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不破
2025-10-23 01:22:07
6071文字
Public
空戦
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#26
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突如として。と、表現するのが適切なのだろう。目の前にいたニオの懐に外套で姿を隠した何者かが滑り込んだ。その何者かの右肘がニオの腹部に突き刺さり、気を失った彼女がその何者かの肩に抱えられた。フュゼは咄嗟に黒刀の鯉口を切り、抜刀と同時に何者かに斬り掛かったが、その刃は身を屈めた何者かに躱され、空を斬った。その身のこなしに少しだけ目を細めるも、その間に何者かはニオを抱えたまま踏み切り、階層構造で崖のように隔たれた貧民街の方へ飛び出した。
「ニオ
……
!?」
驚いたロザリンドの声に舌打ちをし、何者かが貧民街の黒い街並みを見上げて息を吐いた。
ああ、これは面倒なことになった。あの女、とんでもなくあっさり拉致されやがった。
皇帝の保険
左耳のピアス
がある以上、あの女がくたばれば、同じように自分も頭を吹っ飛ばされて、2人揃ってあの世の入口にご到着だ。
『ちょっとなに!? どうしたの!?』
通信を介して聞こえてくるエヴゲーニヤの声に片目を閉じて顔を顰めた。
いちいちうるさい連中だ。この程度で騒いでいては、指揮もなにもあったものではないだろうに。しかし、立場上このやかましい連中に従わなくてはならない。頭の痛いことだが、それはここに居るのならば、という話だ。
「
会敵
エンゲージ
! カノープス1が拉致された!」
ロザリンドが大声で叫ぶ。フュゼは気のない表情でその隣を勢いよく踏み切った。背後から追ってくる「カノープス2!?」というロザリンドの声を置き去りにして、眼下に広がる貧民街へ身を投げた。
遠方に小さく見える何者かの後ろ姿を睨みながら、眼下に迫ったビルの屋上に両足をつけると同時に前方に転がって受け身を取り、勢いを殺さずに地を蹴って加速。エアダクトを飛び越えるとビルの縁を蹴って跳び、向かいのビルへ移る。
『カノープス2! 勝手に動かないで!』
「うるせえな」
次のビルの縁に足をつけ、勢いを殺さないまま屋上を駆け抜けながら、響いてきたロザリンドの声に不機嫌な声を返して迫る背の高いビルの壁面目掛けてへ跳ぶ。
『うるさ
……
! この作戦の指揮権は私が預かっているわ。貴方の行動は
……
』
猛スピードで空中に躍り出ながら通信を切った。埒が明かないのは明白だ。このまま問答を続けても意味がない。敵の目的はおそらく分断と撹乱だ。その通りに付き合ってやる必要などない。
そう考えながらも空中で身を翻し、両足を揃えて迫るビルの窓を蹴破る。ばらばらと崩れ落ちるガラスの破片と共に両足で着地するも、慣性に逆らわず着いたばかりの両足で踏み切り、ぐるりと空中で一回転して着地の反動を殺す。そこから床を蹴って加速すると、ガラスの割れた窓枠を飛び越えるようにして次のビルの屋上へと跳ぶ。
と、前方に見える何者かの後ろ姿がビルの間へと沈んだ。それを目にしながらもぐるりと身を翻して着地し、屋上を駆け抜ける。そのビルの縁を蹴って再び跳ぼうとした瞬間だった。自身の真下からこちらに向けられた殺気を感じた。即座に動かした視線の先、ワイヤーで自らの身体を支えてビルの側面に立つ人影が見えた。
「っ
……
!」
咄嗟に踏み切りかけていた足に込めた力の向きをずらす。間髪入れず響いた銃声。放たれた弾丸は頬を掠め、不安定な状態で空中に躍り出たフュゼは身を翻しつつ、向かいの廃ビルの窓を破った。
「ちっ
……
」
舌打ちをしながらも、飛び込んだビルのフロアを両足で滑りながら、制動を終えるより速く自らが突き破った窓を振り返る。囮を使ってその先で罠を張るのは基本だが、この程度の罠とは拍子抜けだ。この街で孤児をやっていた時分でも、こんな単純な罠を張りはしなかった。
と、外套をまとった人影がワイヤーを使って窓へ飛び込んでくる。勢いのままこちらへ迫る人影が振り上げた刃が目に入り、手にしている黒刀を跳ね上げて斬り弾いた。響く金属音に目を細めつつも即座に黒刀の刃を返すと、外套の人物が振るう刃と再度打ち合う。再び響いた金属音とともに互いの刃が弾ける。互いに獲物を握る右腕が大きく弾かれた体勢のまま、人影が左腕でこちらに銃を向けるのが見え、フュゼは上半身を反らして銃弾を躱すと、そのまま床に手をついて足を跳ね上げ、逆立ちした状態から右足を振り抜いて人影の鳩尾を蹴り抜いた。
その衝撃に数歩下がった人影が構え直した銃が再び火を吹く。放った蹴りの衝撃を利用し、跳ね返ったバネのように後方に飛び退きつつも右手の黒刀で弾丸を斬り弾き、着地と同時にがくりと腰を落とすと、続けて放たれる数発の銃弾を回避して横っ飛びに逃れた。床に転がっていた椅子の上に左手をつき、それを支点にして足を跳ね上げる。空中で身を翻した遠心力を利用して椅子を人影の方へと投げ飛ばすと、即座に両足を床につけ、人影に対して弧を描くように駆け、急迫する。蹴り飛ばした椅子が払われた隙を突いて黒刀で袈裟に斬り上げる。が、またしても金属音が響いた。黒刀と、それを受け止めた刃、大型のマチェット。均衡してぎちぎちと音を立てながら競り合う2つの刃の向こう側から、相手が左手に握る銃がこちらに向けられ、その銃口がこちらの額に据えられる。
その銃。銀色のM19、俗にコンバットマグナムと呼ばれるそれに向けた冷めた目を、フュゼは少しだけ細めた。
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