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タロイモ
2025-10-25 16:45:38
15652文字
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貴方のために祈ることなら
パーバソワンドロライ……になり損ねたもの。
お題の「観覧車」「祈り」をお借りしましたすみません。
ヘイ大将いつもの!!
パー(→←)バソです。くっ付いてないです。お互いの矢印にあんまりにも気付かない二人です。何となくバソ視点。
2週目ドバイの後、何ヶ月後かの話。そろそろマスターはキレてもいいよ……。
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月がまだ登り過ぎない、夜半に届かぬ浅い夜。
打ち寄せる細波のように、雑踏と子供たちの笑い声が時折聞こえてくる。
ぽつぽつと立つ外燈には、辺りを優しく包みこむ柔らかな黄金の明かりが灯っていた。
中でも、一際大きな光がひとつ。
メリーゴーラウンドと呼ばれるそれは、きらきらと黄金色の光を放つ電飾と、豪奢な装飾、上下に揺れ動く軽やかな木馬で構成されていた。
どこか郷愁のようなものを感じさせる幻想的な遊具の横を、けれど周囲の人影より頭一つぶん以上大きい男は、特に何の感慨も無いようにすたすたと通り過ぎる。
時代がかった服装や、華やかなかんばせも合まって、男はまるでアトラクションのキャストの一人のようにも見えた。しかし、よくよく見れば腰には使い込まれた幅広の剣を提げているし、革のベストの胸元には古風な銃が差しこまれている。明らかに作り物ではない、物騒なエモノばかりだ。
そんな物をぶら下げた美丈夫など、どうしたって普通は人の目を引くものだろう。
だというのに、道行く人々はそれを誰も指摘したり、気に留めることすら無かった。
それもそのはず、ここはカルデアのシュミレーションルームの中である。
シミュレーターのAIによって、そのように『設定されて』いるのだった。
モデルは何処とも知れぬ、夜の遊園地。
現代、つまりカルデアのマスター
…
藤丸立花の時代と、ほぼ同時期の日本のどこか。
季節は秋で、この国特有の真夏の蒸し暑さは鳴りをひそめ、打って変わって爽やかな空気が流れていた。
案外広い園内には様々な遊具やオブジェが配置されていて、そのどれもが男には目新しく映るものばかりだ。
本来ならば興味津々に見て回るのだけれど、今は正直それどころではなかった。
——
何せ、非常事態であるもので。
秋の夜長らしく、涼しげな風が心地良く流れる薄闇を突っ切るようにして、男は澱みなく歩く。
歩いて、歩いて、時たま見覚えの無い顔があれば話しかけて、また歩いて。
それを何度も繰り返してはいるが、一向に解決の糸口は見えて来ていなかった。少しくらいは情報を持っているNPCが存在していると期待していたのに、これでは全くの空振りである。まさに虚無だ。
小さく嘆息した男は、思わず口を開いていた。
「
…
全く、どうしてカルデアの内部に聖杯が顕現するのかね
…
」
何とも言えない表情で、男
——
かつての大海賊、バーソロミュー・ロバーツは、シミュレーターによって精巧に再現された星空を見上げた。
どう見ても本物にしか見えない、知らない星座の浮かぶ空を、当てつけのように睨め付けながら。
二次元作品で飽きるほど見た『出られない部屋』
……
とまではいかないけれど、ある意味似たような状況に置かれているのが、何とも言えなかった。
それも、僅かに恋慕を抱く相手とともに。
※
カルデアにおけるシミュレーションルームは、現代における魔術と科学の粋を集めて作り上げた、極めて精巧なものである。その出来の良さは折り紙付きで、居心地が良すぎて殆ど住み着いているサーヴァントが複数人(あるいは匹)いる程だ。
幸いシミュレーションルームは幾つかあるので、各人が戦闘訓練等を行うには普段は何の支障も無い。
しかし、運が悪いのか何なのか。
その日、カルデアのシミュレーションルームは空いている部屋が一箇所しか無かった。
そこにばったり鉢合わせたのが、カルナとアルジュナ、ガレスとパーシヴァル、そして黒髭とバーソロミューの六人だった。
めいめいに集まった理由は決闘だったり、鍛錬だったり、喧嘩だったりしたのだけれど、生憎とシミュレーションルームは一つ。
普段ならば誰かが引き下がるか、順番待ちをするかになるのだろうが、この中に夏のドバイで仲を深めた者たちが共通で居たお陰で、話は少し別の方へ向いた。
即ち、「いっそ恨みっこなし、全員でシミュレーションルームに入ろうではないか、戦闘訓練も兼ねて」という事になったのだ。
クリア要件と再現場所を、全てアトランダムになるように入力して。
そして、それが全ての発端だった。
※
「
……
いやまさかさ。そこで聖杯っぽいモノが発生した上に、シミュレーションルームから皆んな出られなくなるとかさ。ホントどういう事なの?」
「それは私も聞きたいです、先輩
……
」
シミュレーター内の映像を映す幾つかのモニターを眺めながら、カルデアのマスターとそのファーストサーヴァントは、制御室にて二人揃って頭を抱えていた。
シミュレーションルームに入った六人のサーヴァントから、管制室に緊急でメッセージが入ったのが約30分前。
曰く、『ランダム設定にした達成条件が、何故か全く表示されないためにシミュレーターから出られない』『アルジュナの千里眼でも出口が見通せない』『何度試してもシミュレーターを強制終了できない』『何が起こっているのか分からないので、下手に宝具を打つなども出来ないし、手が出せない』との事だった。
慌ててマスターやマシュ、ダ・ヴィンチら数人のカルデアスタッフと、手の空いていた数騎のサーヴァントが現場に急行したものの、シミュレーションルームは制御室からの干渉を全く受け付けない状態になっていた。
そうして、今に至るのである。
追加で何人かのキャスター達にも声をかけて解析を手伝ってもらってはいるが、こうなってしまった理由は未だ全く分かっていない。
マスターたる少年は、自分の髪をくしゃくしゃとかき混ぜて、空いた手でタッチパネルを操作する。何度やっても同じであるけれど、やはり達成条件の欄にはノイズがかかったように見えなくなっていた。それから、シミュレーター内の魔力反応を示すパラメータが、異常に高値を指し示している。
『ホワイダニット』は未解明であるものの、キャスターらの解析により、原因の一つが高魔力反応である事だけは判明していた。
——
つまり、『聖杯』である。
「いや何でカルデアん中にポイポイ聖杯が湧くんだよぅ。もはやカルデアが特異点だよ
…
」
「シミュレーションルームは不特定多数の方が利用されますし、高濃度の魔力が渦巻く場所でもあります。もしかすると、その今までの蓄積が、何らかの形を得ているのかも知れませんね」
「わぁ〜真面目な考察。流石オレの自慢の後輩。えらい」
「あ、ありがとうございます。
…
ですが先輩、肝心の聖杯はまだ魔力として漂っている状態、なのでしたよね?」
「らしいね。中にいるメンバーが『達成条件』をクリア出来れば、恐らく聖杯として顕現して事態は丸っと収まる
…
ってエレナさんとメディアさんが言ってた」
「
…
しかし、その達成条件が分からない、と」
「そー。どうしろってんだー!」
再度頭を抱えたマスターを尻目に、彼の後輩で、盾持ちの半英霊でもある少女は苦笑しつつ、制御盤の通信コードを開いた。幸いなことに、中のメンバーは全員通信端末を所持していて、連絡が取れる状況にあった。
定期的に連絡を取り合ってはいるものの、未だ進展は無いのが現状であるが。
「
…
皆さん、聞こえますか。こちら制御室のマシュです。すみません、外部組は未だ手掛かり無しですが、皆さんはいかがですか?」
『やぁ、マシュ!聞こえてるよ。しかし残念ながらコチラも新たな情報はナシだ』
『同じく。アルジュナの目もやはり利かんらしい。オレもスキルを使って来園者に聞き込みを続けているが、何ともだな』
『こちらも同じく。少し視点を変える必要があるかも知れないね』
通信先、一つ前の夏の休暇を共に過ごした面々から各自報告が返ってくる。しかし、やはり手掛かりは無いとのことで、淡色の髪の乙女は気落ちしたように眉尻を下げた。
「
…
承知しました。ありがとうございます、皆さん。くれぐれもお気を付けて」
通信を切り、少女はモニターを見る。
そこには、何の変哲もない夜の遊園地の風景が映し出されていた。
再現された人々の営みは穏やかで、楽しげで、何の事件も問題も無さそうに見える。
…
六騎のサーヴァントを、取り込んで離さない事を除けば。
シミュレーションルームに直接通じる扉の前には、二人の女性が粛々とスクロールや魔法陣を展開していた。
魔術の天才エレナ・ブラヴァツキーと、神代の魔女メディア。彼女らにかかれば大抵の魔術はするりと解けてしまうのだけれど、その二人をしてこれだけ手こずらせているのだ。シミュレーションルームにかかった魔術はひどく複雑化してしまっているのだろう。
或いは、この聖杯は偶発的な奇跡の積み重ね故に、彼女らの目をも欺けているのかも知れなかった。
いずれにせよ、カルデアの主戦力と言っても過言ではない六騎のサーヴァントが不在とあっては、放っておく事は出来ない。
外からは干渉不能の開かずの間を前に、盾持ちの少女に出来ることは限られていた。
「
……
どうか、皆さんご無事で
……
」
ぽつりと呟いて、そっと胸の前で両手を組む。
今のマシュに出来ることは、皆の無事を祈ることだけだった。
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