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来羅
2025-06-23 18:03:00
6421文字
Public
トワウォ
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いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く その1
ふせったーに書いていたもののまとめ。5個ずつ。風信編。
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5.竜巻の子
バン、と大きな音を立てて理髪店の扉が開いた。
店内にいる誰もが一瞬にして扉を振り返り、そして沈黙し、何事もなかったかのように騒めきの中に戻る。
その中で唯一、流れについていけなかった洛軍は、目をぱちくりとさせて店内に押し入ってきた男
――
藍信一を見た。
「もう月末か
……
」
「月末?」
隣に立っていた四仔が溜息をつく。わざわざ薬を届けに来てやってみれば、最悪のタイミングに来てしまったようだった。
見ていればわかる、とだけ答えた四仔に、洛軍は信一と四仔と視線を行き来させる。
いつもの信一であれば、洛軍を見ると軽く手を上げて「お、やってるな」と笑うし、何よりここは理髪店だ、彼の視線はまずは店主に向かうはずだった。つまり、龍捲風へと。
しかし入口で下を向いたまま肩で息をする信一は、洛軍に気づくこともなく、ゆっくりと上げた顔には死相が出ている。
「信一!?」
据わった目の下にはクマが濃い。手入れを欠かさない髪は跳ねている。笑わない瞳でにこりと笑った唇は歪にゆがんだ。
「だ、い、ろ、う」
甘えたような、浮かれたような、上機嫌の声はなぜだか怖い。それを聞いた龍捲風の肩がびくりと跳ねたのが視界の端に映る。
「見ぃつけたァ」
どうした、と問う間もなかった。
一瞬にして間合いを詰めた信一が龍捲風の背後を取り、その両腕でがばりと抱き着く。そして強張る背中に顔を埋めると、すぅはぁすぅはぁと匂いを嗅ぎ始めた。
「
………………
ええと、信一はなにを?」
「龍捲風吸い」
「
……
もう一度?」
「龍哥を吸ってる」
端的に答える四仔の言葉がよくわからず、呆けた顔で首を傾げる。
吸う?
なにを?
龍哥を?
なんで??
疑問符ばかりを浮かべる洛軍があまりに可哀想に思えたのか、答えをくれたのは三姑だった。
「月末になると帳簿の〆でしょう。忙しさに限界を迎えると、ああして龍さんを吸いにくるのよ」
丁寧に、たぶん、説明してくれたのだろう。が、やはりその意味がわからない。結局のところ四仔を振り仰いだ洛軍に、四仔は大きな溜め息で返した。
「信一が変態だって話だ」
「そこ! 聞こえてんだからな!!」
びしりと指を差して振り返った信一だが、両腕は未だに龍捲風の腰に回されたままだ。そして龍捲風は身動ぎひとつしない。
「俺は! 英気を! 養ってんの!」
「
……
龍哥で?」
「そう! こう、煙草とかパーマ液とか髪とか体とか汗とか大佬の匂いがあるだろ!」
力説する信一に、四仔がうわぁと顔を顰めた。
洛軍も少し、いや、だいぶ、引き気味だ。
肉体労働の洛軍と違って店内からそう動かないとはいえ、城砦内は蒸し風呂のように暑い。もはや、熱い。涼し気な顔をしている龍捲風とて例外ではない。
「ええと、ふたりは、そういう?」
「親子だ」
「
……
ええと、それは」
「親子だ」
にべもない四仔の説明に、そうか、と頷いた。頷くしかなかった。
『普通』の親子も『普通じゃない』親子も実感としてはわからない洛軍だが、これが『普通じゃない』ことくらいはわかった。親の匂いを嗅いで安心するのは赤子くらいだ。
ということは。
ああ、つまり。
「赤ちゃん返り?」
呟けば、ぶはっと四仔が吹き出し、三姑が声もなく引き攣り笑いをしている。思わずといったように笑いを堪えた龍捲風もまた「すまない」とだけ言って顔を背けた。
「ろっぐわん~~~~~!」
「え、いや、大丈夫だぞ、信一。お前はちゃんと愛されてる」
「知ってるわ! って、違ぇぇ!!」
どたばたと追いかけっこが始まった店内で、四仔はこっそりと避難しながら、龍捲風へと生温い眼差しを送る。
「あんたがしっかり領収書を出せばこんなことにならない」
「あら、龍さん、わざとでしょ? 甘えられて嬉しいからって、いつまでも苛めちゃだめよ」
「
……
龍哥」
ふたりに詰められて「いやぁ、ははは」と空笑いを返してそっと目を逸らした龍捲風は、旗色の悪さから居心地悪そうに店内の奥へと逃げていった。
竜巻の子はあらゆるものを巻き込んで今日も騒がしい。
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