ミズクラゲ
2025-10-12 03:28:13
9544文字
Public ウデ
 

【さわマル6】ウルデプ創作台詞企画2

【支部再録済:そして、日常は続く2】
ネコマさん主催のウルデプ創作台詞企画2に寄せて、それぞれの台詞を使ってSSを書きました。各話に繋がりはありません。


体で払ってもらう

 まぁ、悪いのはローガンの方だった。敵であるはずの相手にウェイドがべたべたと体を擦り寄せて蠱惑的なセックスアピールをしているのが気に食わなくて、思わず手が――というか爪が――出た。作戦を聞いていなかったわけではない。ただ、話を聞いて想像していたよりも遥かに胸糞が悪かっただけだ。
 ウェイドとて、ローガンが殊の外短気であることを理解していなかったわけではないだろう。即座に作戦をプランBに切り替えて、そこからはいつもの大暴れ。ローガンは胸に蟠った鬱憤を盛大に晴らしてスッキリとしたのだが、最小限の戦闘で済ませる気だったウェイドはそうもいかなかったようだった。
 途中で弾が尽き、敵の銃を奪い取って戦う姿も華麗なものではあったのだが。死屍累々のパーティー会場で息を切らしたウェイドに「この貸し、体で払ってもらうからな」と睨まれたとき、ローガンはさぞかし不条理な無理難題をぶつけられるのだろうと想像していた。
「ほら、ぼーっとしてんなよ。ソッチ持って」
……ああ」
 何せ、日頃から「かっこいい」だの「濡れちゃう」だの「抱いて」だのと、ローガンを見つめながらあけすけな言葉で騒ぎ立てている男だ。そしてその言葉以上に、ふとした瞬間に向けられる眼差しの温度が、ウェイドが抱いているものを伝えてきていた。つまり、思慕というには些かいかがわしい欲望の混ざった熱情を。
 それなのに、頼まれたのはただの棚の解体だ。ローガンは棚板を支えながら、反対側でネジを回しているウェイドの表情を窺った。少し口を尖らせながら、真剣に小さな部品を見つめている瞳。明るい陽射しに透けて琥珀色に輝くその様は、ローガンの好物を彷彿とさせた。
……酒が飲みたい」
「は〜〜、嫌になっちまうなこのアル中め。ペナルティ食らってる間くらい酒以外のこと考えろよな。他になんか思うことはないわけ?」
 じっとりした瞳を向けられて、心中に湧き立ったのは歓喜に似たものだった。別に睨まれたかったわけではない。ただ、こんなに傍にいるというのに、男の意識が他のものに注がれているのが少し面白くなかっただけだ。
 疑問形の台詞を投げかけておいて、ウェイドはすぐに手元へと視線を戻した。どうやら先程からドライバーが滑るばかりで、棚板に食い込んだ金属が弛んでいる気配は無い。しばらく格闘したウェイドは盛大な舌打ちをして、苛立ちを発散するように声を上げた。
「クソ、このネジどうなってんだ。全然回らねぇんだけど。いっそ下からバラした方がいいのかな」
「切ってやろうか」
「ん……、ん? 確かにその手があった。持つべきものは一家に一台、ウルヴァリンってことか」
 ヒュウ、と口笛を吹いたウェイドが、立ち位置を入れ替えるために近付いてくる。ローガンは板を押さえていた手を離し、油断しきって隣にやって来た男の腰を容易には逃げられない力で抱き込んだ。
「へ? えっ? なに?」
「この棚、バラせばいいんだろ。後でやってやる」
「あー、あんがと? じゃなくて、この手は」
「借りを返す。体で払えばいいんだったな?」
 まだ理解の追いついていない男の後頭部を鷲掴み、強引に唇を奪う。カサついた感触はお互い様だ。驚きに見開かれた瞳を見つめたまま、薄く開いている歯列を抉じ開けて自分のものより熱い口内に舌を捩じ込む。びくりと抱き込んだ背が跳ねて、いまさら胸を押してくる腕には構わず無視を決め込む。好き勝手に口内を荒らす舌にウェイドは戸惑ったように目蓋を震わせて、しかし噛みつくことはせず静かに目を伏せた。
「な、……んだよ、いきなり。そんなサービス、するタイプだったの」
「ウェイド。好きだ」
「へ? ……はぁっ!? なに、今日のアンタ、なんかおかしいって。熱でもあんの?」
「違う。やっと気付いたんだ。お前だって満更じゃないだろ?」
 息が整うより先に言葉を並べようとする、熟れて艶めいた唇を舐め上げる。血色の増した頬にはいつも以上に痘痕が浮き出ていて、けれど、そんな些細なことなど気になりはしなかった。それよりも、忙しく動く瞳が自身を見ようとしないことが気に食わない。美味そうに潤んでいて、いつものように甘く蕩けているというのに。
 顔を覗き込むようにして視線を合わせると、ウェイドは消え入りそうな声で「ごめん」と呟いた。
「あ?」
「ご、……ごめん、変なこと言って。体で払えとか、……抱いてとか、いろいろ。気を悪くしたなら、謝るから……
「おい、何でそうなる」
 ローガンが眉間に皺を寄せるとウェイドは益々身を縮めた。
「溜まってるなら、アンタならすぐワンナイトの相手ぐらい捕まえられるだろ。俺に仕返しするために、そんな風に体張らなくたって」
……ウェイド。俺は、お前のことが好きだって言ってるんだ」
「だって。だって、そんなわけ、ない……! 俺、どうせ片想いだから大丈夫だって、何でも言ってたんだ。ぜんぶ冗談になると思って。さっきまで、そうだったのに、なのに、なんで」
 ウェイドは混乱のあまり自分がなにを口走っているのかも分からないのだろう。片想い、ということは少なくとも想われていることは確かなのだ。今にも泣き出しそうに見える男をじっと見つめたローガンは、ひとつ心を決めると力加減に気を配りながら震えている両肩を掴んだ。
「ウェイド。驚かせて悪かった」
「は、ぇ……?」
「確かに、いきなりこんなことを言っても困るよな。お前にはもっと時間をかけて伝えた方が良さそうだ」
 ウェイドは唖然とした表情でローガンを見つめていた。その顔に「あんなに短気なくせに……?」と書いてあるのは無視して、ローガンは目の前の歪な頭をそっと撫でた。ざらついた凹凸の感触が不思議と心地よく手のひらに馴染む。子供にでもするような仕草を続けてやれば、戸惑いに満ちていた瞳に浮かんでいた緊張もどことなく緩んだようだった。
 確かに、ローガンは短気だ。けれど、狙った獲物を仕留める為であればその限りでは無い。
「お前は何も気にせず、ただ俺に口説かれてくれればいい。……まぁ、いつかは体で払ってもらうがな」
 片頬を上げながら仕上げにぽん、と軽く頭を叩き、ローガンはウェイドの横を素通りして歩き出した。当面の目標、つまりは生きる目的が見つかったことに祝杯をあげたい気分だったが、まずは頼まれたとおり目の前の棚を解体してやらねばならない。
 直後、ウェイドが漏らした「取り立てられるってこと……?」という言葉に思わず漏れた含み笑いは、派手な音を立てて木材が散らばる音にかき消された。