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ハネムーンSS5篇(縁海バカンス 星願2025 ノベルティ)

縁海バカンス 星願2025 で配布した、ハネムーンSSガチャカードからリンクしていたSS5篇です(魔法舎→アクスイ→フォ学→月花→パラロイ)。ハネムーンと言いながら、付き合ってない話もある。


ハネムーン(エア)クルーズ(パラロイ)


 フォルモーントシティ上空を航行する大型エアシップの一室から、ふたりの青年のひめやかな応酬が漏れ聞こえる。どことなく妖しげな色をまとった甘い声と、凛と響きながらもやわらかな声だ。

「あっ……ちょっ、待っ……!」
「待たない。ここが気持ちいいんでしょう?」
「や、強っ……ウッ……!」

 それはこの船に乗り込んだ他の乗客たちのように蜜月を謳歌しているのとは少し違って、どことなく冗談めいて、甘さに欠け、苦痛さえ訴えていた。
 ピピピピピ。ふたりのあいだを裂くように、無機質な電子音が鳴り響く。
 カインは口の形だけで「来た」と言い、オーエンは黙ったまま片眉をあげると、「はい」と応答した。
 部屋に備え付けられた大型ディスプレイのスイッチが自動で入り、ブラッドリーの姿が映し出される。
 ブラッドリーは、ふたりの姿を見てぽかんと口を開けたあと、どこか気取った口調で「……邪魔しちまったか?」と言った。そうしながらも、さらさらと何か書いている。
 しばらくして、ブラッドリーの走り書きが大写しになった。

『何やってんだ?』

 オーエンが、うっそりと笑みを浮かべて口を開く。

「そうだよ。新婚カップルの初夜を邪魔するなんて本当に無粋な上司だね、ハニー」
「う…………

 カインはなにも口に出せず、首をぶんぶんと横に振った。オーエンは笑うのを我慢しているようにむずむずと口角を震わせたあと、空中にホログラムディスプレイを投影した。

『盗聴されてる』

 オーエンがめずらしく真実を告げてくれたので、カインはホッとして身体の力を抜く。その隙に、また足の裏を強く押されて悶絶する。

「いっでででで!」
『さすがに大袈裟でしょ。それか、お酒の飲みすぎで胃腸の調子が悪いんじゃない?』

 ブラッドリーは呆れた顔でこちらを見ていたが、気を取り直すように首を振ると、またメモを見せる。

『なんつうベタなネタを……
『ねえ、メタ発言やめてくれる?』

 カインは思う――なんでもいいから早く通話を終えて欲しい。そうすれば、その内容をごまかすための茶番劇も終えられるはずなのだ。
 カインとオーエンがハネムーンクルーズに乗り込んだのは、潜入捜査のためである。ブラッドリーが、多数の違法アシストロイドを取引のため市外に持ち出す動きを察知し、その摘発のために派遣された。カインが「なぜ、組織はわざわざハネムーンクルーズを……」と尋ねると、ブラッドリーは「連中はエアシップを輸送手段としか見ちゃいねえ。その港を決まった時間に出る船ならなんでもいいんだろう」と笑った。
 警察組織外のオーエンが潜入捜査のバディに選ばれたのは、カインの相棒にアシストロイドの演算能力が必要だったからで、実際にはネロでも、ネロ以降に採用された他のアシストロイドでも構わなかった。けれど、どこからか話を聞きつけたオーエンが、自分も行ってみたいと言い出した。
 ダメ元で「オーエンと行ってもいいか」とブラッドリーに尋ねると、最初は断られたが、数日後にうんざりした顔で「裏から手を回すのをやめろ」と言われた。カインの身に覚えはなかったが、オーエンがフィガロに、フィガロがブラッドリーに圧力をかけたようだった。

「急に連絡して悪かったな。まさか今日がハネムーン初日とは思わなくてよ。結婚祝いを贈り忘れたことに気づいちまって――

 ブラッドリーは適当なことを話しながら、確認事項を手早く書き止め、こちらに見せる。それを見たオーエンがひとつふたつまばたきをして、『回答ファイルを送った』と表示する。一瞬後、ブラッドリーの視線が逸れた。画面外の文字を追っているのだろう、緋色の瞳が上下にせわしなく動く。

「結婚祝いはいいから、帰ったら美味い酒でも奢ってくれよ……

 カインは荒い息の下で呟いた。それは本心からの言葉だった。きちんと聞き取ったブラッドリーが「おう」と破顔したあと、「敬語を使えっての」と眉をひそめる。
 それから人差し指と親指で丸を作ってカメラに近づけた。令状を取るのに必要な証拠は揃ったようだ。
 上機嫌なブラッドリーは、「まあ、今夜は励めよ」といたずらっぽく笑って通信を終えた。
 途端に部屋が静かになる。オーエンの薄紅色の双眸がカインのほうを向いて、不満げに細められる。

『ついさっき、お酒の飲みすぎって僕が書いたの見てなかった?』

 カインは黙ったまま、首を横に振った。きちんと見ていた。見ていたけれど、特に気になる自覚症状もないし、控えようという気も起きない。
 オーエンは眉をひそめると、『余計に悪い』と、足裏のマッサージを再開した。

『悪い子は、お仕置き』
「アッ、うあっ、だから、痛いって……! この、下手くそ……!」

 やみくもに痛いのは好きでないので、つい罵倒の言葉が口から出てしまった。実際、マッサージが心地よい刺激を楽しむものだとするのなら、オーエンのマッサージは下手である。

「おい、やめろよ」

 すうっと耳元に薄い唇が近づいて囁く。

「僕が本当に下手くそみたいだろ」

 カインは、また首を横に振った。
 盗聴をされているせいで――任務が成功すれば、証拠として録音を警察組織に聞かれる恐れがあるせいで、はっきりと否定できないのが残念だった。
 「なあ」と呼び掛けて、不機嫌そうな顔に微笑む。

今日ぐらいは、やさしくしてくれよ」

 オーエンは鼻で笑った。

「僕はいつも優しいでしょ」

 それでも先ほどよりは穏やかな手つきでマッサージが続いていく。溜息とともに『気をつけないと早死にするよ』と伝えられて、カインはかえって何十歳も年を取ったような気がした。