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ぎんちき
2025-08-15 09:38:34
5566文字
Public
ブン木手
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2025.08ワードパレットまとめ
リクエストいただいた3つと、自分が書いてみたかった1つを足した計4篇になります。
自分に課してみたレギュレーション
・タイトル+3ワードからイメージした短文を書く(文中にワードを出すことは必須ではない)
・4つのお題で連作とする
・順不同
・中3のふたり
ワードパレットはこちらを利用させていただきました。
https://x.com/torinaxx/status/1867366928672862327
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潤む呪文
自分の口元へと触れてみる。未だこの地の気候に慣れないのもあってか、かさついていた。押してみると仄かな柔らかさ。人差し指と中指を使い挟むように触れれば弾力が増す。
でも、違った。先ほど、半ば事故のようなものによって味わわせられたものはもっと、何かが違っていた。
「なぁ」
声が目の前に広がる黒い海に飲み込まれていった。しゃがんだ足元では波が寄せては返し続けている。
丸井は唇に触れるのを止めて、代わりに波へ指先を浸す。やや冷たい温度が自分の中にこもった熱を下げてくれた。
「さっきの。もう一回していい?」
ぽつり、ぽつりと言葉を繋ぐ。それは隣に立ったまま、自分と同じように水平線を眺めているだろう男に向けたつもりだった。
「許可できません」
返ってきたのは、そんな一言。丸井は頭を掻いてから立ち上がろうとする。
「そーいうと思った
……
っと。え!?」
「危ない!」
「あ!」
バランスを崩した丸井は、それを阻止すべく補助しようとした木手を巻き込み、派手に尻餅をついた。バシャンと派手に音が鳴る。
「って〜
……
悪ぃ
……
大丈夫か?」
「え。えぇ
……
」
「はー、戻ったら洗濯しないと
……
っ!」
木手の顔がすぐそこにあった。つい先ほどまで触れたい、と思っていたものがすぐそこにある。そのことに思わず息を呑んだ丸井だったが、顔を逸してしまった。
「立てます?」
「う、うん。へーき」
先に立ち上がった木手の手を借りる。立った表紙にまたよろけかけたが、足に力を入れ堪えてみせた。
「丸井くん」
「ん?」
木手が、まっすぐにこちらを見ている。咳払いをしてから続けた。
「あれは、ノーカウントということにしませんか」
「え。やだ」
答えを考えるよりも先に言葉が出る。木手の言っているのは、丸井をいくらか悩ませた出来事と同じなはずだ。それなら、無かったことにはしたくない。
「キテレツはノーカンにしたいくらい、
……
嫌だったってことか?」
「違います」
これまた、即答。丸井は勢いに気圧されそうになった。
「あぁ
……
もう、いいです。分かりました」
恐らく木手も気まずいのだろう。いかにも話を切り上げたい様子だ。しかし丸井はここで終わらせたくないと思った。
「話切んなって! じゃあ、さ」
踵を返してこの場を去ろうとする木手の肩を掴み、引き止める。
「もう一回
……
ってのは?」
「は?」
歩みが止まり、木手は振り返った。目が合った拍子に丸井の中では電流が走って、痺れてしまったかのような感覚がした。
「ちゃんと
……
確かめたくて」
あの感触が嘘ではないこと。自分と木手が口づけをしたこと。それらが、嘘や夢ではないと。ゆっくりと瞬きをした後に、木手が丸井を真っ直ぐに見ながら告げた。
「
……
では、目を閉じてください」
「え!? あ、はい
……
」
言われるがまま瞼を閉じる。波の音と自分の鼓動とがやけにうるさい。
少し間が空いて、丸井は柔らかく、温かなものに触れられたことを認識した。
「
……
!」
目を開けると、木手はそっぽを向いている。頬をさすりながら彼に言う。
「何で
……
ほっぺ?」
自分でもおかしくなるくらい掠れた声が出てしまった。
「今は、それで」
こちらを見ることもないまま歩き始めた木手を追う。
「も、もう一声!」
「そんなのありません」
「んじゃ、いいよ」
駆け足で回り込み、木手の肩に手を置く。間髪を入れず背伸びをして接近する。狙うのは唇
……
のすぐ横。
「
……
っ」
「お先に!」
満面の笑顔で丸井は、木手より先にホテルへ向かった。その間、今日知った感触を幾度も反芻する。今夜は浮かれて眠れないかもしれない
――
などと、睡眠を取る前に洗濯をしなくてはならないことなどすっかりと忘れた様子で。
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