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乙麻呂
2025-07-02 21:00:00
17155文字
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俺がアイツでアイツが俺で!?
おわささんとシナリオ交換企画をさせて頂きました。
入れ替わりネタは想像しても書いた事は無かったので、面白かったです。
おわささん、素敵企画に乗らせて頂きありがとうございました。
1
2
3
4
夜の帳はとうに落ち、空に真っ二つに割ったような月が浮かんでいる。
明るいとも言えぬが暗いとも言えぬ中途半端な月明かりの下で、如何にも怪しげな影が蠢いていた。
「ふん、小物だな」
とりあえず文句を付けたのは、西南武神である玄真将軍だ。
腕を組んで睥睨する様は、斬馬刀の錆にする価値すら無いと言わんばかりである。
隣に立つ東南武神南陽将軍こと風信も、それは概ね同意見ではあった。
少なくとも、上天庭でも上位とされる武神二人掛りで対応しなければならないような相手では無い事は確かだ。
ここ最近、南方ではとある祈願が相次いでいた。
人が唐突に別人のようになる
………
いや、当人が、ある日いきなり「私は別人だ」と言い出すと言うのだ。
実際、見た目はどう考えても当人そのままだが、言動があからさまに異なる。
気が触れたのかと思いきやどう見ても正気だし、かと思えば友人知人どころか自分の家族や恋人の顔まで分からなくなってたりする。
これは妖魔鬼怪の仕業だと、人々はこぞって神に助けを求め始めた。
その判断は間違っては無い。そんな超常現象を起こせるのは、神か鬼である。
信徒の祈願は天庭に届き、神官が派遣される事となった。
問題は、その妙な現象は東南と西南両方で起きていた事だ。
東南武神の南陽将軍と、西南武神の玄真将軍。
偉大なる武神を二人も派遣するのはあまりに大仰だが、どちらか片方を派遣すれば、もう片方の面子を潰す事となるのでは無いか?
二人の武神は優れているが、同時に互いにだけは絶対に何があってもどんなに些細な事だろうと負けたく無いと言う強い意志を秘めていた。
どちらが派遣されるか決めるのに仙京を半壊されては堪らない。
ならば、二人とも派遣してしまった方がマシだろう。
本人達の意思はさて置かれ、南陽将軍と玄真将軍は一緒に謎の現象の調査と解決に乗り出す事となった。
何で本人の意思がさて置かれるのか理解出来ないが、任務は任務だ。
霊文殿に延々と文句を言う慕情と共に人界へと向かった。
原因は呆気なく判明した。
東南と西南を隔てる峠に鬼が巣食っていたのだ。
峠を行き来する人間を襲っていたから、東南と西南に被害者が出ていたわけだ。
と言うわけで、夜を待ち、鬼を待ち伏せていたのだが
……
こんな所でコソコソ人間を襲っている鬼の等級が高い筈が無いとは思っていたが、いざ目の前に現れた鬼は、風信と慕情どちらが倒すか喧嘩する価値も無い程弱い鬼だった。
が、人で在った頃から生粋の武人であった風信は、相手を侮る事もまた好きでは無い。
『狮子搏兔』
獅子は兎を狩るにも全力を尽くす
と言うが、舐めてかかれば厄介な事になる。
不運体質となった太子殿下と行動を共にするようになって、一層身に染みている事であった。
「さっさと片付けるぞ」
低く促すと、玄真将軍こと慕情は煩わしそうに眉を上げた。
「指図するな」
「やる気が無いなら、お前はそこで見てろ!」
「お前こそそう無駄に力んでは、失敗するぞ?」
「失敗なんかするか!あんな“凶”にも満たない鬼相手に!」
潜めていた声が、競うように大きくなって行く。
南陽将軍と玄真将軍は優れた武神である。
ただし“個々では”と言う前提では。
凄まじい神力を持った武神が二人、今にも殴り合いそうな気迫で怒鳴り合っていれば、どんな愚鈍な奴でも気付く。
本日の獲物を待ち構えていた鬼はギョッとして振り返り、慌てて逃げ出そうとした。
「クソッ!逃げようとしてるぞ!?」
「お前の声が馬鹿デカいせいだ!」
「お前だって怒鳴ってるだろ!?」
視界の隅にコソコソと逃げ出す鬼を捉え、二人は互いに互いを罵倒しながら咄嗟に武器を構えた。
風信の弓矢と慕情の斬馬刀。
どちらがトドメを刺したのか、それは当人達にも分からなかった。
手応えらしい手応えも無いまま、鬼は月明かりの下で霧散した。
あまりに呆気ない終わりだった。
刀を抜いた事すら恥じだと言わんばかりに、慕情は愛刀を収納すると鼻を鳴らす。
「フン、お前が来る必要も無かったな」
「お前だってそうだろう!?」
弓を仕舞いながら風信も吐き捨てる。
足音荒く近寄ってくる風信に眉根を寄せ、慕情は吐き捨てた。
「無駄足も良い所だ。この後の茶屋はお前が奢
……………
」
歩き出した慕情の足先が何かに当たった。
カシャン、と軽い音がする。
「ん?」
確かめようと目を眇めた瞬間。
突如、辺りに閃光が満ちた。
「ッ!?」
「クソ
…………
ッッッ!!」
二人は咄嗟に腕で目元を覆ったが、視界が白く灼けつく。
どれくらい経っただろう。
まだ奥がズキズキと痛む目をそっと開く。
周囲は何の変哲も無い峠道で、側には顔を顰めた風信がいた。
「クソッ、何だ今のは!?」
風信が呻く。
慕情は自身の足元を見下ろした。
「知るか。多分、コレを壊したからだろうな」
破片と化した壺が落ちていた。
小さいが高級そうな白磁の壺で、軽く庶民の一年分の稼ぎは吹き飛びそうな品だ。
しかし、何千の廟を持つ慕情にとっては簡単に補償出来る品である。
そもそも、こんな地面に落ちていた、誰の物かも分からない壺を壊した所で、誰に謝り弁償しろと言うのだ。
「お前な」
風信の呆れたような目を黙殺し、慕情は天を見上げた。
「さっさと帰るぞ」
「分かってる!」
長居をしても仕方が無い。風信も頷くと、二人は上天庭へと帰還した。
あまりに呆気なく、徒労としか思えない夜だった。
そして、朝。
不完全燃焼とも言って良い夜だったからか、いつに無く目覚めの悪い朝だった。
体が重いと言うか頭が重いと言うか。
あと寝心地が悪い。この布団の肌触りの悪さは、まるでアイツの寝所のようだ。
アイツの寝所のようだと言えば、この部屋の灯りの少なさ。香の一つも炊いていない、無骨さ。
玄真殿の寝所は、慕情自らが整えている。なので、それらが行き届いていないなどあり得ない。
昨夜、自分は南陽殿に泊まっただろうか?
慕情と風信は、私的な理由で互いの寝所を訪れる事が無いとは言え無い間柄だ。
古くからの知人でもあり、『疲れたから寝所を整えるのが面倒』くらいの理由で寝床から家主を叩き出す事も、まぁあるだろう。
記憶に無いが。
にしても、やけに熱い。
慕情はどちらかと言うと冷え性だと言うのに、やけに体に熱がこもっている。
熱でもあるのだろうか?しかし、気怠いと言うよりむしろスッキリしていて
……………………
「どう言う事だ?」
すぐ間近で声がした。思い描いていたこの寝所の主の声で、奇しくも慕情が呟いた内容と一言一句同じだった。
アイツと共寝していたのなら、熱いのも納得だ。
しかし、隣に寝ていたのなら、もっと早く気付いていても良さそうな物だが。
「
………………
いるのか?」
恐々とした声が聞こえた。
何だか違和感があるが、風信の声だ。
しかし、見回しても奴はいない。
なのに、声は至近距離から聞こえる。それはもう、耳元どころか直接脳内に吹き込まれているような近さで響いている。
「
……………………
」
慕情は沈黙した。このまま二度寝してしまうべきか本気で考えていたら、ドタドタと足音がした。
バン!!と、自室のような無遠慮さで戸が開かれる。
「おい、お前!!起きてるか!?」
部屋に飛び込んで来たのは“玄真将軍こと慕情”だった。
髪を振り乱し、寝巻きのままで、狼狽した表情でベットに向かって突進してくる。
「
…………………
お前、何の冗談だ?」
また“風信”の声が言った。
慕情そっくりな、軽蔑の籠った冷ややかな物言いだった。
“慕情”の顔をした奴は、ベッドに身を起こした慕情を、まん丸に見開いた目で凝視した。
「お、おま、おま
……………
慕情か?」
“慕情”が慕情を指差した。
慕情は顔を顰める。
「当たり前だろう。お前こそ、風信か?何でそんな姿をして
……………
」
どう考えても、慕情の言葉は風信の声で響いている。
かなり気は進まなかったが、慕情は恐々と自身の手の平を見た。
無骨な手だ。
剣も弓も扱う手の平は、傷もまめも沢山刻まれており、慕情の手の平よりも皮が厚く硬い。
肌も、日によく焼けた小麦色だ。
慕情は“慕情”を見上げた。
柄でも無く見開いた目に、唖然とした“風信”の姿が映っていた。
「
………………………………
どうてこうなった?」
“風信”の声が呟いた。
“慕情”の声が「知るか!俺が知りたい!!」と吐き捨てた。
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