あいづき
2025-07-04 16:17:04
Public 創作
 

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短文を五月雨式に



夜明け前の休息

 こぽり。ぽこり。
 お湯の沸き始める音がする。日本は軟水に溢れており、まろやかな紅茶を飲むのに苦労をしない所は利点だろう。今は便利な電気ケトルがあるから、お湯も沸かし過ぎてしまうということが減った。パチンとスイッチがオフに切り替われば、そのまま持ち上げて温めていたポットの中にその湯を落とす。茶葉が広がり、美しい琥珀色がじゅわりと無色透明を彩っていく。湯気と共に立ち上る香りは緩く掴んでいた眠気を未練なく離す。湯を注ぎ終われば隣に置いてある砂時計をひっくり返して、その砂を落とす。
 私は、この瞬間が好きだ。
 己だけの時間の邪魔をするものはなく、目の前の事に目を向けられる。頭を使う事が多い私にとって、朝の一人のティータイムは欠かせない。アジトへ足を向ければ、また騒がしくもなるだろう。昨晩沢山仕込んでおいたサンドイッチを、自分の分だけホットサンドに変える間に砂は落ち切る。
 そうしてテーブルに持ってくれば、愛おしい時間の始まりである。
 思考を整理しながら新聞に目を通し、流れを読み解く。私の元に流れて来る話と符合するもの、しないもの、数多くあるだろう。これが外に出たということはそろそろ私に連絡が来るだろうかと思っていれば、予測通りにポコンとスマートフォンの通知が入る。
「やれやれ……クライアントがお困りの様ですね」
 くつくつと口から溢れる笑みは、何の愉悦さも孕んではいない。あるのはクライアントの愚かさの中に在る憐れみだけなのだから。
「さて、後でゆっくりと同情をしてあげましょうか」
 くい、と飲み込んだ琥珀色が、血液となる前に。