かずきち
2025-06-02 00:37:28
4983文字
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夜っぽいのまとめ




 歯が当たる感触の後にちゅ、と軽い音が鼻から口へと降りてくる。吸われるような甘い痺れに似た感覚にぎゅうと一度目を瞑って感じ入っていると、その口付けは首へとだんだん降りていく。目を開けた恋は郁を抱きしめるように腕をまわしてから、空いている手で鼻をさすって先程の感触を思い出していた。

「どしたん、携帯?」

 横で眠そうにしている郁に気をつかって背を向けてスマホを見ていたのだが逆に気にさせてしまったのだろう、声をかけられる。

「んー、ちょっと調べ物」
「調べ物?」

 なんで今?と言いたげな聞かれ方に、見ていたスマホを後ろからでも見やすいようにズラして、見て良いよとアピールする。それを眺めていた郁は恋の背中にくっついて覗き込む。手を伸ばして、スマホを持つ恋の手ごと掴んで見やすい角度に変える。

「う、うわーーーー!?!?」

 画面を見た瞬間に思わず叫んでしまった郁はそれと同じ勢いでスマホをひったくる。耳元の大音量に怯んでいた持ち主から軽い抗議の声が上がるのだがそれすら届いていないようだった。

「ななな、何調べてんの!」
「最近よく噛まれるなーって思ってさ、どんな気持ちなのかなーって」
「俺に直接聞けばいいだろ!」
「聞けばって、郁絶対自覚ないでしょ!」

 それは確かになかったけど!と返事をしそうになるのをぐぐぐと堪えて郁は押し黙る。いや、自覚のある無しで言えば歯を立てていた自覚はあったのだが、郁としてはキスと同程度の戯れの感覚だったので噛んでいると言う意識は全く無かったのだ。そういう意味では自覚が無かったのは間違いないのだが、まさか天下の検索サイトに『恋人に鼻を噛まれる 心理』と入れられているとは思ってもみなかった。慌てて検索結果を見てみれば、ティッシュで鼻をかむ、や花粉症対策のようなものばかりで幸いにも恋が欲していた答えには辿り着いていないようだった。

「無意識の行動にこそ本性が隠れてるもんでしょ!郁くんのオオカミな部分を暴いてあげようかと思って」
「からかわないでよもう!」

 郁の慌てぶりに対して楽しそうにしている恋は特に噛まれるのが嫌で直して欲しいからというよりは単純に好奇心で調べていただけのようで、続きを調べたいからスマホを取り戻そうと寝返りをうって郁に向き直り無言で手を差し出す。その手の平を見ながらいくつか逡巡を巡らせて郁は一つの提案をした。

……俺が調べちゃダメ?」
「それじゃ意味ないじゃん!なんでよ!」
「いや……その」

 いつものノリで言えばスッと返してくれるだろうと思っていたのか珍しく歯切れの悪い郁に首を傾げる。心理テストみたいなものなのだから、なにも本気にする事はないだろうにと意図をはかりかねて更に近寄る。触れた素肌がほんのりあたたかい。

「気にする程じゃないのは分かってるんだけどさ、 万が一恋を傷付けるような結果だったらそれは本意じゃないな〜っていう……見栄がね」

 気にかけ方が相変わらずだ。ちょうど噛まれていた辺りを摘まれながら言われるとどれだけ大切にされているんだと逆に恋の方が照れてきてしまう。その気遣いに免じたい気持ちと、やっぱり消えない好奇心とがせめぎ合って、折衷案を取ることにした。恋は郁の腕を絡め取って彼の後頭部を枕に沈める。

「わっ」
「よしじゃあいっくん。一緒に調べよう」
「えぇ?なるほど、そう来たか……
「赤信号、みんなで渡れば怖くないの法則で」
「それはちょっと違うような」
「いーからいーから!!」

 二人で仰向けになって画面を眺める。 今までも色んな話を色んな風にしてきたけれど、いつも最後はこんな形におさまっている気がする。変わらないなと郁は小さく笑いながら検索の続きを進め始めた。


 あんなに面白がっていた恋が、検索結果を見て逆に悶える事になるのはまた別の話。