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あけみ
2025-07-25 21:50:01
11224文字
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MCU(小説)
【MCU】あたたかな光は君だった【バナトニ】
2019年発行しました最後のバナトニ本からの再録。ピクブラにupしているものと同じです。
エンドゲームのバナトニ。中身を少し加筆修正してます。
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時間を辿りインフィニティ・ストーンを集めるのは容易ではなく、覚悟していた犠牲も本当のところバナーも皆、分かっていなかった。ソーが混乱し愕然としていたことで逆にバナーは冷静に感情をおさえられた。チラリとトニーを見つめれば、彼も何か思案しているようだった。
「
……
トニー」
「ああ、作業に戻ろう」
違うよ。時間が惜しいと促したわけじゃない。ナターシャを失った悲しみはどこかバナーの感覚を麻痺させていたが、先ほど見たトニーの表情はもっと別の何かだ。
不安が過る。
だから声をかけ呼び止めたが、トニーはラボへと踵を返す。新しいガントレットはすでに完成しているのに、彼が密かにアイアンマンのアーマーの右腕にガントレットに似た構造のナノテクを埋め込んでいるのを真夜中のラボで作業していたのを見たことがある。
足を踏み入れるべきか迷ったが、結局バナーはトニーの背中を黙って見つめるだけだった。
ガントレットを嵌めて指を慣らす役目は自身がやると、バナーは初めから決めていた。ここにいる誰よりも適任だ。これはきっとトニーも同じ考えだろう。だが、彼はいつも『奥の手』を用意する。トニー・スタークはそうせずにいられない。使わなくて済めばいいが、もしもの時がある。今までもそうだったから。
バナーは過った不安を解消できないまま、インフィニティ・ストーンを取り出す作業に移ることになった。
「スペース・ストーンとマインドは、キューブと杖を媒体にしている。これらを安全に取り出すんだ」
トニーはフライデーにラボの完全防御を命じる。インフィニティ・ストーンが六つ全て揃っている状態から、外への影響を懸念してのことだ。
トニーとバナー、ロケットの三人だけでガントレットに石を嵌める作業を行う。ガントレットと四つの石はそれぞれ別の箱に入れてある。残りは四次元キューブと杖だった。
「こいつを取り出せばいいんだろ、楽勝だ」
ロケットは杖が入ったケースを頭上に持ち上げ走り寄る。獣の足を器用に動かして何度も走る姿を見ているので、躓いて転ぶ失態はしないと知っているが、手に持っている物が物だけにギョッとする。
「もっと慎重に運べ、おい、こら!」
バナーの背後でまた騒がしく二人が言い合いを始め、緊張が少し緩む。思わずクスリと微笑んでしまうほどに。しかし、派手にケースを落とす音と杖がバナーの足元まで転がってきた事態に眉を寄せた。トニーが厳しくロケットに「注意しろ」と言い放つのを聞きながら、バナーもその通りだ、と促し足元にある杖を掴み上げる。自身もこの時は迂闊だった。そう、バナーは杖に嵌められているマインド・ストーンが動作していることすら頭になかった。
「ブルース! 素手で触るな!」
咄嗟に叫んだトニーの言葉の意味すら把握できずに、バナーはただ、名を呼ばれたことに対し鼓動を高鳴らせ少し浮ついたのだ。
杖の柄の部分を掴んだだけだったが、淡く光を放つマインド・ストーンがバナーの腕を通して作用するには充分だった。
意識が途切れ、トニーが懸命に名を呼ぶ光景が映る。何度も「ブルース」と呼ばれているうちに気が高まってくる。必死に僕の名前を呼ぶ君に、うっとりとしたのは認めよう。すぐに何でもない、大丈夫だと起き上がるつもりだったから。
直前、浮上する気配にバナーは体を強張らせた。
ハルク
――
。
そう思った途端、眠るように意思を手放す。
× × ×
「ロケット! バナーから離れろ!」
唸るような低い声がバナーから発せられ、トニーはそばにいたロケットに指示する。緑の巨体を震わせ、殺気すらも感じさせる姿は何度も見てきた「彼」だ。素早くアーマーを装着し臨戦態勢に入る。何故今更と思うも、そばに転がるマインド・ストーンが嵌められてある杖を見やって、顔を顰めた。アーマー越しに掴み上げそっとハルクから遠ざけた。マインドが作用し、バナーの中にいるハルクを刺激した可能性があると判断したからだったが、そこで思い留まる。
バナーの中にまだハルクがいる。
その事実にトニーはハッとして顔を上げた。頭部のマスクを装着するのを止め、頭を抱え必死に耐えるようにふら付いた足取りのハルクをジッと見つめる。酷い頭痛に耐えかねた彼は、手当り次第に近くにある物を叩き壊した。
「ハルク」
声をかける。
唸り声はピタリと止み、顔を上げた彼は怒気を含んでいたが同時に瞳の奥は哀愁の色をうかがわせた。ハルクは威嚇するように咆哮をあげる。側にあった机はなぎ倒され、これ以上近付くことを拒否するそれは手負いの獣のようだ。
「おい、あいつどうしたんだ?」
ロケットは通常の状態ではないバナーの様子に顔を歪める。警戒し、銃を持つ手に力が入るロケットにトニーは静かに銃を下すように示唆した。
ハルクにゆっくり近付くトニーは纏っていたアイアンマンのアーマーを全て解除する。
「おい!」
ロケットはギョッとして声を上げたがトニーはハルクから目を逸らさなかった。
「ハルク、私だ」
声をかけたことで刺激させたのか、ハルクは唸り拳を振い上げる。ロケットは銃を構えた。しかし、引き金を引くことにならずに済んだのは、ハルクの拳がトニーに届く前に止ったからだ。勢いよく振り上げたため、風圧はトニーの前髪を揺らした。
拳が止まることは知っていた。以前もそうだった。ラボで暴れて、でもすぐに大人しくなった。懐かしくなって少し笑う。
だからトニーは顔を傾けハルクの顔をよく見ようとした。
「やっぱり。君は、いるじゃないか」
屈託な笑顔を浮かべるトニーに、ハルクは振り上げた拳をそっと下ろす。
視線を逸らしたそれは居心地が悪そうに漂うとハルクも少し口元を緩めた。
二人の様子に訳が分からないと困惑の表情を浮かべるのはロケットだけだ。
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