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不破
2025-10-23 01:22:07
6071文字
Public
空戦
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#26
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パリ。かつての地上の世界にあっては花の都と称されることもあったらしい、メルゼブルクの中でも5本の指に入ろうかという
大都市
メトロポリス
。かつての呼び名に由縁してか、貴族街の大通り沿いには多くの花が植えられており、以前訪れた時と同じ馥郁たる香りが風に乗って流れていく。しかし、その花の香りでも、これから向かう場所での記憶を拭い去るには足りず、ニオは重い足取りで街路を通り抜けると、
貧民街
スラム
を望む階層構造の端に設営された貧民街解体のための仮設事務所に到着した。
アムステルダムからここへ来るまでの移動中、高速艇の中で共有されたのはこの地点が合流地点であるということだけだった。情報の少なさから、なにかしらの罠なのではないかとも考えたが、少なくともヴィルヘルムから直接受けた指示ではあるため、その可能性は限りなくゼロに近いだろうと考え直し、ここへ足を運んだわけだ。
後方にいるフュゼを振り返り、気のない顔の彼に眼で合図してから事務所のドアを開いた。
「あら、やっとご到着?」
「遅いよ、ニオ」
と、開いたドアの向こう側から2人分の知った声が響き、ニオは面食らった。
「は? え、ロザリー? イェーニャ?」
はしたないと自らを叱責したくなるほど間抜けな声で飛び出してしまった言葉に、ニオはばつの悪さを覚え、顔が熱くなる。と、くすくすと可笑しそうに笑う2人に不服だと視線で訴えながらも、咳払いをして仕切り直す。
「あー
……
オルテッツ少佐、ヤノフスカヤ少佐、なぜここに?」
「もう遅いよ」
必要以上に落ち着き払って問いかけた言葉がイェーニャの一言であえなく撃沈し、深々とため息をついてから、もう1度仕切り直した。
「
……
それで、どうして2人がここにいるのよ?」
右手で顔を覆いながら低い声で問う。
「カリストラトフ中将の命令よ。所属不明の人員が解体途中のパリの貧民街に出入りしているという情報が入ったの」
ロザリンドが金色の髪を肩から払い除けながら言う。その回答に、ニオはしまったと肩を落とした。軍人である彼女達がここにいる理由が上の命令によるものだということなど、少し考えればわかることだ。無駄なことを問うてしまったことを後悔しながらも、普段の調子を取り戻そうと顔を上げたところで、出入り口の直ぐ側の壁に背を預けたフュゼが鼻で笑うのが聞こえてしまい、内心で彼の胸倉を掴んで前後に揺さぶってやりたくなったが、堪えた。
「人数は概ね2個中隊ほど。各国軍の名簿に載ってないことを考えると、傭兵の可能性が高いわ。目的は不明でも放置は出来ないというのが、上の判断よ」
「で、その捜索と排除のために
アルコルとベガ
あたし等
が派遣されたってわけ」
と、説明された内容にニオは納得した。自国の都市に正体不明の一団が侵入し、それが傭兵の可能性があるとなれば放置出来ないのは当然だ。
ロザリンドが目をかけている亜人達で構成される戦術中隊であるアルコルと、少数ではあるが急襲を主な戦術とするエヴゲーニヤのベガ。それぞれの隊の人員はある程度把握している。この2隊と自分達カノープスが共同作戦を行うならば、2個中隊ほどの相手の制圧はそこまで難しい話ではないだろう。
「全体の指揮は私が仰せつかっているわ。カノープスにはベガと同様に、一時的に私の指揮下に入って貰う。よくって? ニオ」
と、問いかけてきたロザリンドの言葉に「ええ」と返す。この中でもっとも早く隊長の任に着いたのは彼女であるし、エヴゲーニヤのベガ隊も、自分のカノープス隊も少数の人員で構成される小隊だ。全体の指揮に関しては中隊であるアルコル隊を率いているロザリンドが手慣れているだろう。
「結構。この2日、うちの子達が貧民街内部を捜索して、標的の潜伏場所については概ね絞り込みが出来ているの」
言いながら端末を立ち上げたロザリンドが現在のアルコル隊の配置をマップに重ねて表示した。
「第6区画の廃ビル群に潜伏している可能性が高い。向こうに感づかれる前に突入したいところなの。到着したばかりだけど、今夜決行して問題ないかしら?」
マップに表示されているアルコル隊の人員を示すマーカーが、ロザリンドの言う第6区画を包囲するように展開している。ほとんど目星がついているということだろう。ならば、移動の疲れなど気にしている場合ではない。標的に感づかれる前に勝負を決めてしまわなければならない。
「構わないわ。フュゼも、問題ないわね?」
念の為に確認しようと言いながら振り返ると、フュゼはロザリンドが展開したマップに異なる色の目を向けたまま、低い声で「ああ」とだけ返してきた。
「じゃあ、うちの連中にも伝えてくるよ」
言いながら、エヴゲーニヤが事務所の出入り口へ向かう。それを視線で追うロザリンドが取り纏めた。
「作戦開始は今夜、03:00。カノープス隊の2人はそれまで少しでも休んでちょうだい」
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