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舎まゆ
2025-08-16 23:39:20
10556文字
Public
小説
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文学フリマ大阪13新刊サンプル「短編集 紊乱」
文学フリマ大阪13
9/14(日) 12:00〜開催 (入場無料)
ブース:け-12 【あふたるちか】
短編集 紊乱
A6文庫版/228p
700円
WEB再録含む掌編10本、短編5本収録。
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【望郷】
『そろそろ、腹の虫が断末魔を上げるのでは?』
資料室の棚から引っ張り出した資料を読んでいた私に、宇宙船に搭載された人工知能
――
彼は自らを〝ジモク〟と名乗っている。
――
が、私に囁いた。目の前の資料は丁度、物語のクライマックスに差し掛かるところだった。肉体というものは不思議なものでジモクが指摘した途端、私の腹の虫はぐうぐうと呻きだした。
「そうみたいだ」
『では食事の準備をします。それともうひとつ、あなたが資料に夢中になっている間に新しい星系に入りました。近くの文明が周辺星系のデータを配信しているので受信したいのですが』
「受信を許可する。
……
そんなに夢中になっていたのか、私は」
書物型の媒体を閉じ、傍らに置きながら私は窓を見た。コックピットの前上部を覆う窓兼モニターにはいつもと代わり映えのない、宇宙空間が広がっていた。
表示されていたデータ受信の進捗状況が消えれば、星系地図が映し出された。
大半が手のつけようが無い星のようだが、いくつかの星には文明が根ざしているようだった。
『食事が出来ましたよ』
ジモクに声をかけられ、椅子から立ち上がる。すぐ後ろに現れたトレーにはいつもどおりビスケットが二つと、味付け用のジャムチューブ、脱脂粉乳を溶かした飲み物が並んでいる。それを受け取り再び椅子に座った。
「ジモク、そろそろ補給が必要だと思うんだけど」
『ええ、私も提案の必要性を感じていました。特に消耗品の補給は必須です。歯ブラシも交換時期にさしかかっていますから。さて、我々の現在位置はこの星系の一番外側
――
ここです』
星景写真にぽつりと赤い印が灯る。ちかちかと瞬くそれを横目に、私はジャムチューブから絞り出された黄色いジャムをパサついたビスケットに乗せた。
『我々の文明、技術水準に近い文明を持つ、現在位置から一番近い星はここになります。SRK-4091-γ。この星に向かいますか?』
「そうする」
ジモクが進路を設定するのを待ちながら、私はビスケットに齧り付いた。パサパサしたそれに、柑橘系の甘ったるいジャムは主張が激しすぎる。口の中の水分を容赦なく奪い取っていくそれを流し込むべく、私は一度飲み物を口にした。航路を示す線がのびていく様子に、私はふと呟いた。
「美味しいものはあるかな」
『足りなければビスケットをもう一つ追加しても、今なら差し支えありませんよ』
「いや、違うよジモク。そういうことじゃないんだ。
……
前回立ち寄った星から何ヶ月経つ?」
『航行ログを参照します
――
五ヶ月と二十日です。その間に宇宙空間の歪みに一度巻き込まれていますので、我らの母星での基準に換算すると二十五年と八ヶ月が経過しています』
「
……
とにかく私は別のものが食べたいんだ。前の星が近年まれに見る不作だったせいでろくに食糧を買えなかった。朝ビスケット、昼ビスケット、夜はペラッペラのジャーキーシートにスープとビスケット。君を作った奴に頭をいじくり回された私でも、流石にそろそろ、つらい」
『お気の毒に。在庫にクラッカーがありますのでそちらにしましょう』
「お前に横っ面でもあれば張り倒していたところだね」
私の頭は、この宇宙船に乗り込む直前に感情の抑制処置を施されていた。
目的地のない、人工知能との二人旅を、安全に、けして私の気の迷いが起きないようにという
――
配慮だった。それでも多少の悪態をつくことは出来た。
ジモクは私の恨み言に無言という返事で応えた後、気を取り直したようにノイズを走らせた。
「安心してください、船長。すぐに着きます。計算上は、一ヶ月程度で」
その言葉に私は呻き、天井を仰いだ。闇の中で有象無象の星々が輝いている。
目的の星はジモクの言うとおり、ちょうど一ヶ月で辿り着いた。宇宙船がその星を感知し、コックピットの窓に映し出したと同時、光がこちら目がけてやってきた。
『通信要請を受信。どうやらあの星の哨戒船のようです』
「許可する。自動翻訳を頼む」
『配信された言語データを適用しました。繋ぎます』
――
こちらはSRK-4091-γに属する連邦警備隊です! 連邦規定に従い貴船舶の調査を行います!
コックピットに翻訳済みの明るい声が響き渡る。警備隊にしては圧のない、親しみ深い調子だった。
『了解しました。こちらの所属はARP1703-δ。船体識別番号N-ARP-872A
……
機体データを送信します』
ジモクが私たちの情報を飛ばせば、一瞬の沈黙があった。その反応は私にとって、なんら新鮮なものではなかった。
「
……
確認しました! 艦内の簡易スキャンをしますので少々お待ちください!」
警備隊員の通信が一度切れて、私は小さくため息を吐く。
数分ののち、通信が再開された。
「調査を完了いたしました、ようこそ旅の方! 私たちの星への着陸申請を承りました。このまま着陸態勢にお入りください! 何かご質問はありますか?」
「あー、つまらない質問ですが、あなたがオススメの料理とか
……
こうして旅をしていると、どうにも食事が単調で
……
」
思わず質問した内容に、警備隊の彼はあはは、と気持ちよく笑った。
「ええ、分かります。僕も訓練航行をしていた時は毎日ビスケットで
……
旅の方、運がいいですね。首都でお祭りをやっていて、今日が最終日なんです。各地の郷土料理を売る屋台が出ますよ」
それでは、良い滞在を! そう言い残して哨戒船は去って行った。私と警備隊が話している間にジモクは着陸のための設定を施したらしく、船体は再び動き出し星へと向かっていく。
『いい人でしたね』
「うん。お祭りがあるらしいよ。この星の郷土料理とかの屋台が出るんだって」
『楽しみましょう。さて、着陸準備を、船長。入星審査が待っていますよ』
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