ミズクラゲ
2025-10-12 03:28:13
9544文字
Public ウデ
 

【さわマル6】ウルデプ創作台詞企画2

【支部再録済:そして、日常は続く2】
ネコマさん主催のウルデプ創作台詞企画2に寄せて、それぞれの台詞を使ってSSを書きました。各話に繋がりはありません。


くたばりやがれ

「あのアダマンチウム野郎、今日こそは許さねぇ。俺がアボカドならアンタはバターナッツ・スクワッシュだ、もちろんチンコ的な意味で。その胸毛並の原生林にでも迷い込んでくたばりやがれ! ……あー、今のは言い過ぎ。くたばられたら俺が困る」
 白昼の光に照らされて、ブツブツと独り言を漏らしていたシーツの塊がもぞりと蠢いた。途端、不明瞭な唸り声とともに再び呪詛が吐き出される。
「クソッ、ウルヴァリンの能力に超性欲があるなんて聞いたことねぇのに。こんな抱き方しか出来ねぇなら、もう俺以外抱けねぇんじゃないのか。本望かって言われたら……まぁ、そうだけど。じゃなくて、帰ってきたら、ガツンと言ってやるんだからな……!」
 その声を扉の向こうで聞きながら、ローガンは口元に手を当てて眉間に力を込めた。そうでもしなければ、だらしなくニヤつきはじめてしまいそうだったからだ。
 ウェイドの制止を無視、というよりは強制的に口を封じて、朝方まで抱き潰してしまったことへの反省は勿論ある。途中からはお前も乗り気だっただろう、とは思わなくも無かったが、それはそれだ。翌朝、掠れきった声のウェイドにベッドから蹴り出されたローガンは、今朝だけプレオープンするのだというベーグル屋に朝食を買いに行かされていた。
……本開店したら、混みすぎてしばらく行けないだろうからと思ったけど。今日も混んでたかな。っていうか、そもそも持ち帰りとか出来んのかな。……ローガン、嫌な思いしてないかな。やっぱり、俺も行けばよかった。いや、今からでも……
 床に降り立ったウェイドの覚束ない足音を聞いて、ローガンは慌てて寝室の扉を開けた。今まさに扉に手をかけようとしていたウェイドが驚きに仰け反って、倒れそうになるのを力強い腕が引き留める。
「ろ、ローガン!? 帰ってきてたなら、一声かけろよな」
「ちゃんと言ったぞ、ただいまって」
 片手で腰を抱いた体を引き寄せながら言うと、目を泳がせたウェイドは慌ててローガンの胸元を押し返した。その気のない抵抗は黙殺し、鼻先を擦り合わせてキスを強請る。ウェイドは暫し逡巡すると、ほんの一瞬だけ頬に唇を押し当ててきた。
……おかえり。無事にお使いはできたわけ?」
「ああ。ついでに隣のレモネード屋にも寄ってきた。好きだろ?」
 片手に持っていた紙袋を持ち上げて言うと、ウェイドは目を輝かせる。それから思い出したように眉間に皺を寄せるので、ローガンは苦笑して力の入った額に口付けた。
「俺に言いたいことがあるんだろ。朝食の前に聞かせてくれ」
「え、ぁ、……んと……その……
 抱き寄せた体をダイニングテーブルまでエスコートし、目の前にレモネードのカップを置いてやる。目にも鮮やかな黄色を見つめたウェイドの喉がゴクリと鳴って、大皿を取りにキッチンへ向かった背後から要領を得ない声が追いかけてきた。
 サーモンとクリームチーズがみっしりと詰まったベーグルは、袋から取り出しただけでも香ばしい匂いを漂わせている。ずっしりと重たいそれを皿に載せ、ウェイドの正面に陣取ったローガンが「それで?」と片眉を上げると、うろうろと視線を彷徨わせたウェイドの腹が鳴る。目の前のご馳走へと伸びかけた手を机の上で掴まえると、ウェイドは「ええと……」と口籠った。
「俺は、怒ってんの。セックスは……したいけど、別に、夜通し運動会する気は無かったし。出かけるなら、一緒がよかったし……
「ああ、そうだな。悪かった」
 ローガンをジト目の上目遣いで睨んだウェイドは、大きく息を吐くと「だから」と語気を強めた。
「今度のハロウィン、アンタにはカボチャのコスプレして貰うからな。ぜんぜんカッコよくないやつ。せいぜい自分のパンプキン・ヘッドぶりを反省しやがれ」
……分かった。覚悟しておく」
 真面目な顔で答えてから、ローガンは吹き出した。涙の滲む目で見遣れば、ウェイドも堪えきれないというように破顔しているのが分かる。暫く腹を抱えて笑ったあと、目元を濡らした涙を拭いながらウェイドは息を吐いた。
「あー、腹減った。早く食べよう、ローガン」
「気は済んだのか?」
「もっと怒られたいって? 別にアンタの趣味に付き合ってやってもいいけど、後にしてくんない?」
 ローガンの言葉を待たずに今度こそベーグルに齧り付いたウェイドは、口いっぱいに頬張ったそれを咀嚼しながら実に幸せそうに目を細めた。
 腹が満ちてしまえば、余計に怒る気などなくなってしまうだろう。ローガンは「ガツンと言ってやる」というほどの叱責を受けた気がしていなかったが、毒舌で名を馳せているはずの傭兵は、ローガンを目の前にするとどうにも牙を抜かれてしまうようだった。
「まぁ、惚れた弱みってやつ? 反省してるみたいだし、いいかって。でも、次やったら、今度こそ本気でキレるからな。アンタの体毛ぜんぶカツアゲして、それでちっちゃなマスコット作って、家の鍵につけるから」
 思わず浮かべた渋面を見てウェイドは嬉しそうに笑うと、ローガンの口端についていたチーズを指先で拭って自身の口に運んだ。