来羅
2025-06-23 18:03:00
6421文字
Public トワウォ
 

いいねされた数だけ書く予定のない小説の一部を書く その1

ふせったーに書いていたもののまとめ。5個ずつ。風信編。


3.もうひとりの……



 似ている。
 といっても、少し若い。
 まだ髪は黒々としているし、薄い色のサングラスに隠れた鋭い目つきは油断なく、精悍な体つきも節くれ立った太い指も、何もかもが龍捲風その人だというのに、信一はひくりと頬を引き攣らせて息を呑む。
「どうした、信一?」
 声、は同じだ。
 けれども信一のよく知る男はもっと柔らかく養い子の名を呼ぶのだ。
 だから信一はあと一歩が踏み出せずに、理髪店の入り口で立ち竦んでいた。
 誰だ、と思う。
 思うが、同時にこれは敬愛する養父だともわかっている。
「大佬」
 確信を持って呼んだ声は、それでも掠れた。
 ゆっくりとバーバーチェアから立ち上がった男は軽く手を広げておかえりと目を細める。
 ああ、でも威圧感は違う。
 薄く笑んだ唇は酷薄だ。信一の龍捲風はこんな笑い方はしない。
 これは誰なのだろう。
 いつもと同じように帳簿付けを終えて信一は七記冰室を後にした。時間が許す限り、龍捲風とは夕食を共にしている。今夜は店仕舞いも遅く、有り合わせで作るよりは好きなものを買って帰って、ゆっくり家で食べようと提案したのは龍捲風だ。
 ここ最近の暑さは信一ですら堪える。あっさりめの海老雲呑麺がいいか、いや、こういうときこそガッツリ牛肉煲仔飯も捨て難い。そんなことをとりとめもなく考えていたような気がする。勝手知ったる城砦内、七記冰室から理髪店へは目を瞑っていても辿り着ける。顔見知りしかいない住人たちと通りすがりに世間話もしながら、やはりこの時期のシメは西瓜か、なんて。
 扉を開けた瞬間、その違和感に手が止まった。
 その人以外に誰もいない店内。
 バーバーチェアに背を預ける見慣れたはずの見慣れない男。
 そこが己の居場所だと決めたにしては、あまりに浮いている、その違和感。
「大佬こそ、どうしたの」
 頬を緩めて信一はようやく足を踏み出す。
「寝てしまっていたようだ」
「疲れてるんだよ」
「お前が言うのか?」
「俺は、こう見えて頑丈なの知ってるだろ?」
 軽口を叩いて、正面に立った。
 少しだけ、背も高いかもしれない。
 ほぼ変わらない目線が、いつもよりほんの少しだけ上向く。
「よく知っている」
 頷く男は懐かしむように笑んだ。そうすれば意外なほど瞳が柔らかくなる。愛おしむ眼差しは変わらない。
「それで、」
 僅かに眉尻を下げた男が、信一を見下ろして首を傾げた。
「俺の藍信一はどこだ?」