タロイモ
2025-10-25 16:45:38
15652文字
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貴方のために祈ることなら

パーバソワンドロライ……になり損ねたもの。
お題の「観覧車」「祈り」をお借りしましたすみません。
ヘイ大将いつもの!!
パー(→←)バソです。くっ付いてないです。お互いの矢印にあんまりにも気付かない二人です。何となくバソ視点。
2週目ドバイの後、何ヶ月後かの話。そろそろマスターはキレてもいいよ……。


バーソロミュー・ロバーツはむくれていた。
進展が無いからである。

道行く来園者に、果たしてどれだけ聞き込みをしただろうか。遊園地の中は時間がループしているのか、人通りは減る事はなく、しかし増える事もなく。
まばらながらも行き交う人々は、ずっと途切れる事はなかった。
サーヴァントが六人も居るのだからと、エリアを分けて各自別方向に散ってから、優に一時間。流石に、当たり障りなく言葉を紡いで喋る事にも飽きてくるというものだった。

やり方を変えにゃならんな」

月の位置が全く変わらない事に居心地の悪さを覚えつつも、ぼそりと呟いたバーソロミューは、ブーツの爪先を一路北へと向けた。
その先にあるのは、この遊園地で最も巨大な構造物——観覧車である。
人にいくら聞いてもダメなら、アトラクションや構造物に聖杯顕現のトリガーがある可能性は高い。既に一通り園内のアトラクションは巡っているが、恐らく条件はもう一歩踏み込んだものなのだろう。

「上から何か見えればいいんだが!」

そう独りごちて、足元に魔力を込める。擬似的な魔力放出の要領で、海賊はノウサギよろしく地面を思い切り蹴り出した。常人より一回り以上大きい身体は、一気に地上二十メートルの高さまでふわりと跳躍する。
こういう時、サーヴァントとはつくづく便利なものだ。生前は船の見張り台まで登るのに、短くとも三分はかかった。マストに伸びるシュラウズを掴み、ネズミよろしくよじ登っていた事が昨日の事のように思い出されるけれど、今やマストのてっぺんまでは十秒足らずである。
それが楽しくもあり、けれど何だか少しだけ寂しくもあった。

「よっ、と」

骨組みのような鉄骨に足をかけ、海賊紳士はお上品にも観覧車の中ほどに飛び乗った。重みでガコン、とゴンドラが揺れる。
幸い造りは見た目以上に頑丈なようで、きい、と一度鳴いたきり、金具はそれ以上音を立てなかった。
その様子を確かめてから、海賊は鉄の骨格とゴンドラに交互に足をかけて駆け上がっていく。

下の入口から真っ当に乗客として乗っても良かったのだが、周りはカップルばかりのカラフルなゴンドラに一人乗り込むのは何だか憚られた。マシュ嬢や徐福のような素晴らしき淑女が一緒ならばともかく、何が悲しくて男一人で観覧車に乗らねばならぬのか。
それに目的が目的だけに、ちんたらした乗り物に正攻法で乗る気にはなれなかったのもある。疾風の掠奪者は短気なのだ。

鉄の網目を潜り抜け、程なく頂上のゴンドラへと辿り着く。
足元のゴンドラが無人である事を確かめて、バーソロミューはふぅ、と一息ついた。
高さはおよそ80m。控え目な喧騒が満ちる地上から離れ、静かな星月夜が広がっていた。
海風にも似た、からりとした気持ちのいい風が髪を揺らしていく。うねるブルネットが掬われて顔にかかるのを厭い、かつて海賊紳士とも渾名された男は、いつもの癖で前髪を手櫛で掻き上げ、後ろに撫で付けた。

さて、この遊園地の何処にいや、『何に』トリガーがあるのやら)

海色の瞳をすぃ、と細めて、かつての大船団の長は、掠奪先を品定めするように周囲を見渡した。弓兵たちには遠く及ばないが、元々船乗りなので視力にはそれなりに自信があった。
遠目に白く光って見えたのは、アルジュナの弓矢だろうか。そこから少し離れた場所に見える華奢な背中は、アンバランスに大きな槍を持つガレス卿だ。さらに離れた場所に見える謎のふわふわは、恐らくカルナだろう。黒髭……は、探す気にもなれなかった。あいつ、よもや相手がNPCと言えども、遊園地で暴力沙汰とか人殺しとかしてないだろうな?
一番近くに見えたのは、白銀の騎士の姿だった。薄暗い園内でも映える色合いをしているので、割とすぐに見つかった。人の少ないゲート付近を探索しているようだ。
園内には、とりどりの光で彩られたアトラクションが所狭しと犇いていた。見様によっては美しいのだろうが、今は考察の邪魔にしかならない。
……よくもまぁ、ここまでの規模のものを、全て『娯楽』のために隙間なく詰め込んで作れたものだなぁ、とバーソロミューは何処か遠い気持ちで思った。何せ海賊たちが生きた時代には、碌な娯楽が存在していなかった。特に底辺の船乗りなんぞ、せいぜい酒か博打に走るばかりだ。あとは商売女に溺れる奴もいたっけ。
全く、いい時代になったものだ。
自分たちが生きた時代からずっとずっと後だけれど、この遠く平和な景色は地続きで繋がっているらしい。その地平が失われてしまわないように、我々サーヴァントは戦っているのだろう。そう思うと、何だか感慨深いものがあった。

そうやって暫く感傷に浸っていたものだから、遠きカリブの海賊の裔がやや遠くから『飛んで』くるものに気付くのが僅かに遅れたのは、致し方ない事であると言えた。

視界の端に銀色の閃光が走ったと思った、その刹那。

——バーソロミュー、すまない!」
「は、なんうわっ!!」

大きな声に気付いた時にはもう、『ソレ』は目の前にいた。
とんでもない速度で斜め下からかっ飛んで来る、真っ白な巨星。

考えて反応する間もなく、バーソロミューの身体は殆ど無意識に動いていた。
咄嗟にぶつかってきた『モノ』の腕を捕まえ、勢いを遠心力に換えて、ビールマンスピンの如くぐるぐるとその場で回る。いや、どちらかと言えばハンマー投げか。
海賊が辛くも『ソレ』の立派な体躯を受け止めきれたのは、ひとえに船乗りとしての体幹の強さと、元来の器用さ、それに偶々運が良かったが故であった。
捕まえた巨躯を、どうにか狭いゴンドラの屋根の上に降ろしてやる。足元の金具がぎしり、と嫌な音で鳴いて、バーソロミューは少しだけ不安になった。大人五人が乗れる設計であるはずなので、問題は無いと信じたい。

改めて『飛んで』きた騎士——サー・パーシヴァルの顔を見やれば、バツが悪いやら恥ずかしいやらなのか、ともかく頬は林檎のように真っ赤になっていた。
いや、自分でやったんだろう?
……何してるんだろうか、この騎士。

「びっくりしたぁ。やぁ、パーシヴァル。どうしたんだい、いきなり飛んで(?)来るとは。君なら上手く着地(?)出来るようにジャンプするくらい、訳ないだろう?」

海賊が少し茶化してそう問えば、195cmの大男は恥じらうように目を伏せた。熊のように大きいのに、こういう仕草が様になるのだから、本当に面白い男である。

「め面目次第もない目測を誤ってしまった。遠目に貴方の姿が目に留まったから、つい
「つい?」
「飛んできて、しまったんだ

大きな身体を縮ませる姿なんて、まるで悪さをした大型犬のようである。垂れた尻尾と耳の幻影がチラついた。

しかしこの騎士。
今、何と言った?
私が目に留まったから、つい、飛んで来た?
なんだそれ。
なんなんだ、それ。
可愛い過ぎないか。
自販機を越える大男への表現としては些か間違っている気がしないでもないが、愛おしさと可笑しさで、気付けば海賊紳士はぷっと噴き出してしまっていた。

「ッハハハハ!つ、つい、飛んで来たってっくく、ふ!」
「あまり、笑わないで欲しい
「だってふは君、私の事、大好き過ぎやしないか?」
「すっ……!」
「っはは!冗談だよ、冗談!っはー。まぁ、深い意味は無いから安心してくれたまえ」

羞恥からなのか、今度は耳まで茹でだこのようになった騎士の肩をポンポンと叩いてやる。騎士は何かを言おうと口を開いて、でも結局言葉は出て来ないようだった。
ゴンドラの屋根は猫の額ほど。大の男二人だと身を寄せ合わねば同じ箱の上に乗れないので、バーソロミューはさり気ない仕草でパーシヴァルの肩を抱き寄せる。
このくらいならば、友愛の域からは出ないだろうと算段をつけて。——我ながら女々しいことだと自嘲しつつ。

「君、時たま突飛なことするよなぁ」
「ゔっすみません」
「別に怒っちゃいないよ。単に意外なだけさ」

暫く揶揄うみたいにけらけらと笑ってから、海賊は出し抜けにそれまでの緩めた表情をすっと消して、「さて、」と騎士の顔を覗き込んだ。
——気を取り直して。ここからはカルデアのサーヴァントとしてのやり取りだ。
つられて表情を固くする真面目な騎士が面白くてまた頬が緩みそうになるのを、バーソロミューは唇の内側を噛み、込み上げる笑いを飲み込んだ。それから、薄い唇を開く。
いい加減、この馬鹿げた状況を終わらせなければいけない。

「情報の擦り合わせだ。私はこの一時間、園内を歩いて聞き込みを行った。が、結果は何の手掛かりもナシだ」

君はどうだい?と問えば、「私は、外縁部の調査を」と騎士は澱みなく答える。

「シミュレーターの領域は、きっかり『この遊園地内』だけに区切られていた。そこから外には弾かれて出られないし、境界部分は魔術の干渉も受けないみたいだ。残念ながら穴も無い。魔力を乗せた斬撃を飛ばしてみたけれど、弾くでもなく吸い込まれてしまった」
「成る程ね。本当にこの遊園地の中だけで、聖杯様の魔力が完結してる訳か」
「そうみたいだねおっと、」

少しだけ、足元が揺れた。
金属が軋む音とともに、ゴンドラは緩く動いている。観覧車の頂上に居るためには次のゴンドラに移らねばならない。
海賊がさぁ次の箱に飛び移るかと思っていると、するりと腰周りに白い腕が伸びた。
かと思えば。

「ぅえっ?」

身体がぐっと持ち上がる感覚に、バーソロミューは知らず間抜けな声を漏らしていた。
何をするのかと思えば、決して細くはない腰を抱いた騎士は、そのまま膂力だけで海賊の身体を持ち上げ、次に来るゴンドラへとふわりと飛び移ったのだ。
唐突過ぎて突っ込む間も無く、海賊は呆気に取られた。

あまりに違和感のない動作だった。
まるで物語の王子様のように。
相手が嫋やかなる姫君ではなく、長身の美丈夫であるという事を除けば。

こうやってこの騎士は、『何でもない相手』に『勘違い』を起こさせるのだろう。
とんだ悪い男だ。
色々と思うところのあるバーソロミューだったけれど、一先ず「ありがとう、」と謝辞を述べるだけにしておいた。にこりと微笑みを返してくる騎士から、さっと目を逸らす。
頬が熱くなっているのが、気取られていなければいいのだけれど。

「ンンっ。ところで、この遊園地で一番高い所から見下ろせば何か気付く事もあるかと思って、ここまで登って来たわけだが。残念ながら私は魔術に関してはからっきしだ。パーシヴァル、君には何か感じ取れるものはあるかい?」

一つ咳払いをして、誤魔化すように海賊は騎士に質問を投げかける。
ぱちぱちと数回瞬いた騎士は、徐に長い睫毛に縁取られた瞼をそっと閉じた。どうやら、周囲の気配を探っているらしい。
ややあって目を開いた騎士は、少しだけ眉根に皺が寄っていた。珍しい表情だ。

微かに、ではあるけれど。魔力の流れが『ここ』に集積している感じがするね」
「えっ、『ここ』?この観覧車の頂上ってことかい?」

予想外な返答に海賊が驚いて目を見張れば、騎士は至極真面目な表情でええ、と答えた。

「この場所だ。本当に僅かな力の不均衡だから、実際にここに来なければ分からなかっただろうけれどね貴方のお陰だ、バーソロミュー。聖杯がもし顕現することがあるならば、座標はここかもしれない」

薄青の瞳が、普段よりも鋭い眼差しで足元の金属の籠を見下ろしていた。
彼が冗談を言っているとは毛ほども思わない。しかし、場所が場所だけに何とも不可解で、バーソロミューは内心首を捻った。
もっと言うと、余計に分からなくなってしまったのだ。このシミュレーターの攻略方法が。
クリア条件は、どうやら何かを壊したり、取り合ったりするようなものではないらしい。

「夜の遊園地の観覧車その頂上、ねぇ」

まるで少女漫画みたいだ、と海賊紳士はポツリと付け足す。
彼の脳裏には、とある漫画作品の一場面が浮かんでいた。