usagipai
2025-08-10 10:58:00
3703文字
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ルイアニェ


とある森にて

こまって泣いてる子がいた
助けてあげなきゃ。
別に理由なんてのはない
これがぼくの、やるべきことだから

泣きじゃくる子供に声をかけて、ゆっくり理由を聞いた

理由は——両親に捨てられたから、らしい。
それは、とても悲しいことだ。

この子はまだ、その事実を鮮明に覚えている。
あの人たちの声も、手の温もりも。
だからこそ、今も泣き続けている。

どうにかしてあげたい。この子を、笑顔にしたい。
けれど——戻らないものを求め続ける限り、この子はずっと苦しむだろう。

たくさん考えて、一つの結論に至った。
なら、思い出さなければいい。
全部、なかったことにしてしまえばいい。
そうすれば、この子はもう泣かなくてすむ。

……だいじょうぶ」
口からこぼれた声は、自分でも驚くほどやわらかかった。

そっと手を伸ばし、その小さな頭に触れる。
触れれば、楽になる。
悲しみも、孤独も、ぜんぶ。

ぼくにできるのは、それだけだ。

——そのとき。
上から重なるように、大きな手がぼくの手首を掴んだ。

……?」

「お前、何をしようとしてんだ」
低く、硬い声。
鋭い目つきで睨む青年がいた

その声には、怒りとも焦りともつかない、けれど確かに拒む色があった。

「そんな怖い顔して、どうしたの……?」
ぼくは首をかしげる。
だって、救うことは良いことなのに。
——その子が、もう二度と泣かないように。

一瞬、頭をよぎる。
もしかしてこの人は、この子の兄なのかもしれない。
知らないぼくが近づけば、警戒されても当然だろう。

けれど、その目を見て、違うとわかった。
似ても似つかない瞳の色。
その奥にあるのは、家族の情ではなく——もっと別のもの。

「その子は、他人なのに守ろうとしてるの?」
……それが、なんだ」

問い返す声は低く、揺らがない。
わからない。ただ、不思議だった。
それと同時に、胸の奥にじわりと染み込むような、言葉にできない感覚が広がっていく。

——どうして、この青年は守ろうとするのだろう。

命知らずというわけではない。それでも、ぼくを止めることを恐れていないように見える。
単に、ぼくという存在を知らないだけかもしれないが

……それでも、すごく興味が湧いた。

……へぇ」
小さく息をもらしながら、ぼくは青年を見つめる。
他人のために、こんなにも真剣な目をする人間がいるなんて——
まるで、その子を自分の一部みたいに守っているようだ。

「ねえ、君は何者?」
「答える義理はない」
「そう……じゃあ、いいや。知る方法は、他にもあるから」

一瞬だけ、互いの視線がぶつかる。
その奥にあるものを覗こうとしても、簡単には掴めない。

ぼくは——癒しを司る神子。
人を救うことも、真実を知ることも、どちらも等しく欠かせない。
それは、ぼくがぼくであるための条件みたいなものだ。

なら——さっきの子からも、何かを知れるかもしれない。
そう考えた瞬間、答えはもう決まっていた。

ゆっくりと、ぼくは彼の手を離し、代わりに袖を掴んだ。
その拍子に、指先がかすかに子供の頭に触れる。
びくりと肩が揺れ、泣き声が途切れた。
——もう、大丈夫だ。

次の瞬きの間に、その子の姿はふっと溶けるように消えていく。
きっと今ごろ、自分の家の前に立っているはずだ。
触れたときに記憶の中から家を探し出し、送り届けておいた。

もちろん、もう二度と、悲しみを覚えないようにして

本当は、もう少し時間をかけてやりたかった。
けれど——今は、それよりも優先すべきことがある。

……お前、今——
青年の声が低くなる。問い詰める気配。

「さ、行こうか」
その言葉を遮るように微笑み、ぼくは続けた。
「話が聞きたい。君のこと」