークを手に取った。そしてもう一枚の一般的な焼き色をしたパンケーキで黒いパンケーキを隠してしまう。

「そんなに見るなよ、えっち」
……どうしたんだそれは」
「一枚目はちょっと火加減間違えたんだ。……丹恒のは、上手く焼けてるから」

たかがパンケーキ。されどパンケーキ。生地を焼くタイミングや火加減を間違うと簡単に焦げてしまう。焼いてみると意外と難しいのだと穹は肩をすくめた。

「次はもっと上手く焼いてみせる!」

そう高らかに意気込んだ穹は、パンケーキにバターを溶かしながら塗ると勢いよくメイプルシロップを振りかけた。