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もち粉
2025-06-28 08:53:09
5666文字
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歌えカナリヤ、告げよヒバリ 中
シスヒスの話
シスヒスの過去を捏造してます
あとミスさんの隊を運営してます感を出したかった
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「隊長、そろそろご飯にしましょうか」
「食欲がない」
ミスルンの分の夕飯の膳を運んできたシスヒスは、いつもの返事は黙殺して膳を床に置くと、金色のスズランのような鈴を取り出して振った。
チリーン
……
「ご飯を食べて。私の足元に跪いて、犬のように」
術にかかったミスルンが、カタリとペンを机に置くと立ち上がり、シスヒスの前までふらりと歩いて来る。
いくら船内で一番立派な隊長の執務室といえども、所詮は船の中。窓枠に腰掛けるシスヒスの元まで三歩ばかりの距離だ。
ミスルンはゆっくりと四つん這いになり、床の皿に直接口をつけて食べ始めた。その瞳には屈辱も愉悦も、何の感情も浮かんでいなかった。
シスヒスは足元のミスルンを、つまらなそうに眺めやる。
獣のように皿から料理を舐め取る姿は、無様でありながらも、どこか高貴な猛獣のようだった。
ミスルンの担当囚人でありながら、世話係という名目で彼を思い通りに操るのは、最初のうちは楽しかった。本来看守の許可がなければ使えない魔法を自由に使えるのもよい。
鍛えた体躯の、中年に差し掛かる年齢の男に、ドレスを着せたり、ぬいぐるみに囲まれたベッドに寝かせてみたりした。だが、ミスルンの反応が薄すぎる。嫌がらせというのは、相手が嫌がり、屈辱を感じなければ意味がないのだ。
ミスルンの担当囚人仲間であるオッタは、自分のしている事を知った時、「ドン引きなんだけど」と引いた目をしつつも「ま、あの人相手に、いつまでそんな事続けられっかな?」とニヤッと笑ってみせたのだった。
確かにもう飽きた。シスヒスはミスルンのあごの下に足を差し入れ、くい、と上を向かせる。食べるのを中断したミスルンは、茫洋とこちらを見つめてくるばかりだった。
「言いなりが過ぎるのも、楽しくないものね
……
」
その、在りし日の美貌の片鱗を残す顔を覗き込んでシスヒスが目を眇めた時、扉が鳴った。
コンコンとノックされたかと思うと、返事も待たずに開けられた。
「失礼します。ヴァリ家のパッタドル入室いたします。総務課より至急こちらの書類にサインを頂いてくるようにと
……
っキャー!」
最後のは、窓枠に腰掛け、男のあごを足で上げさせる女と、彼女の足元に大人しく這いつくばる男という見ようによっては、かなり淫靡なシーンを目撃した若い娘の悲鳴である。
潔癖な彼女らしく、顔をゆがめて一歩後ずさったが、シスヒスの手にする鈴を目にして、事態を把握したらしい。
「貴様! 隊長に何をしている!」
駆け寄ってミスルンの両肩を掴むとシスヒスを睨み上げてくる。
「何って? 食事を取らせていただけよ。隊長たら術をかけないと、自発的に食べてくださらないから」
肩をすくめて悪びれない態度のシスヒスに、パッタドルが立ち上がって言い募る。
「このような事が人道的に許されると本気で思っているのか!?」
「人道的? 笑っちゃうわね、このカナリア隊で、そんな言葉を聞くなんて」
――
カナリア隊。それはこの迷宮調査隊の俗称である。むしろ世間ではこの俗称の方が知られ過ぎて、正式名で呼ぶものは、ほぼいない。
危険な迷宮に潜り、悪魔を探す彼らを炭鉱のカナリアになぞらえてそう呼ぶ。
ここは、使い捨ての囚人と、女王への忠誠を示すという名目で生家から見捨てられた看守たちの寄せ集めなのだ。
パッタドルとて三姉妹のうち、なぜ姉でも妹でもなく自分なのかと、親の愛に序列のあることを突きつけられたようで夜ごと枕を涙で濡らした。
自分の何がいけなかったのかと、どんなに考えても分からない。結局今は、逆に女王の要請に応えて差し出されたのが自分であったのは、自分が姉妹の中で一番優秀であったからだ、と思う事にしている。
だから。ここがカナリアの籠の中だとしても。
「例えここがどこであろうとも、このような非人道的な扱いは許されない!!」
シスヒスが不快げに右目をわずかに細めた。彼女が何か言葉を発する前に、幻覚術にかかっていたはずのミスルンがすっと立ち上がる。
「急ぎの書類だな、見よう」
「あ、はい。こちらにサインをお願い致します
……
」
そのまま何事もなかったように机に向かうミスルンに、毒気を抜かれたパッタドルが書類を差し出す。
無事にサインを貰ったパッタドルは、「失礼します」と出ていく際に、もう一度シスヒスを睨んでいった。
――
生意気な小娘!
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