【Skeb】納品物

『ソープスクール』 現行未通過×
Skeb感謝 HO2さんのSS




 漢字で海の月と書く幻想的な生物、クラゲ。そう呼ばれる種別の海洋生物を集めた区画は、仄暗い青色のみで照らされていた。丸い室内の中心には、テラリウムのような球体の水槽が鎮座している。ゆらゆらと泳ぐクラゲたちは、揺れ踊るようにも見えた。
 こういったものに興味の薄いアユムも、何となく『これは美しいもの』と認識する程には計算された美術展だ。フィルアーもまた、アユムと同じ場所を眺めている。


 ふと、フィルアーは思い出した。クラゲの一種には、不死と呼ばれる存在があったらしいこと。専門家でないため詳細までは知らないが、確か一定の成長後に赤子へ回帰するらしい。なるほど確かにそれは不死と語って違いない。

 不老不死、永遠の命。そんなものに魅力は感じないが、手段の一つとして興味がある。死すらも自分たちを分かつには浅い。忘れない、忘れられないアユムという愛の傷。


「(死ぬ、か)」


 人間である以上、自分も彼もいつかは死ぬ。それに怯えるほどフィルアーは臆病ではないし、かと言って軽視するほど愚かでもない。だからこそ彼女は今、アユムの死を考えて恐怖した。クラゲのように回帰することなく、自分を置いて逝く可能性に震えた。


「どうした?」


 深く沈んでいた思考が、アユムの声で引き上げられる。安心させるように手を握られ、自分の視線を相手に絡ませた。表情には出ていないが、彼の声色には確かに心配が滲んでいる。


……いや、幸せだなって思っただけだよ」


 誤魔化しで出た言葉だが、これはフィルアーの本心だ。遠すぎる未来に息を呑むなんて自分らしくなかったなと、彼女は小さく笑みをこぼす。じっとフィルアーを見つめたアユムは、繋いだ手を更に強く握り話す。


「これから先も逐一そう考えてたら疲れるぜ」


 きょとんと、彼女は目を丸くする。アユムは酷く真剣な顔だったが、すぐに笑ってフィルアーの頬を撫でた。未だ理解の追いつかない様子の恋人に、海底のような空間でキスをする。


「オレはもう、ずっと、ダーリンを離さねぇからな」


 額を合わせながら、彼は彼女に誓った。神も悪魔も信じてなどいない彼が、自分だけを永遠にすると告解した。アユムの愛に疑念はないが、その一言で離別への恐怖が霧散していく。嗚呼全く、彼はどれほどフィルアーという存在を喜ばせれば気が済むのだろうか!


「ありがと、改めて安心した」


 頬に添えられた片手を、フィルアーは両手で包み込む。涼しい室内で少し冷えた手、それでも命を証明する温度が使わってきた。そうとも、何を恐れることがあるだろうか。自分たちの愛は、森羅万象の何にも引き裂かせはしない。文字通り此れは永久不滅、不老不死の赤い糸なのだから。




【光彩陸離に赤い糸】