Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
usagipai
2025-06-04 21:52:38
8912文字
Public
Clear cache
ユスひの
1
2
3
4
空が震えた。
地の底から浮かび上がるような光。風。ざわめき。
そして、どこかで聞こえる声。
《
……
ひので
……
戻れ
……
ここは
……
過去
……
》
「え
……
?」
ユースティスの姿が、光に飲まれていく。
「ま、待って!!」
掴んでいた手が、離れていく。
ひのでは叫んだ。
「もう少しだけ
……
!」
それでも、光は容赦なくひのではを包み込んで──
白い天井だった。
冷たい石の床。微かな香の煙。
ひのでは、はっと息を飲んで身を起こす。
「
……
神殿、だ」
寝台の上。シーツは乱れ、額には冷たい汗が流れていた。
隣の部屋では神子たちの気配がある。夜はとっくに明けていた。
でも。
(ユースティス
……
)
夢の中で見た彼の姿が、まぶたの裏に焼きついていた。
血まみれで、優しく笑って、儚く消えかけていた男。
(あれ
……
なんだったんだ?)
夢
……
じゃない気がする。
心臓がまだ、戦場にいた時のまま暴れてる。
鼓動を抑えきれないまま、部屋を出た。
ユースティスは、ちょうど中庭で訓練をしていた。
いつも通り。真っ直ぐで、冷静で、厳しくて。
ひのでは、その姿を見て
――
脚が止まった。
(あの時の
……
あの顔で笑ってる)
傷一つなく、綺麗な姿で剣を振るう彼が、信じられなかった。
「
……
夢、だったのか?」
だけど、どうしてもそうは思えなかった。
(あんなに苦しそうな顔、あんなに
……
優しい目、見たことなかった)
呼吸が浅くなる。声が出ない。
けど、彼はふとこちらに気づいた。
そして
――
「
……
ん?」
眉をひそめて、静かに近寄ってくる。
「ひのでか
……
どうした?顔色が悪い」
普段と変わらない声音。だけど、
ひのでは思わず一歩下がった。
(違う、“普段通り”にしてるだけだ)
声も表情も丁寧なのに、胸の奥が騒ぐ。
あの夜のこと、あの戦場のこと、何も知らない“ふり”をされているような
――
「
……
俺さ」
たまらず、口を開く。
「
……
あんたの、剣の振り方、どこかで見た気がするんだ」
ユースティスの目がぴくりと揺れた。
「
……
そうか?」
「
……
昔、誰かを守るために剣を振って、ひとりで全部背負って、血まみれになって
――
それでも誰かを助けようとしてた、そんな人を見た」
「
…………
」
言いながら、自分でも涙が出そうになるのが分かった。
「夢だったかもしれない。でも
……
もし、ほんとに過去があって。俺がそれを見てたとしたら」
ユースティスは静かに聞いていた。表情はまるで変わらない。
だけど、ひのでは分かった。
呼吸が、浅くなっていた。
「
……
ひのでは、時折
……
とても不思議なことを言うな」
「
……
俺もそう思うよ。でも、なあユース」
ひのでは、もう一歩だけ近づいた。
「もし過去に苦しんでたならさ。今はさ、ちょっとぐらい誰かに頼ってくれよ」
その“誰か”が、俺であってもいいんだ。
――
と、言葉にする勇気までは出なかったけれど。
ユースティスは目を伏せて、小さく笑った。
「
……
神に仕える者は、強くなければならない。私はそう教わってきた」
「
……
じゃあ今からは俺が教えてやるよ。神に仕えてる奴でも、弱っていいし、泣いてもいいって」
沈黙が落ちた。
朝の光が差し込む中で、
彼の瞳に、ほんのわずかな“揺らぎ”が生まれたのを、ひのでは見逃さなかった。
その日、ユースティスは訓練場にひのでを呼び出した。
「昨日の件について
……
話がしたい」
表情は相変わらず堅い。
でも、どこかいつもより“迷い”が滲んでいる気がした。
ひのでは無言で頷いた。
「
……
君が見た夢についてだが、私にとっても全くの他人事ではない気がしている」
ユースティスは、剣の柄を見つめながら口を開く。
「私には“過去の記憶”がない。生前、どこにいて、誰だったのか
……
ジュピター様に神子として呼ばれた時、すべてを忘れていた」
その声音は、普段の彼からは考えられないほど静かで、人間的だった。
「でも時々
……
ふと、夢を見る」
ひのでは目を見開く。
「夢?」
「そう。“誰かを守ろうとして、間に合わなかった夢”。剣を振って、必死で誰かの名前を呼んで、それでも
……
届かない。間に合わない。そんな夢ばかりだ」
ひのでの胸がぎゅっと締めつけられた。
(それ
……
俺が見た、あの戦場のことじゃねえのか)
ユースティスは、ふっと息を吐く。
「君の言う通りなのかもしれない。君は、僕の過去を“見た”のだろう。
……
誰にも見せたくない、哀れで、未熟で、どうしようもなかった“かつての自分”を」
その声には、ほんの僅かに、震えがあった。
「俺さ
……
その“かつてのユース”を見たからって、幻滅とかしなかったよ」
ひのでは正面からユースティスを見据える。
「むしろ、“そいつ”を知って、今のお前のことがもっと分かった気がした。だからって、何かが変わるわけじゃないけど」
少し照れくさそうに、でもまっすぐに。
「それでも、俺は知ってよかったって思ってる。
ユースが、そんなにも必死に誰かを守ろうとしてたんだって」
ユースティスの肩が小さく揺れた。
そして
――
「
……
ずるいな、君は」
ぽつりと、彼が呟いた。
「誰よりも軽やかに、真っ直ぐに言葉を投げる。迷いも恐れも、きっと抱えているのに、それでも
……
ひのでは、誰かに差し出せる」
その言葉に、ひのでは目を見張る。
「私にはできなかったことだ。昔も、今も」
「
……
だったら、今からやってみればいいじゃん」
「
……
え?」
「今から誰かに頼って、弱くなってみればいい。最初はうまくいかなくたってさ、それでも少しずつ“変わる”ことはできるって、俺は思う」
しばらく沈黙が続いた。
ユースティスは視線を伏せたまま、ひのでは見なかった。
けれど、その指先が、剣の柄を握る力を少しだけ緩めていた。
1
2
3
4
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内