来羅
2025-06-23 18:03:00
6421文字
Public トワウォ
 

いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く その1

ふせったーに書いていたもののまとめ。5個ずつ。風信編。


4.だいじょうぶ



……ごうごう……
 額にぺとりと冷たい何かが乗せられて目が覚めた。
 熱い。体の中が煮えたぎるような熱さに、吐き出す息が薄闇の中でも白く濁る。
 身動ぎすれば、額の冷たい何かはすぐに温くなって重みはなくなった。
…………ん、」
 ただの風邪だ。
 風邪など滅多に引くことはないが、忘れた頃に酷いのを貰ってしまうことはある。城砦という狭いところで発生する流行病は、すぐに爆発的に広がるために、いかな龍捲風であろうとも今回は逃れられなかったらしい。
 ぼうっとする頭で今は何時頃だろうかと思う。
 なんとか目を開ければ、漏れる光は薄い。まだ夜明け前なのだろう。
「哥哥……?」
 それは小さな声だった。けれども龍捲風がその声を聞き逃すことはない。
 怠い体をどうにか横向きに体勢を変えれば、高いベッドの横で精一杯手を伸ばす愛し子の姿があった。
……信一……?」
「哥哥、だいじょうぶ?」
 濡れた手が再びぺとりと額に乗せられる。氷のように冷たい小さな手の平は、熱い額には気持ち良い。が、ほうっと息を吐いたところでハッと我に返った。
「信一!」
 額の手を掴む。龍捲風の熱が移った手はすでに温くなっていたが、まだ手首は冷たい。ギョッとして手を離して体を起こせば、この寒い中で上着を一枚羽織っただけの子供は、どこから持ってきたのか、盥に張った水に自らの手を浸していた。
「哥哥、きもちい?」
 ことん、と小首を傾げる信一は鼻を啜りながらへにゃりと眉尻を下げる。そうして冷たくなった手の平をまた龍捲風へと伸ばすので、思わず言葉を失った龍捲風はその細い体を抱き竦めていた。
 いつからここにいたのだろう。
 服も肌も氷のように冷たい。
 その冷たさは熱のある体には心地良く、けれども少しでも温めようと掻き抱く。胸が詰まって鼻の奥がツンとした。なんてことをしてくれるのか。
「くるしい、哥哥」
……部屋を抜け出してきたのか?」
 風邪が感染ると困ると、信一は早々に龍捲風から離されて部屋に閉じこもっていたはずだ。
 早く部屋に戻さねばならないと頭ではわかっているのに、未だ冷たいままの素足を龍捲風の太腿あたりにくっつけて「あったかい」などと言う信一を見ていると、そのまま抱き込んで毛布に引っ張り込んでいた。
「哥哥、ないてるの? くるしい?」
……信一がいてくれれば苦しくないよ」
「おれも、哥哥がいるとくるしくなくなるから、哥哥がくるしいときは、おれがそばにいるよ」
 幼子は得意気に笑う。
 こんなにも心を愛しさで満たしてくれる存在を、龍捲風は知らなかった。こんなにも、人を愛おしく思えるのだということもまた。
「信仔、信一、ありがとう」
 抱きしめて、こんなふうに礼を言うのも初めてかもしれないと思った。

 そんなことも、確かに、あったのだ。