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来羅
2025-10-08 12:02:08
20988文字
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サンプル
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再来サンプル(風信)
11月16日スパークにて発行予定の転生俳優現パロです。以前ふせったーにて呟いていた話を文章にしました。
サンプルは全年齢ですが、本自体はR-18なのでご注意ください。
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事故、なのだけれど。
「
……
無理! 忘れられっこない!」
ソファに倒れ込んで顔を覆った信一を、テレビへと視線を向けたまま十二はずるずると麺を啜った。
降って湧いたようなチャンスを上手く活かした信一から『今日の龍捲風』を聞かされはじめて早二か月。楽しく聞いていられたのは最初の三日間だけで、とうに飽きている。
「んー、ヨカッタナ
―
」
適当に相槌を打てば、良くないとクッションが飛んできた。
珍しいこともあるものだと横目で見やれば、顔を真っ赤にした信一が奇声を発してソファに頭を打ち付けていた。ついにおかしくなったんだろうか。さすがの十二もちょっとばかりドン引きだ。
前に同じようにのた打ち回ったときは、確か『息子』を庇って大怪我を追った主人公にお前が無事で良かったと血に濡れた手で涙を拭われ、はじめてその『父親』と正面から向き合い泣き縋るシーンを撮ったときだったか。一昨日放送したばかりで大反響を呼んだシーンは、撮影直後もまた大騒ぎだった。
曰く、触れた指先が本当に震えていて冷たかっただの、曰く、血糊が多く出すぎて大変だっただの、曰く、縋りついた体は思いのほか筋肉質で固かっただの。最後の言葉には全力で「セクハラか!」と叫んでおいたのは記憶に新しい。が、それでもここまでは酷くなかった気がする。
「今度は何のシーンだよ」
聞きたい話はないけれども、聞かなければ解放されない。
小突いた十二に、信一はしかし答えなかった。
「信一?」
「うう
……
」
意味もなく呻いて両手で覆った顔を何度も振る。耳の先の先まで赤い顔は、両手でも隠せていない。
「撮影、一緒だったんじゃねぇの?」
「
…………
一緒だった」
「駄目だったのか?」
「
……
NG連発して怒られた」
「珍しいな」
「明日、もう一度撮り直しだって」
「あー、龍哥に迷惑かけたから、そんなんなってんの?」
「
…………
違う。それもあるけど、そうじゃなくて」
そうしてぼそぼそと返したかと思えば、信一はまた奇声を上げた。思わずびくりとして振り返るも、視線は合わない。
抱きついた龍捲風の体の感触に身悶えていた前回と同じようでいて明らかに違うその様子は、少しだけ心配で、そして大分面倒くさかった。
「なんだよ、今度は抱きしめられでもしたのか?」
「ちがう。失礼なこと言うな」
「それならキスでもしたか~?」
「
……………………
きす」
もちろん、冗談のつもりだった。
ちょっと揶揄うだけの。
笑って、怒られて、凹むなよと声をかけて終わるような、そんな。
けれども押し黙ってしまった信一に、ぎしぎしと音を立てるように恐る恐る顔を向けた十二の視線の先で、信一は目を見開いたままじわりと涙を浮かべていた。
「え、嘘だろ」
「きす、じゃない」
「嘘だろ!?」
「だって、寝てて。休憩。間違えたって。俺が悪くて。寝ぼけてて。猫だって。あの人、猫好きなんだって。可愛い。俺も猫になりたい。猫だったら良かった。猫にキスって
……
キスって
……
キスってなに、十二! 俺、猫じゃない! どうしよう!!」
「待て待て待て落ち着け。意味わかんねぇ」
猫がなんだというのか。
我ながら、本当に自分は辛抱強くて友達甲斐のあるできた親友だと思う。
埒の明かない話を繰り返し繰り返して聞いてやって、やっと話がわかったときには、もうコイツ殴っていいかなと十二は拳を固めた。
というか、これは、アレだ。
確実に、アレだ。
「覚えてるだろ、あの人」
「何が?」
「何でもない」
信仔と呼んだのがその証拠だ。
心臓がドクドクと早鐘を打って、叫び出しそうだった。
覚えているのだ。きっと、前世の記憶があるのだ。
「
……
俺だけじゃなかった
……
」
呟いて、なんだか泣きそうになるのを、唇を曲げて耐える。
だからもしかして、と思う。もしかして、あの人も。
「龍捲風さん、今も猫飼ってるのかなぁ」
ただひとり、何も覚えていない男はゴロゴロとしながらそんな呑気なことを言って顔をクッションに押し付けていた。
「良かったな」
「
……
良くないって」
唇を尖らせて、十二を見る。
あれはキスじゃない。キスなんかじゃないのだ。
「明日から龍捲風さんにどんな顔すればいいのかわかんねぇ」
「いつもみたいに好き好きって顔してりゃいいじゃん」
「してない。できない」
「じゃ、俺たちキスした仲ですって顔すれば」
「そんなファン嫌すぎるだろ」
「ファン?」
「ファン」
ファンとして許されないと大真面目に返せば、十二はぽかんと口を開けた。
「まさかの無自覚!」
「何が」
「
……
龍哥も苦労するわ」
「だから、何が。つーか、龍捲風さんを勝手に龍哥とか気安く呼ぶな」
俺だって呼びたいのに、とは言わなかったけれども、十二はしたり顔で肩を叩いてきたので、信一はまたクッションを投げることで応えた。
「俺は最低かもしれん」
椅子に深く腰を下ろしたまま、頭を抱えて深々と溜め息をつく龍捲風に、虎はチラリとだけ視線を送った。
そうだなと言うのも面倒なら、そんなことはないと嘘をつくのも面倒臭い。この男が腑抜けになるのは今も昔も信一絡みと決まっている。
「今度はどうした」
有名になれば信一に会えるかもしれないなどとうそぶいたのは虎だ。まさか自分たち同様に生まれ変わった姿で現れるとは思わず、興奮して言葉がまとまらない龍捲風という世にも珍しいものを見ることになった。
前世を覚えていても、今生での生活は色濃く反映される。背負うものがありすぎた昔と比べて荷を下ろした今、多少は表情豊かになり、少しだけ素直になり、たまにその内面を吐露してくれるようになった龍捲風を、虎は気に入っている。
しかしながら、深く項垂れたままの龍捲風は再び溜め息をついてぼそりと呟いた。
「信一が今日も可愛い」
本人はいたって大真面目だ。
頭の湧いたことを口にしている自覚もなく、半眼で眺める虎にも気づかず、今日も同じセリフを繰り返す。
馬鹿になった龍捲風も悪くない。が、それはそれとして聞き飽きたのは確かだ。
「先週も可愛かったし、先々週も可愛かったなら、良かったじゃねぇか。仕事しろ」
「可愛すぎて
……
間違えて
……
思わずキスしてた
……
」
「
……
なんだって?」
「昔の夢を見てたんだ。起こしにきた信一と区別がつかなかった。それで」
「
……
本当に最低だな」
「俺はどうしたらいい
……
」
「謝れ」
「謝った。謝って、猫と間違えたと」
「お前
……
本当に最低だな! 仕事しろ!」
虎の叫びは尤もで、珍しくNGを連発した龍捲風は信一と共に監督に怒鳴られ、久々に心臓が竦みあがるような心地がした。明日の失敗は許されない。
それでも忘れようにも忘れられないのだ。
徐々に距離の縮まる親子のぎこちない会話はなんとかなっても、ふいに見せた『息子』の笑みには台詞が頭から飛んだ。
その唇の柔らかさは変わらなかった。
その吐息の熱さも。その瞳に映る自分の姿も。
愛おしくてたまらない。
愛おしくてたまらなかった。
それは昔の信一に向けているものであって、決して今の彼に向けていいものじゃないというのに。その境がわからなくなる。
目の前にいる信一は龍捲風が愛した信一とは別人だ。
わかっている。わかっている。そう何度も何度も言い聞かせている。
「これ以上、俺は信一のそばにいるべきじゃないんだ」
自分の手元で囲うように育ててきたわけではない信一には、今度こそ輝かしい未来がある。大事な家族がある。龍捲風の知らない世界を持っていて、知らない、けれども大切な人たちもいるだろう。
「俺に捕まるべきじゃない」
昔、まだ信一への愛情を家族のそれだと思い込もうとしていたとき、信一がこの先出会う女性を理想作り、新たな家族を夢見て、いつか生まれるであろうその子供を誰より可愛がってやろうと心を諭したことが何度もあった。
今度こそ、その日を願って陰ながら祝福してやるべきなのだ。
いや、そもそもただの先輩俳優から身勝手な想いをぶつけられる信一は迷惑極まりないだけだろう。
困ったときにだけ、そっと手を差し伸べられる距離感。
たまに仲間たちと羽目を外して、けれどもしっかり見守ってやれる立ち位置。
今の信一と築かなければならないのは、そんな関係だ。
「は、虫が良すぎる話だな」
鼻で笑う虎は、左右揃った目を細めて唇を吊り上げた。
「本当にそう思ってんなら、さっさと突き放せ」
「
………………
虎、」
「ド新人構ってる暇はねぇぞ」
「
……
そうだな
……
、そばにいるべきじゃないというのは、そういうことだな」
同じ業界にいれば会うことはあるだろう。同じ撮影に携わるかもしれない。けれどもそれは、その間だけは見ていられても、撮影が終わればそこでまた切れる縁でしかない。そうあるべきことなのだ。
「無理なら、さっさとモノにしちまえ」
「無茶を言う」
「なんだ、お前の言う『愛』ってやつは、そんな簡単に諦められるもんなのか?」
眉を上げる虎に些かムッとして、けれども再び大きく息をついた龍捲風は、寄せた眉間を揉みほぐす。
信一を諦める──諦められるなら、あの日、虎の誘いには乗らなかった。諦められるなら、初めての現場に右往左往する信一を気に掛けたりなどしなかった。
諦められるなら。
「
……
俺より、信一の気持ちが優先だろう」
「逃げたな」
最初から答えなど求めていない虎は、その鋭い眼差しで非難すると片手で遊ばせていたペン先を龍捲風へと突き付けた。
「お前がそういうときは、もうすでに取り返しがつかないことをしたあとと相場が決まってる。キスした以上に何をしでかしやがった?」
これだから、昔馴染みはタチが悪い。
どれだけ今の信一を慮っていると思おうとも、他の誰でもない龍捲風自身の心がそれを真っ先に裏切ってしまう。
「
……
連絡先を交換しただけだ」
ぼそりと呟いた龍捲風に、虎は一瞬だけ拍子抜けしたような顔をした。が、それはすぐにしたり顔に変わる。
「張少祖にも俺以外の『友達』ができたか」
「
…………
手持ちのスマホがそれしかなかったんだ」
「でもわかってただろ」
まさかプライベート用のアドレスを教えることの意味と、それがもたらす結果を微塵も想像できなかったとは言わせない。
なかなか今生の『龍捲風』はやるではないかと、虎は腹の中で笑う。
「それでどうだった?」
悪用しません、と敬礼してみせた信一の滲み出る喜びを龍捲風は思い返す。
下心を悟られたか否かはわからない。けれども少なくとも警戒はされなかった。それどころかたぶん、嬉しい、と口にはしなかった信一の気持ちはその顔に表れていた。今も昔も、龍捲風は憧れだと信一は口にする。昔はそれだけに留まらなかった。今はそれで十分だと思う。
今は、まだ。
「可愛かった」
ゆえに、それだけを端的に告げた龍捲風に、虎が今度こそ声を上げて笑った。
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