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タロイモ
2025-10-25 16:45:38
15652文字
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貴方のために祈ることなら
パーバソワンドロライ……になり損ねたもの。
お題の「観覧車」「祈り」をお借りしましたすみません。
ヘイ大将いつもの!!
パー(→←)バソです。くっ付いてないです。お互いの矢印にあんまりにも気付かない二人です。何となくバソ視点。
2週目ドバイの後、何ヶ月後かの話。そろそろマスターはキレてもいいよ……。
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2
3
4
不意に、からん、と小気味よい音がした。
金属の椀が、別の金属に触れたような、高く響く乾いた音。
同時に何かが爪先に
——
正しくは、ブーツの先の方に
——
当たっているような感覚がある。
音の出所が気になって、海賊は天上に向けていた視線を下へと彷徨わせた。
目線をやれば、そこにはいつの間にやら銀色の器がひとつ。華奢な取っ手の付いたソレは、海賊のごつい革靴に沿う形で、ころりと転がっていた。
大きさは、カフェオレボウル程度だろうか。薄手の金属の表面には繊細な彫金が施されていて、一目で値打ち物である事が知れた。
「
…
何だ、これ」
突然現れた謎の器を、海賊はまじまじと見つめる。
どこかで見覚えがある物な気がして、バーソロミューは記憶の図書館をがさがさと漁った。いつだったかの特異点の教会で、似たようなモノを見た気がするのだ。
はて、何だったか
…
ミサの時に
…
中に水を入れて
…
動物の毛束の付いた棒と一緒に使う
…
そうだ、アスパソーリアム。聖水盤だ。
キリスト教の礼拝において、司祭が信徒の身を聖水で清めるための道具。宗派によって形や大きさや使用方法も異なるもの。
…
しかし、何故こんな所に?
シミュレーターのバグか何かか?
設定は現代日本だろう?キリスト教徒の割合10%以下の国だぞ?
怪しい。
明らかに怪しい。
どう考えてもヤバそうな代物に海賊が無言で目を瞬いていると、ややあって隣の騎士も『それ』に気付いたらしい。一言「あっ」と漏らしたのが聞こえた。
その瞬間。
『パンパカパーン!☆おめでとうございます!お題をクリアした貴方がたに、ささやかながらプレゼントでーす!』
非常に聞き覚えのある、頭が痛くなるようなソプラノが、何処からともなく中空に響いた。
夏の間、散々聞いて、翻弄された声。
鈴を転がすように美しく、けれど人を弄ぶ女神の視点から降り注ぐ声。
その瞬間、バーソロミューは今回の『犯人』に目星がついてしまった。あぁ、彼女ならばやるだろうな、という確信とともに。
「BB〜〜〜〜〜ッ!!」
怒りとも苛立ちともつかない刺々しい声で、バーソロミューは犯人と思しき電脳魔の名前を叫んでいた。返答は無いけれど、それが答えであるとも言えた。
星が瞬いていた筈の精巧な模造品の空には、いつの間にか『Congratulations!☆』の文字が浮かび上がっていて、流石の騎士も開いた口が塞がらないようであった。
果たして、このシミュレータールーム内に発生した謎の特異点モドキは、結局クリア条件も、誰がいつソレを達成したかも分からないまま、『聖杯』が知らない間に足元に落ちているというお粗末な結果で幕を閉じたのだった。
※
「さてBBちゃん。今回の事で何か申し開きは?」
「だってェ
…
あの二人がいつまで経ってもくっつかなくってェ
…
私、ニンゲンはオモ
…
楽しい観察対象だと思ってますけど、アレは余りにもじれったくてェ
…
」
「分かる。気持ちは超わかる。けどね、悪戯にしても規模が毎度デカいのよ。最悪サーヴァント六騎が缶詰のまま数ヶ月の可能性もあったんだよ。ゴメンナサイは?」
「え〜んセンパイがイジメるぅ〜⭐︎」
「ダメだこの上級AI
…
全然懲りてない
…
岸波センパイ呼んで来ようかな
…
」
「ちょっと!ソレは反則ですよ、マスターさん!それに今回のBBちゃんは、実はそんなに手を出してないのです!」
「
…
手を、出してない?」
「そうです!あの『聖杯』はとある女教皇さんのお祈りから生まれたモノ。私はちょっとだけ条件付けのプロンプトを入力しただけなんですから!」
「いや、手、出してるじゃん」
「だから、『そんなに』って言ったじゃないですか!キュートでデビルなBBちゃんにしては、と〜っても控え目なサジェストだったと思うんですけどぉ!」
「
……
も〜。程々にしてね?」
今回の騒動の黒幕らしいラスボス系後輩電脳魔が、ちっとも懲りてない様子で去っていく背中を見送ったマスターは、長く細いため息を吐き出した。
「
……
これ、報告書どうやって書こうかな
……
」
シミュレーターの制御室に残されたのは、マスターが一人だけ。
残りのメンバーは、シミュレーター内に閉じ込められた六人も含めて全員管制室に向かい、取り急ぎ所長に経緯の報告をしに行っている最中だ。
蓋を開ければ、今回の特異点モドキとも言える一件は、いつもの如く悪戯大好きスイートデビルの仕業だったのだけれど。
その大元の原因は、幻想の女教皇・ヨハンナによる『祈り』であるとの事だった。
とはいえ彼女が別に悪い事をした訳ではない。彼の聖女は単純に『毎日』『同じシミュレータールームで』『主に祈りを捧げていただけ』である。
しかし、彼女レベルの大聖人になると、祈りの積み重ねは『奇跡』を生んでしまうらしい。そうしてその『奇跡』がBBによって利用され、方向を曲げて使われて、シミュレーターをあんな風にさせてしまった。それが今回の顛末だった。
ヨハンナの「なーんーでーだー!!」の悲鳴がまた聞こえてきそうな案件で、少年マスターは苦笑する。いつかのバレンタインからこちら、彼女の心労は如何ばかりか。
しかし成る程、魔術の天才たちがこの特異点モドキを解けなかった訳である。
『奇跡』の積み重ねの上に、上級AIのBBによる魔術の重ね掛けなど、魔術的には完全なチート技であろう。
マスターたる少年は、液晶パネルを二、三タッチして、再びシミュレーターの達成条件を表示する。
数十分前はノイズがかかってブラインドとなっていた部分は、条件が達成されたためか、実はつい先程から画面に表示されるようになっていた。バタバタしていたので、他には誰も確認していないけれど。
いと気高き聖女の祈りに、電脳世界の女悪魔の悪戯が合わさった、少女漫画の世界観そのままのシミュレーション。どんな奇跡か偶然か、或いはその合わせ技か。その達成条件は、恐らく悪戯を仕掛けたBBも意図していない内容になっていた。
知っているのは、こうして見ているマスターの少年だけだ。
「『夜の遊園地、観覧車の頂上で、お互いを愛する者同士が、お互いの幸せを願うこと』ねぇ
…
。」
たまにノイズが入る液晶を、ため息混じりに少年は撫でながら呟いた。
果たして、報告書には何と書くべきか。
それから、この回りくどい条件をうっかり達成できてしまった『当人たち』には、何かを言うべきなのか。
いい大人たちに、自分のような恋愛初心者がアドバイスというのも違うし、かと言って、放っておくのもマスターとしてはどうなのだろう。
藤丸立花は、古今東西あらゆる英霊たちと契約し、困難な場面で多くの選択を迫られてきた歴戦のマスターである。
そんな彼さえ頭を抱える状況にあるのが、あの二人だった。
別な方向性で頼りになる、二つの広い背中を思い出す。
性質も真反対。属するコミュニティも全く別。
それなのに、何から何までピッタリくるあの二人。
大人だからか、互いに抱いた感情を全て飲み込んで沈黙を貫いている、案外頑固で面倒な二人。
(どう見ても両思いなのになぁ
…
バーソロミューとパーシヴァル
…
)
カルデアのマスターは、難しい決断を迫られているのであった。
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