ミズクラゲ
2025-10-12 03:28:13
9544文字
Public ウデ
 

【さわマル6】ウルデプ創作台詞企画2

【支部再録済:そして、日常は続く2】
ネコマさん主催のウルデプ創作台詞企画2に寄せて、それぞれの台詞を使ってSSを書きました。各話に繋がりはありません。


好きなくせに

 ウェイドがローガンの晩酌に付き合うようになってから、暫く経つ。
 最初は照明を落としたリビングに居座って、無言で酒瓶を傾けているローガンを見つけては隣に陣取り、ぺらぺらと中身のない話を一方的に垂れ流しているだけだった。
 そのうちにローガンはグラスを二つ用意するようになった。「優しいね」と目を丸くしたウェイドを胡乱げに見上げたローガンは、「飲んでる間くらいは喋らなくなるだろ」と唸っただけだった。それでも、邪険に追い払われたり、黙れと凄まれたりしないことがウェイドは嬉しかった。
 二人でグラスを傾けるうち、ウェイドはツマミを用意するようになった。ローガンにはきっと不要のものだったが、度数の高い酒ばかりを腹に入れるのはウェイドには少し辛かったからだ。
 念の為に二組用意したカトラリーは、意外にもその役割を果たしてくれた。腹に入れば何でもいいような顔をしていたくせ、ローガンはその人生経験に遜色ない知識を有していることを知った。
「これ好きなんだよな。初めて食べたのは確か南米だったんだけど」
「スペイン料理だろ。どこかで買ったのか?」
「いんや、手作り。なに、既製品並みに美味かった?」
……中々だな」
 食べ物を前にして話は弾んだ。訪れたことのある国の話、そこで起きたこと。酒の肴にするなら馬鹿な話であればあるほど良かった。
 そうやって互いのことを知っていくうち、相手を好きになるのは当たり前だ、というのがウェイドの言い分だった。何しろ相手はあのローガンだ。ただ目が合っただけ、ただ微笑まれただけで人を恋に落とせる色男。しかし、恋心を自覚してしまった以上は今までと同じように接することは難しい。いくらローガンといえど、男に想いを寄せられる経験があるとは思えなかったし、それを受け入れるような素養があるようにも到底思えなかった。
 なので、ウェイドはローガンの晩酌に顔を出さなくなった。急にツマミが無くなっても寂しかろうと冷蔵庫に作り置きを用意して、けれどさっさとベッドに入る。ローガンが寝室を覗く気配を感じて、それでも寝たふりを続ければ、気配はそっと遠ざかっていく。翌朝にはキッチンに洗われた皿が残されていて、稀には「美味かった」とメモが残されていたりもして、ウェイドは未練がましくそのメモを集めて小さな箱に保存していた。
「ウェイド。お前、どういうつもりだ」
「な、なんの話……?」
 そして。ウェイドは他ならぬローガンの手によって、リビングのソファに追い詰められていた。
「何もクソもあるか。お前なぁ、世の中にはやっていいこととやっちゃいけないことってのがあるだろ」
 ウェイドをソファの背凭れに追い詰めておきながら、ローガンは随分と甘やかに眦を下げていた。怒っているわけではないのだとその雄弁な瞳は伝えてきていて、けれど、だからこそウェイドは怖くてたまらなかった。
「俺、アンタに何かしたってこと? だったら謝るからさ。ちょっと、離れてくれると助かるんだけど」
「離れたら逃げるだろうが。仕方のない奴だな、……分からないなら教えてやる」
 ローガンはウェイドの頬をまるで慈しむように撫でた。ウェイドの震える唇が「やめ、」と動く。けれど、何を止めてほしいのかは分からなかった。
「お前はひどい男だ」
「な、……んで」
「俺のことを好きなくせに、俺に寂しい思いをさせてる」
 ウェイドはぽかんと口を開けてローガンを見上げた。瞬きひとつ、微笑みひとつで人を落とせるはずの男は、ウェイドの前で懇願するように瞼を伏せる。長い睫毛が頬に陰を作って揺れていた。
「今度はお前の番だ、ウェイド。教えてくれ。俺はどうすればお前を落とせる?」
「落とすもなにも、とっくに好きだって……
「なら、どうすればまたお前と酒が飲める。お前のせいで、もう一人で飲んでもつまらないんだ」
 ローガンといえば、ワイルドで、アウトローで、面倒見のいい兄貴分だと思っていたウェイドは、消火器で側頭部を殴られたかのような衝撃を受けていた。こんな風に、甘えるみたいに攻めてくるなんて想定外だ。こんなやり方をされたら、何だって言うことを聞きたくなってしまう。
「何でもしてくれるのか?」
 ローガンはウェイドの心の声を聞き逃してはくれなかった。満足気に微笑んで、ウェイドの顎を掴むと強引に視線を合わせる。
「なら、俺と恋人になってくれ」
「ひゃい……
 上擦った声の続きは、重なった唇の間に消えた。……それが、暫く前の話だ。
「なぁ、あれってどこまで作戦?」
 今日のツマミはドライナッツだ。手抜きというなかれ、シンプルなのが良い夜だってある。
「あれって何だ」
「アンタが俺を口説いたときのこと」
「ああ……
 ローガンはロックグラスを傾けて、薄く形のいい唇を湿らせた。その仕草は実に様になっていて、成熟した男の色気に満ちている。
「一から十まで、に決まってるだろ」
「ワオ。俺、全力でローガンに口説かれてたわけ?」
「当たり前だろ。お前みたいな面倒な奴、一回で仕留めなきゃ余計に面倒なことになる」
 ローガンは意地の悪い笑みで言った。ウェイドはむず痒い口端を指先で掻くと、精一杯の意趣返しにローガンの油断しきった頬に口付けた。