N巡目 愛に生きた男の話(jojoリゾプロ)

十数年前に書いたリゾプロを加筆修正しました
暗殺業のリゾが子どもだったプロを拾う話です
他キャラもちょっと出ます

⚠︎映画「レオン」のオマージュあり
⚠︎ネームドキャラの死があります、すみません。ただこの後実は生きていて、プロと再会するところまで書きたかったのですが、時間が足りませんでした



【R】

 うっすら、目が開いた。深いブルーの天井が映る、いつもと変わらない寝起きだ。変わった様子はない。
 朝日がよく差すこの部屋は何度目かの引っ越し先で、とても気に入って落ち着いた場所だ。本来なら職業柄、転々と居場所を変えていかなくてはならないが、ここにはつい長居をしてしまいそうだ──そう思いながらこの寝室の天井を見て、逡巡 しゅんじゅんした当時を思い出す。相変わらず濃い色をしていて、リゾットを寛げさせる。
 厚手の白いカーテンをひいた窓から漏れる光は、リゾットの暗い眼光を眩しさで細めさせるのに十分だった。この数センチほど部屋に漏れる光で、朝、自分を狙う影が無いかをいつも確認する。
 わずかな思考回路の狭間で、異常のない朝を迎えられそうだと確認すると、寝癖のついた銀の前髪を掻いた。
 しばらくは休暇だ。今日はまず溜め込んでいた洗濯物をやっつけてしまい、確かよく晴れると昨日ニュースで言っていたから、シーツやブランケットも洗ってしまおう。寒くなってきた近ごろは食料品を買い込んでおくにもいい。ちょうどキッチンのストッカーが置かれる廊下が程よく涼しくなるから、長持ちするものが増える。
 それだと遠出を久々に楽しむのもいいかもしれない、きっとプロシュートは最近気に入った音楽を聴いて外を眺めたがるだろうから、新しい音楽を教えてもらいながら運転するのも楽しそうだ。
 そこまで考えてリゾットは左を向いた。見慣れた蜂蜜色の、さらりとした金髪がある。小さな頭、柔らかい頬を目視して、それが長年連れ添った相棒だと確認する。
 腕の中に収まる細い体、白い肌、ほんの少し赤い肩口と耳元。相棒プロシュートはブランケットに顔を埋めて眠っている。
 肉の薄い まぶたは安らかで、初めて幼いプロシュートがしっかりと睡眠を取った時を思い出した。
 ──あれはプロシュートが弟を失って、茫然自失に おちいりしばらく経ってからだ。
 リゾットが買ってきたラベンダーの花の香りに、緊張感を全て奪われてソファで眠りこけた彼は、涙の痕がまだ残る目をやっとしっかりと閉じた。このまま永遠に起きないのではないだろうかと思うぐらい、深く静かに眠り続けた。
 あとから聞けば、「ラベンダーはおばあちゃんが一番好きだった花だから」と言っていた。
 香りは人の記憶にしっかりと焼き付くと聞いたが、その老齢の女性とのたった一年の短過ぎる思い出は、確かにプロシュートにとって愛に満ちていた日々だったのだ。リゾットは安心した。しばしば、プロシュートは寝付けないときにラベンダーを買ってくるし、リゾットもそれを拒まない。
 ──あのラベンダー以上に自分は安心をさせれているのだろうか、この生活に。
 しっとりとした相手の髪を撫でつけ、さらりと撫でて耳をかすめて頭を抱えるように持つ。
 そこで、青い、リゾットが美しいと思っている瞳と目が合った。金色の睫毛とのコントラストにいつも心を奪われる。
 その瞳は驚いたように見開いていた。リゾットが自分の起き抜けにキスをしたからだ。ほんの少しかすめるかのような触れ合いに、相手の頬が少し赤く染まるのを見つめて角度を変えて唇を塞いだ。
 冷たい体温は、すぐにぬめった暖かい唾液に沸騰するかのように火照り、リゾットは年甲斐も無く興奮している自分に気付いた。下半身に血液が集中するのがわかる。これが理性を失っていくということだろうか。年下の、自分には仕事の相棒ということ以外ではとても不釣り合いだと思っている美しい青年に、生理的などんな欲求よりも真っ先に欲情した。
 赤いであろう舌を口内で絡めとって、リゾットはキスを続ける。彼は必死でそれに応えようと何度も鼻から漏れ出る息を艶かしくして、さらにそれがリゾットを煽る。
 唇を放し、自分の太い腕で、浅い呼吸をするプロシュートを抱きしめた。
 昨日初めて体を繋げたのだ、無理をさせたくはない。そういう、ほんの僅かななけなしの理性が勝って、プロシュートの背中を落ち着かせるように撫でる。背骨をなぞり、節を感じて、リゾットは指先で彼の感触を楽しんだ。それで本能を紛らわそうとするかのように。
 くすぐったいのか、プロシュートは身をよじらせている。その内、ささやかだが眉根を寄せた。リゾットはその表情をさせた原因を知っている、そしてそれを隠そうとは思わなかった。
 どう足掻 あがいても同じ男、自分の下半身がはっきり主張しているのに気付いたのだろう。
 震えるプロシュートの唇が、恐らく何か言葉を発しようとしている。昨日の今日で、演技ではない情事に明らかに困らせているのはわかっている。自分でも情けない表情だとわかってはいたが、プロシュートを見つめた。
 せめて年上の威厳とか、姿勢を保とうと思っても、この青年に対する欲望の前では無力だ。
 やがてプロシュートの赤く熟れた唇が、小さく息を吸い、言葉を紡ぎ出した。

【P】

 朝だ、瞼の中がぼんやりと明るさを伴ってきている。
 目を開けると、リゾットの腕と胸板から、ベッド用の香水と少しばかりの汗の匂いがした。プロシュートが心から落ち着く香りだ。いつもと違う暖かみと、肌の感触に慣れず、けれども抜け出したくなくて、プロシュートは明るい海のような青色の目だけを持ち上げた。彼の首筋が見えて、その先にある黒々とした双眸 そうぼうは若干だが開いていて、天井を眺めている。
 これは毎朝、必ずリゾットがやる儀式だ。自分たちに危険が無いかを、絶対にプロシュートが起きる前に確認をする。だからプロシュートは安心して朝を起きられる。いつもはツインベッド越しに見ていたその動作が今度は間近で、気配もなく行われているのを眺めて、プロシュートは金色の長い睫毛を再びゆっくり閉じた。
 今日は寒い日が続いた割に暖かそうな日だ。きっとこういう日はリゾットは洗濯をしたがるから、その間は掃除をしよう。そういえば洗剤を切らしているし、食料品も買い込みたいから近くの店へ行かなければならない。それか、遠くまで車で出かけるのも悪くない。
 リゾットは少し休ませよう。自分の運転で海岸に行って今年の海を見納めるのもいい。リゾットは海が好きだ。故郷のシチリアを思い出すのだろうか。
 ふと、リゾットの大きな手がふわりと前髪に触れた。こうやって自分の髪を撫でるのを彼は楽しむ。プロシュートは気持ちが良くて、したいようにさせた。
 ──幼い時分、プロシュートは髪を撫でられるという感覚があまりわからなくて、大きな手が近づいてきた時とっさに身構えていた。手が伸びてくる、それは間髪入れずに殴られるときか、腕を引っ張られ連れて行かれるときだった。その手というものが優しく頭の上に置かれたのは、おばあちゃんが初めてだ。
 それがもう二度と与えられることはないだろう。撫でる、という行為さえ忘れていた矢先、今度は自分よりも大きく逞しいリゾットに同じように柔らかく撫でられた。
「嫌だったか?」と問われた。そんなことがあるはずがない。プロシュートは首を横に振り、そのときに微笑んだ彼がごく自然にまた頭を撫でるから、十歳のプロシュートの心はじんわりと満たされていった、安心という二文字に。
 ──今、節のあるリゾットの手が後頭部をなぞる。かさついて髪が引っかかる。痛みはないがくすぐったくて、うなじを温めるかのように手の平が降りてきたとき、またそっと目を開けた。
 まだ自分の意識は おぼろげだが、端正で、自分よりも悔しいがはるかに男性らしい顔立ちが近づいてきて、プロシュートは大きく目を見開いた。本当に柔らかい感覚だけを残して、顔が離れる。
 キスは、九年間この男と生活をしてきてこれで三度目、だと記憶する。昨日の情事でのキスを思い返して、まるで初心 うぶな年ごろであるかのように赤らめた頬を、彼に見られた。
 見透かされたように、昨日と同じ深いキスが降ってきた。脳はだんだんと覚醒してきて、しかもいやらしく淫らな方向へ傾く自分のアドレナリンに、くそ、とプロシュートは内心焦った。
 ガキじゃあるまいし。そんな言葉がぴったりだった。がっついて、駄々っ子のようにプロシュートは今、全身でまたあの快感を欲しがっている。
 欲しい、欲しい、あの忘れられない感覚が、また欲しい。
 キスは離れた。煮えている頭の中はもうこの先を期待して、それを浅ましいとも恥ずかしいとも思わず待ち構えている体中が、優しく包まれた。リゾットが自分を抱きしめている。
 背中を大人しくさせるように撫でられて、だんだんと冷静になる。どうどうと、荒くなった動物を なだめるように彼に触れられていたが、プロシュートは違和感を覚えた。
 太ももに彼の下半身が、熱を持って当たる。ますます動揺して、プロシュートの心臓は早鐘を打った。
 欲しい、欲しい、止まれない。だけど彼は今、自分をあやして、背を優しく手の平で撫でているのではないだろうか。それとも、骨張った指が背中の間接の窪みに触れて、艶かしく感じるのは自分だけだろうか。
 こんなことを聞くのはやはり野暮だろうか。九年の間で見たことの無い、わずかに困惑した表情のリゾットを捉えて、プロシュートは勇気を出して、呼吸を整え呟いた。
……朝から、でも、変じゃないよな?」