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かずきち
2025-06-18 00:17:56
7038文字
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アオハルまとめ
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2
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4
今日もわが漫画研究部は賑やかしく、皆で漫画を読んだり描いたり思い思いに部活動を楽しんでいた。俺も入りたての時は漫画を読んでばっかだったけど最近は部員らしく部長や他の部員の創作活動のお手伝いなんかをしていて、元々デザインとかするのは好きだったのもあって結構充実した毎日を送れていた。
「あっ、もうこんな時間だ」
一区切りついて時計を見たら下校時刻が近付いてきていた。そろそろ行こうかなと荷物をまとめてると隣に座ってたナオが俺に気付く。
「恋、もう帰り?」
「うん。まあね」
「最近早くない?いつもギリギリまでいたのに」
「そ、そう?」
言われてギクリとする。自由なタイミングで帰って良い方針の部活だからいつ帰ろうが気にする事ないのに、出会ってまだ一年も経ってないけどナオってば勘が鋭い。実際最近いつもよりはやく部活を切り上げる事が増えて来ているのは確かで、というのもつい先日人生初のお付き合いというやつを始めた訳でして。部活は違うけど時間を合わせて一緒に帰るようにしているのだ。
「あー!ほら!やろうと思ってたとこまでは終わったからさ!」
「ふーん」
それらしい事を言って誤魔化してみたら納得してくれたのか、足をプラプラとさせながら自分の机に向き直っていくのにホッと一息つく。ナオはナオで隣の部室から迎えが来たりする日もあるから、それ待ちなんだろうな。
ほんわかした気持ちになりながら机に広げたものを回収する。カラーペンとシャーペン
……
あとは消しゴム、と順番にペンケースに入れていると手が滑って消しゴムを床に取り落としてしまう。跳ねて机の下の方へ吸い込まれていったのが見えた気がしたから椅子を引いて見てみるけれど机の下は絶妙に暗くて見つからない。
「あーあやっちゃったなあ」
覗いてダメならとしゃがんでよく見てみるけど長机を並べて作られている大きな作業スペースは、机の下ももちろん広かった。うう、仕方ない。ぱっと見見当たらない消しゴムを探す為に、俺は四つん這いになって机の下へと旅に出た。
キョロキョロ見てるとナオの上履きが見える。直助じゃなくておっきくナオ、って書いてあるのがナオっぽくて面白い。絶賛修羅場中の麗奈先輩の足元には試行錯誤の結果か消しゴムのカスがたくさん落ちてたり、足組んで漫画読んでる翼先輩とかとか。普段潜り込むことの無い机の下の景色は結構楽しくってプチ旅行を満喫しているとふと恋、と名前を呼ばれる。
なんだなんだと振り返るとそこには郁先輩がいた。膝を抱えるようにしゃがみ込んで、こちらを覗いている。
「
…………
!」
「なにしてんの?」
まだ部活中の筈の人の、そりゃもう急な来訪にびっくりしすぎて声も出せずにいたらすっごいまともな質問が飛んでくる。皆が使ってる机の下で一人四つん這いの、俺。わあ。
「
……
消しゴム落としまして」
「消しゴム?って、これ?」
「あ」
灯台下暗しってあるんだなあと、俺が座ってた椅子のすぐそばに落ちてた消しゴムを先輩がつまみ上げるのを見て、昔の人が作ったことわざの凄さに感心しながら込み上げてくるなんとも言えない恥ずかしさを抱きつつこくこくと頷く。いや、楽しかったよ小旅行。でももうさようなら小旅行。
ありがとうございますとお礼を言いながらハイハイの状態で近寄って行くと出口で待ってる先輩がクスクスと笑ってる。
「郁先輩こそ、そもそも何でいるんですか!部活は!」
堪えもせずに笑われてるのに余計恥ずかしくなって耐えられずにぷんすかしながら聞くと、消しゴムを手で遊びながら返事が返ってくる。
「先生の都合で早く終わったから迎えに来たんだよ。そっちもそろそろ終わりだろ?」
「まぁ
……
そうですよ。片付けたら行こうと思ってたところに、これです」
「随分弄ばれたね」
この格好が結構ツボに入ってるのかずっと笑いっぱなしの先輩は、辿り着いた俺の目の前にまるで「お手」とでも言わんばかりに消しゴムを乗せた手の平を差し出してきた。弄ばれてるのは先輩にもなんですけどね!?
「どうも」
四足歩行をやめて膝をついて、仕方ないので遊びに乗っかってその手の平に自分の手を乗せてお手をされてあげるとギュッと手を握られた。予想外のスキンシップにびっくりして引っ込めようとしたけど思ったよりしっかり握られてて離してもらえなくて、思わず顔を見上げてしまうとさっきと変わらない笑顔と目が合う。しかもなに?と言わんばかりに首を傾げられてしまった。なに?はこっちの台詞なんですよね!つられて作ったぎこちない笑顔で返すと、目を細めた先輩がそのまま手を後ろに引いた。つまり俺はそれに合わせてずいと先輩側に引っ張られている訳で。あれ、もしかして外に出るの手伝おうとしてもらってるのかと気付くけど、でも体勢的にちょっとキツいんじゃないかと思う。
どうするんだろうと手の行く末を見ていた視線を先輩へうつしたら顔が目の前にあった。考えたら引っ張られたんだから距離が近くなってるのは当たり前なんだけど、それを考えてなかった俺はちょっと緊張して身体に力が入ってしまう。こっちを見ている先輩の、瞳の色がよく見える。
「ふふ」
中々ない近さについまじまじと眺めてしまっていると小さな笑い声が耳に届いて、瞬きをしたら、その瞳がもっと近付いてきていて。何が起こってるのかよく把握できていないままスローモーションのように見える先輩の動きを追っていたらふに、と柔らかい感触が唇に当たった。何が触れたのかは確認しなくても分かるんだけど、それはつまり今俺は先輩と何をしているという事なのか、という事で。
それを思った瞬間ぎゅっと目を閉じて息まで止めてしまった。でもそれも止めた呼吸が苦しくなるよりも早く離れていって、他の部員にバレたらどうするんですかとか、そういう抗議を考える暇もないままに元の距離に戻った先輩にするりと頬を撫でられた。恐る恐る目を開ければさっきと変わらないいつも通りの先輩が、
「はやく行こ?」
と何もなかったかのように今度は優しく繋いだ手を振る。そんなあっけらかんと言われても困っちゃうんだけどな!俺のドキドキはどこへやったらいいんですか。
自然な流れにこれが二年の人生経験の差ってやつかとちょっと悔しくなる。
「ねえちょっと。俺のはじめて。良いんですか、こんなトコでしちゃって」
恨めしげに小さく囁くとえっ、と驚いた声がしてどんどん耳が赤くなってくのが見える。なんて事のないようにしときながらこっちが初めてだって知ったら照れるのかこの人は!
人と付き合うのが初めてなんだからはじめてなのは当たり前じゃないですか。追い討ちをかけるように続けると、さっきの俺の声よりもっと小さい声でごめんと謝られた。
バスケ部部長の威厳やら頼れる感じはどこへやら、下がった眉毛が仔犬みたいでキュンときてしまったチョロ過ぎる俺はしょうがないなと思いながら申し訳なさそうにしてる先輩の名前を呼ぶ。
「郁先輩」
「うん?」
神無月先輩、からレベルアップしたこの呼び方は呼ぶ度にこの人の特別になったのだと言う感じがしてしまってそわそわする。そんな俺の心中を知ってか知らずか、呼ばれた本人はなつっこい表情でなあにと返してくるのだからズルい。さっきまでの反省はどうしたというんだ。
「やりなおしてくれたら良いですよ」
「やりなおし?」
「ですです。さっきのやりなおし」
「と、いうと」
「も一回して下さい。俺の、はじめ、て」
「
……
お望みのままに?」
恥ずかしくなり過ぎて最後の方は言葉になってなかったけれど、汲み取ってくれたようで向こうも嬉しそうな、照れたような顔をしてくれた。それで余計に恥ずかしくなっちゃって動けずにいたら繋いだままだった手を引かれて勢いのまま暗がりから飛び出した。ただいま地上。二本の脚で大地という名の床を踏みしめた俺は手に消しゴムを握りしめていた。違う、そうじゃなくて。呆然と手の平の消しゴムを眺めていると少し上から声が降ってくる。
「先に下駄箱行ってるから片付いたらおいで」
返事をする間もなくポンポンと俺の頭を撫でて先輩はさっさと部室から出て行ってしまった。ついやり直しを要求してしまったけれどそれって今日この後すぐなんだろうか。もう一週間くらい心の準備が欲しいんだけど駄目かな。
……
だってさっきのを思い出したらあれをもう一回とか無理でしょ!ペンケースをリュックに詰めながらじわじわ蘇ってくる唇の感触に両手で顔を隠して気持ちを落ち着ける。した?俺、本当に、郁先輩と?ぐるぐる一人で百面相しながら帰る準備を今度こそ終えた頃に我らが部長の叫びが部室に響く。
「ねえねぇみんな、アイデア貸して〜!白馬の王子様ってどの辺まで迎えに来てくれると思う?きっかけは斬新なやつにしたくって!」
鉛筆を握りしめた麗奈先輩の姿を見て、リュックを背負って椅子をしまった俺はちょっとだけ考えて、答えた。
「机の下とかじゃないですかね」
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