保科
2025-10-18 22:27:04
3496文字
Public スタレ
 

法はザグレウスにありて

これはキュレネ先生がくれたサフェアグだ! 第6269299回目の永劫回帰についてのツイまとめ  当時の文面をちょっと修正




――じゃあ、最後の賭けをしようアグライア。
何を賭けるかは……あはは、もう分かってるよね」
全身から黄金の血を垂らしながら、もう立ち上がるのも辛いはずの彼女は、それでもいつも通り飄々と笑っている。私は、その光景があまりにも苦しくて――けれど、目をそらすことができなくて。
「こっちの賭け金は、『あたし』」
……私が賭けるのは、『私』」
呼応する言葉は、自然とこぼれ落ちた。口馴染むことはない――けれど、私の始まりを記す言葉。ん、とセファリアが満足そうに笑う。
「賭けの内容は……そうだなあ、じゃあ、あたしとあんた、先にどっちが倒れるか、だ」
―――それは」
彼女が――法の代行者が言葉を紡いだ瞬間。神権が行使され、その言葉が誓約として力を持つのが、私にも感じられた。かつて児戯のように仕掛けた賭けとは異なる、正真正銘の、公平な賭け。
そう、理屈はわかっていても。――その理は、到底受け入れ難くて。
……何、何を言っているのですか……?」
『倒れるか』。クレムノス人の闘いを用いた賭けでは常套句のルールであり、闘いの強い彼女にとって、それが勝利と同句なことも知っている。けれど、今ばかりは通用しないことだって、想像がつく。
――あー……」想像通り。ふら、と目の前のセファリアが背中から倒れていく。
「これやばい。ちょっと血ィ流しすぎたね……
――セファリア!」
音を立てて地に沈んだ彼女に、慌てて駆け寄る。添えた手は、こぼれる黄金にどんどんと濡れていく。
「セファリア、大丈夫ですか、セファリア……!」
「はは、大丈夫大丈夫〜、なんたってザグレウスの加護がついてるんだからさ。
そんなことよりも――
頭に乗せられた震える手に、体が固まる。
「おめでと。あんたの勝ちだよ――ライア」
――、違う」
こんな、こんなものが、私の求めていた勝利のわけが無い。
「違います、だめ、――『やめて』!」
叫ぶ言葉には、何の力もない。それでも荒げずにいられない声をなだめるように、セファリアの声は酷く穏やかだ。
「制約に基づき、あたしの全ては――地位、名声、財力、全部あんたのもの。はは、一気に大金持ちだね?」
「だめ、だめ――
泣きじゃくる私に。
彼女は――セファリアは、心底幸せそうにはにかんだ。くしゃり、髪の毛をつぶすように、慈しむように撫でる手が。
――後はうまくやりな、あたしの真心」
――
力を失うのを。その瞳が、うろのように淀んだまま、どこでもない空を映すのを。私は、ただ、涙をこぼしながら、呆然と眺めている。
――ザグレウスの加護なんて、何の役にも立たないって、いつも貴女は言ってたのに。
……うそつき」
最期まで、ずっと。