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舎まゆ
2025-08-16 23:39:20
10556文字
Public
小説
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文学フリマ大阪13新刊サンプル「短編集 紊乱」
文学フリマ大阪13
9/14(日) 12:00〜開催 (入場無料)
ブース:け-12 【あふたるちか】
短編集 紊乱
A6文庫版/228p
700円
WEB再録含む掌編10本、短編5本収録。
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2
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5
【森の中にて】
ティーカップに注がれたハーブティーを飲む。
独特な香りを放つ飲み物に男はゆっくりと瞬きをしたのち、目の前の密猟者に対して口火を切った。
「お茶をどうぞ
……
貴方は、ひどく動揺しているようだ」
椅子に座らせられた密猟者は、先ほどまでどこか虚ろであった眼差しを落ち着き無く動かした。乾いた唇をぱくつかせているが、ハーブティーを勧めてきた男
――
森番は平静を保ち彼の返答を待っている。
いざ語れと促されても、心が乱れていればこうも言葉が出ないものだ。森番はもう一度、はっきりとした声で密猟者に促した。
「冷めないうちに。心配せずとも、私は貴方をどうにかしようというわけではないのです。ただ、あなたがこの森で何を見たのかを知りたいだけですよ」
ここから歩いてすぐのところで、森番は密猟者を見つけた。
顔を汗やら涙やらでぐしゃぐしゃにしながら、あれはなんだ、あのおそろしいものはなんだと喚く密猟者をなんとか宥め、この小屋に連れ込んだのだ。こうして椅子に座らされ、彼はようやく興奮から脱したのだが
――
今度はひどく怯えたように縮こまって、落ち着き無く視界を巡らせている。
森番が再度ハーブティーを勧めれば、恐る恐る手を伸ばし、ぐっと飲み干した。傍らに添えていたビスキュイを貪りだすのを見守る森番の視線は冷ややかだったが、同時に憐憫(れんびん)の色も孕んでいた。
「お、おれぁ
……
アオメウサギとやらを捕まえにきただけなんだ」
「アオメウサギですか」
「宝石のような青い目を持つ珍しいウサギって話じゃねえか、取引で高く売れるってよぉ
……
この森にしかいないってんで
……
」
「では、この森は踏み入れては行けない場所だと、知っていたのですね?」
森番の指摘に、密猟者は呻いた。金が必要だったんだ、と絞り出した言葉にはあまり興味がわかないらしく、森番は小さくため息を吐いた。
無法を深く咎めなかった森番に、密猟者は驚いた顔をさせたが、その態度が彼の萎縮した心を、幾分か和らげたようだった。
彼は眉間に皺を寄せながら唇を舐め、身を乗り出した。
「サーカスだ。兄さん、森に
……
サーカスがあったんだよ」
「サーカス?」
「日が落ちた頃、オレは森に入った。小せえランタンと、革袋だけを持っていったんだ。ウサギ狩り用の犬なんざ持ち合わせていないからな
……
」
そこで密猟者は自分の持ち物が一切合切なくなっている事に気づいたが、諦めたのか話を続けた。
「ウサギってのは臆病でよう、灯りなんざ見たらすぐに巣へ逃げ込んじまうだろ。気づかれちまう前に、奴らの姿を見つけて巣穴を突き止めねえといけねえ
……
珍しいウサギとはいえ、しょせんはウサギだ。どいつも同じようなものだから、オレは何匹も獲ってきた。それで、どれぐらい歩いただろうなあ
……
オレは、そいつを見つけた」
密猟者はゆっくりと己の目を指さした。先ほどまで虚ろがちだった黒い目に、奇妙な輝きが混じり始めていた。
「青い目のウサギだ。灰を被ったような色で、ウサギにしちゃあ図体がでかかった。そいつが目の前にぴょんと飛び出してきて、こっちをじいっと見つめてきやがる。オレを怖がっちゃいねえ目だ
……
クソ、あの時捕まえていれば今頃オレは金をたんまり貰っていた
……
。オレは慌てて追いかけて
――
……
そうだ、おかしかった。変に足の遅いウサギだったんだよ。オレが手を伸ばして届くかどうかのギリギリで走って、今思えば、オレは走らされていたんだ。オレは、獲物を逃しちゃあならねえと必死で追いかけていたつもりだったが、あの妙ちくりんなウサギに走らされていたんだ
……
」
密猟者は苛立ちに、足を小刻みに震わせている。その顔にはたかが獣に揶揄(からか)われ、貶められたという、一種の敗北感が滲んでいた。
森番は何も言わず、密猟者の語りに耳を傾けていた。その眼差しは密猟者の罪の告白に冷ややかなものを向ける判官のようでもあり、また奇妙な物語を、息を潜めながら聞き入る少年のようでもあった。
「どんぐらい走っただろうなあ、足も痛くてよう。でも止まっちまったら二度とあれを見つけられねえかもしれねえって思うと、オレは止まれなかった。
……
もしかすると、同じ場所を何回も走らされていたのかもしれねえ
……
突然、目の前が開けて
……
目の前にサーカスが現れたんだ」
ばっと顔を上げて密猟者は声を大きくさせた。目の奥の奇妙な輝きは強くなり、彼は森番に問い掛けた。
「あんた、サーカスを見たことがあるか? オレは、まだガキだったころに、街の広場にやってきたやつらを見たことがある。そこらの家よりもでけえテント、びかびかと光る看板。テントの前で道化もんが風船を持って宣伝してんだ。こうやって
――
」
密猟者は不意に、ニタリ、と口の端を極端に上げ、眉尻を下げながら目を細めて、ぎこちない笑顔を森番に向けた。右手は拳をつくり、頭の横に、そして左手は、そこから風船のひとつを手にする仕草をさせ、そのまま森番へと差し出した。
「サーカスでござい、サーカスでござい、驚天動地の奇跡が見れるヨ。さあ、坊ちゃん嬢ちゃん、若いのも老いも、このテントの中にお入りなさって
……
」
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