Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
来羅
2025-07-31 22:42:09
10390文字
Public
トワウォ
Clear cache
空言(風信)
さわマル開催おめでとうございま……した……!
落とした兄貴記憶喪失話です。
1
2
3
4
「俺はいつもお前を不安にさせるようだな」
ソファに並んで座る信一を覗き込むように龍捲風が苦笑いした。
先程の会話を聞かれていたなら、言い訳のしようもない。
「さっきのは、その」
「俺が思い出せないせいで、お前を悲しませてるのはわかってるんだ」
「それは、」
「いや、しかたのないことだとお前は言うが、勝手に玉砕されては俺も困る」
困る、と言われて信一は弾けたように顔を上げた。
困る、と言ったのか。
困る?
「なに、が?」
「ん?」
「困るって」
ポカンと口を開けて聞き返す信一に、龍捲風の方こそ首を傾げる。
「お前みたいな可愛い男を振るような奴は、俺が許せないからな。俺は俺を許せなくなってしまう」
「
………………
は、」
「それとも、何も覚えていない俺のことなどもうどうでもよくなったか?」
「そんなわけっ! そんなことない! 俺は、どんな大佬だって、こんなに好きなんだ
……
!」
「俺もだ」
「! なに、」
「俺も、お前が好きだぞ、信一」
「
……
うそ」
「嘘じゃない」
「嘘だよ、違う、大佬はそんなこと言わないッ」
「信一」
うそ、嘘だ、嘘なんだ。
思わず逃げるようにソファから腰を上げた信一の手を龍捲風が引いた。強い力は立ち去ることを許さず、バランスを崩した信一の頭を抱き込むように龍捲風がソファに押し倒す。
龍捲風の向こう側に天井が見えた。
頭の後ろでソファのスプリングがギシリと鳴る。
「お前はどうしてそう可愛いんだろうな? ん?」
信一の体を跨ぐように乗り上げた龍捲風が低く囁いて、髪を梳いた。その指先が、前髪を除けて露わにした額を撫で、頬を覆う。そして親指の腹でそっと信一の唇のあわいをなぞった。
「────っ」
頭の中は真っ白だ。
急速に狭まった視界は龍捲風しか映さず、震える吐息を吐き出す唇から中に侵入した指先が歯列を割って舌をざらりと撫でていく感触以外に何もわからなくなる。
「ん、」
むずかるような声が喉から鼻に抜けた。
思わず目を閉じた信一の耳を含み笑いがくすぐる。
「信一」
耳の先に唇が触れた。
「信一」
ぞくりとして身を竦めた信一の耳先を食み、耳朶を舌先が舐める。ぴちゃりとやけに大きく響く水音。己の名を呼ぶ、色めいた、甘やかな声。
この人はどんなふうに抱くのだろうと、何度も夢想したことがある。その手が、その唇が、どんなふうに愛を請うのだろうと。
「ぁ
……
、あ、だい、ろ」
額と額が合わさる。
心臓の音が煩い。
耐え切れなくて目を開けた信一の、ぼやけるくらい近くで龍捲風の鉱石みたいな瞳が熱っぽく信一を射抜く。
「信一」
「────っ」
信一、と呼ぶ甘い声。
でも、これじゃない。
信一の知る龍捲風の声は、こんなに甘くない。
龍捲風は、こんなことはしない。
しないのだ。
「っ、駄目! 駄目だ! ごめん、大佬!」
触れる寸前の唇を片手で遮り、信一は叫ぶ。
じわりと目の端に滲んだ涙が、後悔なのか恐怖なのかはわからなかった。
力任せに押しのけて、その体の下から這い出そうともがく。けれども小さく笑った龍捲風の声に、信一はびくりと動きを止めた。
気紛れな猫みたいに目を細めた龍捲風が、信一の手の平の向こうで唇を震わせる。
「やっと言う気になったか?」
「っ、え、
……
はっ?」
「お前はあまり嘘が上手くないな」
「
………………
はぁ!?」
よいしょ、と年寄り臭い掛け声で体を起こした龍捲風が、間抜けに口を開けた信一の脚を退かしてソファに深く座った。そしていつまで寝転がってるんだと腰を叩く。
「だい、ろう、え、きおく」
「残念だが、それはまだのようだ」
「でも」
「それでもお前が嘘をついていることはわかる」
「
…………
それ、は」
「『恋人』なのは嘘だろう?」
片眉を上げて楽し気に告げる龍捲風は、悪戯の成功を喜ぶ子供みたいで、実に大人げなく笑った。
「いつから
……
?」
「実のところ、最初から怪しいとは思ってたんだ。お前ときたら、嘘をつくのに動揺しすぎだ。それに俺が近づくたびに毎回、体を強張らせて顔を赤くしていては、疑ってくれと言っているようなものだろう」
「だって」
「信一」
「ごめんなさい」
信一のよく知る顔で、よく知る声で、呆れたように笑う龍捲風が肩を竦めて信一へと手を差し伸べる。その手を恐る恐る握り返した信一を、力強い手がぐっと引き上げた。けれどもそれだけだった。離れていく手は、もう触れることはない。
「
……
ごめんなさい、大佬」
寂しい、なんて思うのは間違いだ。
視線を落としてもう一度頭を下げた信一は、泣くまいと鼻をすする。
そんな信一に、ふうっと息を吐き出した龍捲風が正面を向いたままで言った。
「俺が好きか?」
はっと顔を上げた信一を龍捲風が振り返ることはない。
数瞬、躊躇った。
けれどもこくりと頷いた信一を、龍捲風は天を仰いでもう一度深く息を吐き出す。
「『俺』は知ってるのか?」
「
……
知らない」
「それはきっと嘘だな」
「嘘じゃない、俺、言ってないし、それに」
「お前じゃない。俺が知らないのは嘘だと言っている」
「はい?」
「言っただろう、お前は嘘が下手だ」
横目でちらりと見た龍捲風がそっと手を伸ばした。その指先が触れることなく信一の目元を辿る。
「この目は、正直だ」
好きで好きでしかたがない、と。
そんな目で見られて気づかない朴念仁ではないはずだ。
龍捲風が困ったように口角を上げた。
それが本当なら。つまり。
「玉砕ってことじゃん?」
龍捲風は相手にしなかったということだ。
「
……
好きなだけなのに」
好きでいるだけでいいはずなのに。
記憶のない龍捲風が戯れに揶揄うから、その甘さを知ってしまったから。
「嘘つき!」
唇を尖らせた信一を、男は心外だとばかりに首を振る。
「誰が嘘つきだ」
「俺のこと揶揄って、可愛い、とか、好きだとか、嘘ばっかり! 俺は!」
「嘘じゃない」
信一、と強めに呼んだ龍捲風が今度は雑に胸倉を掴んで引き寄せた。負けてなるものかと睨みつける先、龍捲風もまたいつになく怒気と困惑とを張り付けて信一を見つめている。
「
……
嘘じゃない。だから『俺』は何も言わないんだ」
苛立ったような低い声に、は、と息が漏れた。
「俺は『俺』だ、信一。記憶がなくても、それは変わらない」
「
……
大佬、」
「だから、言え、信一。言ってやれ」
「でも」
「お前には『俺』も、きっと、弱い」
悪戯めいた瞳で笑う龍捲風が小さく、しっかりと頷いた。
そうして呼ばれるようにそっと伸ばした手は、けれども空を切る。
「大佬!!」
ふらりと傾いだ龍捲風の体が急に力を失って倒れ込んできた。
1
2
3
4
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内